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【今日は何の日?】12月10日『ノーベル賞授賞式』/ノーベルと建築土木の関わりとは?

2日後の12月10日は「ノーベル賞授賞式の日」です。ダイナマイトの発明者であるアルフレッド・ノーベルの命日となるこの日、スウェーデンの首都・ストックホルムにて平和賞を除く5部門(物理学・化学・生理学・医学・文学)の表彰式が、毎年執り行われます。
今回はノーベルのダイナマイトがもたらした産業発破について以下お伝えします。

ノーベルの遺産と遺言~ノーベル賞の誕生

ノーベル賞はノーベルの没後、遺言に基づき1901年より表彰授与が始まりました。彼の発明特許により残された莫大な遺産をもって「ノーベル財団」を設立。その利益を原資として、物理学・化学・生理学・医学・文学、そして平和構築の分野において多大な功績を残した人物・組織に対し授与表彰する、世界的権威のある顕彰です。
ノーベル賞公式ホームページ https://www.nobelprize.org/

ノーベルの発明~ダイナマイトとは?

「ダイナマイト」はニトログリセリンを主構成分とする爆発物で、「力」を意味するギリシャ語「dunamis」に由来します。その爆発・破壊力は土木掘削や建築物の解体に用いられてきました。ダイナマイトの主成分であるニトログリセリンは、爆薬をはじめ、血管拡張作用があるため狭心症の治療薬としても用いられる有機化合物です。米国映画「恐怖の報酬」で描かれたように液体の性質は非常に不安定で、滴下した衝撃で爆発する程の危険性があり、取り扱いには細心の注意を要します。

1866年ノーベルは、危険なニトログリセリンを安全に扱い、工業へ応用できるように薬液体を珪藻土にしみ込ませ安定化を実現。更に起爆に用いる雷管を発明して、爆破が安全にできるようコントロールすることに成功しました。1875年にはニトログリセリンと同様の爆薬である低硝化綿薬(弱綿薬)との混合物「ゼリグナイト(プラスチングゼラチン)」を発明しました。より爆発力があり効率性の良いこの物質は、産業界での引き合いが大幅に増え、製品生産の事業化によりノーベルは莫大な財を成すこととなりました。一方、ダイナマイトの破壊力は軍事力として着目され、その後戦争で用いられるようになりましたが、ノーベルは当初よりその事を予測しており、寧ろ戦争の抑止力になると楽観視していました。しかし実際には戦争激化の要因となったことを激しく後悔し、後のノーベル賞設立に至ったとされています。

発破工法と爆薬の進化~ダイナマイトから含水爆薬

「発破」とは、建築・土木業や鉱業、学術調査・研究目的で行われる、火薬類の爆発力を用いた建築物類の破壊(解体)や、山・岩石の破砕、地質調査で地面を振動させるなど作業行為を指す法定用語です。火薬類取締法や労働安全衛生法などに基づき、「発破技士」や「火薬類取扱保安責任者」資格保持者によって適切に行われる必要があります。なおこれに対し「爆破」は火薬類を用いた物体を破壊する行為全般を指し、産業だけでなく軍事用途も含まれる点が異なります。

発破に用いられる爆薬はダイナマイトが主流でしたが、昭和40年頃からは次第に、より安価で安全に取り扱い可能な硝安油剤(アンホ)爆薬へと換わりました。更にその後開発された含水(エマルジョン)爆薬はその安全性と低価格さから、今日発破工法に用いる爆薬の主流を占めています。その一方、旧式で取り扱いが難しいダイナマイトは多くのメーカーで生産中止となっています。

発破工法の種類

建築分野ではビルや鉄塔など建造物の解体に、土木分野では岩盤の掘削や破砕に発破工法が用いられます。以下、その工法の種類を解説します。

発破解体(爆破解体)

