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四畳半神話体系を読んで……

 たくさんある蔵書の中で、このコンテストの課題作品はないと以前書きましたが、ふと本棚をみれば、誰かが私の為にと書店(B)で購入してそっと置いてくれた、四畳半神話体系が目に入った。

 ああ、これは確か……。恋せよ乙女の作家さんの作品だと手に取る。表紙からして同じテイストがする。

 京都在住の自分に取って、パラパラとめくるとそのシーンは全部手に取るように分かる場所ばかりだ。

 私はこの作品でも大学生だった。おそらく京都大学なのだろうと想像できる。吉田の大学といえば、京大一択なのだ。しかし、そんなことは物語にとってどうでもいいことである。

 学生寮の暮らしを私は知らない。だけどこんな経験がなければユーモラスな人物がたくさん出てこないのではないかと思う。表紙を見るとかわいらしい黒髪の乙女、明石さんが登場するのだが、森見先生は簡単に愛や恋などに簡単に落とし込まない。私は恋に恋する男子学生だったのだがもはや、何もトピックがないままに三回生になってしまって焦りを感じていた。それもよくあることではないだろうか。そこら中に出会いが落ちている訳ではないし、それを器用に手玉にとるような私ではないから。

 だが下鴨神社の古本市でしっかりと、明石さんというキリリとした女子を見初めていた。凜とした女性に惹かれることの多い森見先生の主人公達。明石さんは高潔だが、澄ましてはいない。焼き肉を口の頬張るし、ラーメンだって食べるのだ。暑い最中の下鴨の古本市での出会いのなんと趣が深いことか、わたしも数回足を運んだ事がある。しかし、暑すぎて長居ができない上に、こんなドラマティックな出会いもなかった。

 今、流行するなんとかドリンクを飲んだりはしない。

 そこがこの作品に流れるレトロな京都の風景を切り取っているところに親しみが湧いて、作品との距離がぐんと近くなり引き込まれるのはなぜだろうか。森見先生のマジックにまんまとはめられている。また、わたしのような男性の面影を求めて行きたくなってしまう。

 謎の多い樋口師匠などは最もミステリアスな人物で主人公の私よりもわたしが好きな人物の一人である。わたしはこの人がいるのなら是非とも会ってみたいし、私の友人小津などはあまり会いたくないと思っている。なぜなら何を考えているのかとても怪しい、怪しすぎるのだ。カステラを下宿に差し入れするのだが、なぜカステラ? 喉が詰まりやすいスイーツの代表選手なのに、飲み物は持参しない。

 その点樋口師匠は自信が交際中の女性がいるのに、人の恋愛指南を打ち出してくる上に、神さまを名乗る。どう考えても留年を繰り返している駄目な学生でしかないのに。そのキャラクターにして、嫌悪感を抱かせないところがまたもやマジックなのだ。すべてが愛すべき人達で溢れている。

 作品が四章あり、何度も最後に「そんな汚いもん、いりません」と言う小津。友人につきまとい、私のまわりに常にいるくせに、親愛の言葉を投げかけられようともいらないと言う。全く不思議な男だ。男の友達からの親愛の気持ちを汚いとまで言ってしまうくせに、いつも自分からその友人の周りに常に存在する。まるで空気のように。

 今年は大文字がなかった。ウイルス感染対策と言うことで、一点もしくは数点の点灯だけで、わたしはテレビの中継をみて涙を流した。こんな哀しい、寂しい大文字ははじめて見た。大雨や台風の時でさえ、なんとか奇跡的に雨が小雨になり、保存会・警察・消防の方達の見守りと尽力の中で赤々と点灯をしてきた大文字。なんてこと、なんてことなんだ!

 きっとこの作品の中の私、小津、明石さん、師匠などの登場人物がここにいたらどうしただろうか。森見先生はどんな思いでこの大文字を見られた事だろう。

 何もしなくていいよと言ってくれるかも知れないし、みんなで集まってカステラを食べているかも知れない。だが、私と明石さんのこの先がとても気になるが、きっと恋の先にはゴールがあるとは思えない。私は明石さんといる時間よりも小津という友人の方が大事なようにしか思えないから。

 それはわたしが勝手にそう思うだけで、物語の中にいる私と明石さんはいちゃいちゃしているのかも知れない。だがわたしはその行間をみたいとページを繰って見たが、どこにも感じる事はできなかった。だが確実にそこには愛があるのだ。簡単に深い関係に落ちないで欲しい。でも二人の距離感は嫌いじゃないです。微妙な距離感の二人はとても好ましいですし、阿吽の呼吸の会話もとてもステキで憧れます。むしろ妬けちゃうかな。

 若い時に京都で過ごした時期にこの作品があれば、きっと原付バイクで、聖地巡りをしたことだろう。是非とも、この作品を手に取った皆さん、京都のあれこれを巡ってください。この一冊すべてが京都です。

 ただ猫ラーメンがどこにあるのかはわたしは存じ上げません。

 とてもおいしそうに食べるわたしとその屋台のラーメンを探しに好きな人と繰り出してみるのも悪くない。そう思いませんか? そう思うわたしとご一緒してくださいませ。

#四畳半神話体系 #読書の秋2020

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