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ロズタリア大陸『聖魔戦争』その23

その22→https://note.com/akihi_gfl/n/ne0c417cfc64b

『公女アンジェリカ』

「この泥棒猫!!」
王太子であるシャールヴィ王子が正式に商業都市の宮殿で【王太子を辞退】
永久に継承権を放棄する宣言を行おうとしていた数日前。
腰まで伸ばした自慢の金髪をくるくる巻いた状態で、男性が一目見たら思わず視線がくぎ付けとなるほどの豊満な胸。
くびれた腰、すらりと伸びた細い足。
まるで絵画から飛び出してきたかのような絶世の美女が、真紅のドレスを着て不似合いな医務室に突然、やってきて鬼のような形相で、ローザを睨みつけピシャリと頬を打ったのだった。

この女性こそシャールヴィ王子、そして自分が生まれる前から結婚が既に決まっていた婚約者であり『大陸一の美女』と謳われている芸術都市の大公息女アンジェリカだった。
居合わせた男性医師達が、もめ事を認識して慌ててローザと彼女の間に割って入る。
「ちょっと!邪魔しないでよ!!」
まだ怒り収まらぬアンジェリカ公女が声を荒げて抗議する。
ローザはぶたれた頬を不思議そうに撫でさする
「あの……多分、勘違いされていらっしゃいますよ?
私にも、そしてシャールヴィ様ご自身も私と婚姻する意思は全然、ナイんです。
証拠に私は今回のお仕事が終わったら里に戻ります」
多数の医師に囲まれ、立ち往生しながらアンジェリカは眉間にしわを寄せていぶかしむ。
「あんたが唆した訳じゃない!って言いたいの?」
世間は王子はあんたを寵姫だと思い、噂してる。
そう指摘する彼女に、二人の仲を知っている男性医師の1人が証人めいた発言をする。
「ローザ様は当初、我々が普段、使用してる言語を全く知りませんでした。このままでは治療や日常生活に支障が出かねないのでしばらくの間、私達の言語や生活習慣など学ばれておられました」
その時の様子が誤解を生んだ。実際は公女が邪推しているような関係ではない!
「こういっちゃなんですが、ローザ様は毎日、わりと深夜遅くまで調合作業などなさっておられます。
そして、朝は誰よりも早く起きて作業の準備をなさってくださっています」
男女、睦まじく交流してる時間は、ほぼナイに等しい!!
そこに、たまたま患者として訪問してきた老婆が杖つきながら「邪魔だ」と主張する。
「ちょいと、ひときわ美人のおねえさん、邪魔だよ。そこどいて道を開けとくれ」
年を取り、骨が弱くなり、段差に躓いて骨折!治療中の老婆をみて、ローザが即座に対応した。
「あ、すみません。
本日治り具合を診る予定でしたね。
湿布薬などはもう出来ています」
椅子に座るまで「痛みはまだありますか?」など老婆に具合の状況を質問する。
「おかげさまで痛みは感じないねぇ~……」
ただ松葉杖つきながら歩くのが手間だと笑って答える。

複数の医師から言われ、真剣に働くローザの様子をみる。
流石にこの場は『勘違い』だと思い、引き下がざるをえない……
「ふん、ならいいのよ!邪魔したわね!!」
ならば!と、アンジェリカはさっさときびすを返してまだ婚約者であるシャールヴィ王子を直接、訪ねて真意を問い質せば良い!!
医務室から歩き去って行ってしまった。

「殿下~!お久しぶりです!!」
『そろそろ休憩でもするか?』
シャールヴィ王子は執務室を出て、食堂に行こうと思っていた矢先だった。
いきなり馴れ馴れしく抱きつかれてきて、久々の感覚に身の毛がよだった。
「お"、おぅ……来ていたのかアンジェ
遠路はるばる大変だったろう?」
ひとまず自分から引き剥がして、一定の距離を確保した。
アンジェリカ公女は便利な時代になった!
今まで来れなかったのは芸術都市での公演スケジュールがびっしり埋まっていて、なかなか訪ねる時間がとれなかっただけ!!
「本来ならば10日はかかる距離をほんの一時の時間でこちらに参りましてよ」
芸術都市と商業都市はお互いに協定契約を締結している。転移魔法であっという間にやって来れたのを自慢する。
訊いてもいない内容をペラペラ喋りだす公女をシャールヴィは生ぬるい眼差しで眺め、父親の所在を訊ねる。
「大公ご本人もいらしているのか?」
「いいえ、私1人だけです。
それよりも殿下~?
私は殿下のこと、お慕い申し上げておりますのよ?」
急な簒奪劇後も婚約破棄宣言せず、ずっと迎えに来てくださることを信じて待ち続けていた!と一方的にまくし立てて、釘を刺してきた。
「殿下……まさか、貴方様のことです。
大陸一の美姫と皆から称されている私……
一方的に破談!など突きつけて恥をかかせるおつもりはありませんわよね?」
図星をつかれ、シャールヴィ王子は若干、たじろいだ。
「立ち話も無粋だ……
アンジェ、部屋で二人、ゆっくり話をしよう」
ふふん♪
公女はご機嫌な様子でシャールヴィ王子の腕に自分の腕を絡ませて寄り添うような形で一緒に歩きだしたのだった。



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