高層ビルや鉄塔、煙突など、爆薬の爆発力を用いて解体する工法で、工期短縮と安価に解体できる利点があります。発破解体は周辺に影響被害を及ぼさぬよう、建物の上から下・垂直方向へ、外側から内側へと倒壊させる緻密なコントロールが必要で、爆破タイミングに応じた、爆薬の適切な配置と電気雷管を用い計算された爆破シーケンス構築が求められます。アメリカなど諸外国でよく行われる一方、日本国内では建物の密集度が高い点や破壊時に落下飛散する瓦礫の処理、また火薬取扱に関する法規制の厳格さから実施が非常に困難です。日本での建築物の発破解体は、1992年琵琶湖湖畔で行われた「木の岡レイクサイドビル」事例が最後となっています。当時作業実施の際、その物珍しさから約4万人の群衆が殺到し、地元テレビ局は報道特別番組を編成し、ヘリコプターからの生中継を行う程の話題となりました。

ベンチ発破(階段掘り)

「ベンチ発破」は、主に採掘・採石や大型造成工事に用いられる工法で、階段状に切羽を作って発破していきます。岩盤への穿孔から爆薬の設置、発破後の砕石積み込みと運搬といった一連の作業を安全かつ効率的に進行する必要があります。現代では穿孔・積込・運搬に用いる各種機械の大型化が進み、大量の岩石を効率良く処理できるようになりました。

盤下げ発破(盤打ち発破)

「盤下げ発破」は主に道路工事や小規模造成工事に用いられる工法です。建物や住宅などが隣接する場所で行う「制御発破」などの多様な規模と目的の発破作業に応用が可能です。

プレスプリット工法

「プレスプリット工法」は、最終残壁仕上げ工程で主に用いられる工法です。一定間隔で最終掘削法面予定ラインに沿って穿孔するため、高度な技術と緻密な計算が要求される作業です。発破にはプレスプリット専用の爆薬を使用します。

発破作業に必要な国家資格とは?

発破作業は火薬類取締法や労働安全衛生法などの法令により規定され、国家資格「発破技士」や「火薬類取扱保安責任者」の免許取得が必須となっています。両資格の免許・免状は終身有効ですが、2年に1度更新に際し講習の受講が義務付けられています。

国家資格「発破技士」の概要

発破技士は、労働安全衛生法に規定された国家資格の一つで、免許取得のためには発破技士免許試験に合格する必要があります。免許試験は誰でも受験可能となっており、各地の安全衛生技術センターで行われます。試験科目は、「発破の方法」「火薬類の知識」「火薬類の取扱い」の3科目となっています。受験資格は不要ですが、免許の交付を受けるためには一定の要件があります。

国家資格「火薬類取扱保安責任者」の概要

火薬類取扱保安責任者は、労働安全衛生法に規定された国家資格の一つで、経済産業省の管轄。資格は甲種・乙種に分かれており、取り扱える爆薬量や種類が異なります。国家試験は年1回、全国火薬類保安協会および都道府県火薬類保安協会にて実施されます。学科試験科目は甲種・乙種共それぞれ「火薬類取締に関する法令」「一般火薬学」となっています。受験資格は特になく誰でも受験可能(※合格後の免状交付は18歳以上が条件)ですが、大学などで火薬学単位修得者については、必要受験科目の内「一般火薬学」が免除されます。


まとめ


爆薬・火薬を用い発破作業を行うことのできる国家資格保有者には、命に係わる重大事故につながりかねない高いリスクが伴います。そうしたリスク回避を常に考慮し、作業員と現場環境の安全を守る強い責任感が求められます。従って、しっかり危機管理できる方や、的確に指示を出し統率できる、管理能力の高い方が適任であると言えます。また、高リスクながらも建設土木現場では必要不可欠な作業の一つでもあるため、この業界でキャリアアップを目指す場合、これら資格の保有は大きなアドバンテージになるでしょう。もし興味があれば資格取得に向けチャレンジしてみてください。

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