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ロズタリア大陸『聖魔戦争』その28

その27→https://note.com/akihi_gfl/n/n07c0b11a38b4

『神器との付き合いかた』

「シャールヴィ様!」
彼はもう王太子ではなくなっていたものの、宮殿内で寝間着のまま、ひとまず陣頭指揮を取り地震による被害を捌いていた。
急ぎ駆けつけてくるシェドの声を聞き、訊ねる。
「お前、ローザを知らないか?
この騒ぎなのにまだ誰もみかけていない!っていうんだ!!」
瓦礫かなにかで身動き取れなくなっているのか?
案じるシャールヴィの腕を掴む。
「彼女ならこっちです!
住民の方々への指揮はひとまず、どなたかお願いします!!」
都市から北東に約数キロほど離れた洞窟の中!
そこに彼女は、パーティーの最中、密かに何者かによっていきなり腹を殴られ、気絶、倒れそうなところを介抱するかのような手口で、誘拐されていた。

宮殿の城門近くに用意していた二頭の馬にそれぞれ跨がる。
「私の後についてきてください!!」
シェドはそう叫ぶと、馬に鞭をやり、全力で走らせた。
「お、おう!」
『あれ?……俺、もしかしなくても、またなし崩し的に、なんか厄介事に巻き込まれようとしてる??』
懸命にシェドの後を追いはするものの、一瞬どうするべきか?迷いが生じる。
だが、彼女の身になにかあってからでは流石に可哀想過ぎる……
何か困っているような事態に陥っているならば、ひとまず助けてあげるのがいくら死神でも【人道的】かな?とも思い直す。

しばらく馬を走らせると、街道から少し離れた場所に向かった。苔が生えてジメジメとした洞窟らしき入口に辿りついた。
「こんなところにローザが?」
「ええ、間違いありません」
いぶかしむシャールヴィにシェドが用意した照明具をつける。
「時にシャールヴィ様、聖剣……ご自身でなく、ローザ様経由で里に修理を依頼されましたね??」
渡された翌日、早々にヘンテコな体験をして気味悪くなって預けていた。
「全く……少しはご興味を抱くか?
勇者ウィルヘルムの血がご自身の役目を呼び醒まし起こす可能性を期待したんですけどねぇ~」
修理が終わって自分に転移されてきた聖剣を本来の主へと無造作に放り返した。
シャールヴィ王子自ら聖剣に生命力を注ぎ続けて欲しかった理由を明かす。
女神の剣ガレス・スィード は闇の生物を滅する力を持つ破邪の聖剣です。
ただ物理的に斬るのではなく、滅びて塵となる様子を脳裏に思い描きながら振るってください。
本来ならば、修理中に当時の聖戦中、どう使っていたのか?
二千年前のウィルヘルムの映像を夢の中で受信して覚える仕組みになっていたんです」
「1日でリタイアして悪かったな、それならそう!と言ってくれれば……」
口を尖らせ抗議するシャールヴィに鋭くシェドが睨みつける。
「もっと真摯に聖剣と向き合ってくれましたか?」
数呼吸ほど己のもしも?を考えてみる。
「いや、こればっかりは分かんねぇわ……!」
『やっぱ気味悪くなって途中で結局、放り出してた可能性が高いかな?』
一瞬、ちらりと逡巡する。
シェドが軽く吐息を漏らし、こうなったらぶっつけ本番!実戦で使い方を学ぶしかない!諦めがちにぼやく。
「恐らく敵はローザ様をさらい、生け贄として捧げる儀式を行い始めている最中です。
彼女と同じ髪色をした守護者達は、恐らく続々と召喚されつつある魔獣達の殲滅と信者討伐に手一杯!
シャールヴィ様!
貴方はローザ様の発見、並びに間近にいる人間の首をさっき話した通り、塵になる様子を思い浮かべながら問答無用ではねて、彼女の救出をお願いします!」
「お前は?」
「多分、どうとでも立ち回れます!」
腰からいつもの扇子を手に取り、臨戦態勢をとる。
シャールヴィは『そんな柔らかそうな扇子だけじゃ、道中みかけた、変な一つ目の怪物っぽい生き物の一撃食らって終わりだと思うけどなぁ~……?』
軽く眉を潜ませ、声には出さず心の中で疑問を抱く程度に留めた。
疑念の眼差しを感じ取ったのか?
シェドがわずかに微笑み、扇は特殊な術を施してある金属製だと明かす。
「これ、実はホネの部分、白銀で作られているです。
そしてよぉ~く目を凝らしてみると女神の言語ガレス・スフレクト で破邪の呪文を刻んで貰っています」
工芸職人にお願いして作って貰った特別製だった。
「大型な使い魔は無理でも、狼程度なら一撃で滅することが出来るんです」
疑うなら、彼女を救出がてら直接、走りながらでも横目で光景を確かめるといい。
そう冷やかして、急に真顔に戻り声をかける。
広場らしき場所が近づくにつれ、金属が呟ぶつかりあう剣戟の音がきこえだしてきたのだった。
「さぁ、行きますよ!!」

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