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第3回 育休後の女性の働きにくさは、職場の問題でもある

前回は、育休プチMBAを通じて女性の思考回路が理解できたという話でした。今回は、なんでそもそも仕事と育児の両立が難しいのかということを調べていたら、女性個人の問題以上に職場の問題だったということが分かってきた、という話です。

2014年7月に育休プチMBAを立ち上げてから、学習ニーズのヒアリングをするとともに、教育プログラムを開発するために子育て中の会社員(おもに女性)を取り巻く職場環境を調べました(注:子育て中の会社員はもちろん女性だけではありませんが、大多数を占めるのは女性なのでここでは女性という表現をします)。そしてその結果分かってきたことは、女性が仕事と子育てを両立しにくいという問題は、女性の能力以上に企業の構造上の問題、つまり経営課題であるということでした。

たとえば子育てと仕事の両立を阻む最大の課題は長時間労働なのですが、その裏には残業をよしとする文化だったり、生産性の低い業務オペレーションだったり、コミュニケーション機能不全の組織だったり、さらには子育て社員限定の過剰な優遇による組織のひずみだったりがありました。つまり女性が育児と業務責任を両立できない職場というのは、そもそも組織の管理状態があるべき姿になっていないということが少なくないのです。逆に、組織の管理さえしっかりなされていれば、両立はそれほど難しくないのではないかと感じるようになりました。ちょっと乱暴な言い方ですが、仕事が毎日17時に終わるならば、両立ってそんなに難しくないと思う。ですが、もっと遅くまで働くことを前提に業務が回っているので大変なんですよね。また組織のリスクマネジメントという観点では、誰かが急に休んだら回らなくなる業務オペレーションはとても危ない。だからリスクマネジメントがしっかりなされていれば、女性が子どもの病気で急に休んだとしても現場オペレーションには支障がないはず。でもそうなっていないから、急な欠勤が迷惑がられる。でも、育休制度や時短制度が当たり前になってきたのは近年ですから、残業ができない人材をどうマネジメントするかの理解が追い付いていないのは仕方ないとも思います。

その一方で、出産後の女性の就労意欲が高い、実は出産前よりも仕事へのモチベーションは高まっている、というちょっと意外な結果を示すデータがありました。男性をはじめとする多くの人は、出産後は就労意欲が落ちると思っていませんか?私も自分が出産するまではそう考えていました。でもそんなことはなかったのです。このデータという定量的な事実、そして勉強会に集まる人の観察、自分の経験から、出産後に6割の人が離職するという事実は、就労意欲の低下ではなく、意欲があっても活躍できない職場環境が原因なのだろうと感じるようになりました。「出産後は就労意欲が落ちるものだ」という先入観があると、「残業はできません」と言われると「ああ、この人はあんまり働きたくないのね、やる気がないのね」って感じます。ですが、実はこれは「育児家事タスクの集中する18-21時は自宅にいたい」と言っているだけで、夜や朝に在宅でできる仕事だったらできるという意味である場合もあります。出産する前の私を含めて育児経験のない人はこどもがいる家庭の18-21時の過ごし方がどれほど修羅場なのかってわかんないですから、早く帰りたい=仕事はあまりしたくない、という意味に捉えちゃいますが、17時に終わる業務オペレーションを確立できれば、モチベーションの高い労働力市場がごっそり顕在化するのだということが分かりました。17時に帰れない職場って、ここを丸ごと逃してるんですよね。もったいないなーと。

※この図でいうところのBとCの見分けは難しい。残業しない&欠勤が多い人は全てBに見えちゃうけど、CをBやDとちゃんと区別することが管理上は大事だと思っています。

調査を進めることで、上述のように育児と業務責任の両立が難しいのは意欲の低下ではなく職場環境が原因だということが分かってきました。つまり両立問題は個人の問題ではなく「経営課題」なのです。そして、この「子どもがいても活躍してほしいと感じている企業」と「残業はできないが意欲ある人材」のミスコミュニケーションの問題は、①制約のある人材側の能力開発、②管理職のマネジメントスキル開発、そして③組織文化の変革が解決策になるという結論に至りまして、これは私の専門知識が活かせる領域だということに気づきました。

で、経営学の専門知識、人材育成の実務経験、子どもを育てながら働く従業員という自分の属性を活かして、この経営課題の解決を研究テーマにしようと思いまして、育休から復帰すると同時にこの育休プチMBAの活動を個人活動から研究活動に切り替えました。

勉強会は私にとってはR&D。職場で発生している問題や女性の思考を理解するまたとない機会です。

続きはこちら:第4回 育休プチMBAが目指すもの


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