ミュージックビデオ+映画=『ベイビー・ドライバー』

音楽を聴いて、その曲に合ったイメージが頭の中に浮かぶことは誰にでもあるけれど、それで映画まで撮ってしまうなんて...。

イギリス人の映画監督、エドガー・ライトさんは、1995年にアメリカのオルタナバンド「ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン」(ジョンスペ)の「ベルボトム」という曲を聴いたところ、どうしてもカーチェイスのビジュアルシークエンスが脳裏に浮かぶようになった。音楽とイメージが結びつく、”強烈な共感覚”の瞬間だったという。どうにかそのイメージを映画にしようとプロットを練り続けて20年。出来上がったのがこの映画『ベイビー・ドライバー』だ。

20年かけて映像化した「ベルボトム」は、オープニングシーンでさっそく登場する。

まあこれがめちゃくちゃかっこいい。エドガー・ライトが”共感覚”と言っていたように、音楽のタイミングに合わせて登場人物がトランクを締めたりガムを噛んだりという動きや、さらにはめちゃくちゃ激しいカーチェイスの車体も音楽に合わせて踊っている。

一回これを見たら、もうパブロフの犬のように、この曲を聞くだけでアドレナリンが猛烈に出まくってしまうだろう。映画を見終わった後も、この曲の高揚をいつだって思い出すことができる。そういう瞬間を作る事ができるというのは、映画作家として本当にすごいことだ。

このシーンはHarlem Shuffleという有名曲(House of Pain〜鬼邪高校テーマ曲の元ネタ)の歌詞のとおりに右を向いたり左を向いたり、歌詞がまちかどのグラフィティになって出てきたり、まるで全編ミュージックビデオのようなたいへん贅沢な映画になっている。

車と人間の振り付けを手掛けたのはSiaの“Chandelier”で有名な振付師のRyan Heffington。どう考えたって死ぬほど難しい。さらに監督のこだわりでCGは使いたくないからほぼ全部実写。ミュージックビデオでやるのだって大変なのに、映画全編にわたって振り付けするなんてほんとにどうかしてる!!スゴイ!

どうしてこんな難しいことができたのかというと、シーケンスを動画コンテ(アニマティック)で作り、完全にタイミングを合わせて撮影。そのために冒頭のコーヒーのシーンは30回再撮影、スタントマンもDarrin Prescottさん(John Wick: Chapter 2)ら超一流を揃えた。

ゲッタウェイ・ドライバー(犯罪者が逃げるためのドライバー)がリップシンクするというアイデアはエドガー・ライトが2003年に撮影したMint RoyaleのMV「Blue Song」のときに生まれたという。今見るとほんとにそっくりだ。こういう「どうしてもやりたいアイデアは小さく実現し徐々に規模を大きくする」というやり方なるほどです。

エドガー・ライトの音楽と映像、さらに笑いをも与えられる共感覚の冴え渡りっぷりは、映画「Shaun of the Dead」(2004)でのこのシーンが真骨頂だ。襲い来るゾンビたちに立ち向かおうとするとなぜかランダムでジュークボックスからよりによってクイーンの「Don't stop me now」がかかってしまい、リズムに合わせてゾンビを撃退するというシーンである。今見ても超ウケるしマジ最高!!!!!

『べイビー・ドライバー』ではこうした音楽と映像の大変幸福なコラボレーションが全編にわたって繰り広げられるのだが、個人的に衝撃だったのは、Dave Brubeck - Unsquare Danceだ。わたしがこの曲を知ったのは『JAZZ JERSEY』という1992年に出たアルバムでサロンミュージックさんがカバーしていて...いまや渋谷系なんか知らねーよみたいな顔をしているわたくしですが、実は超絶影響を受けており...そんな渋谷系真っ只中に渋谷系ど真ん中の「トラットリア」というレーベルから出たクラブ・ジャズのコンピレーションなんである。実はApple Musicにあって、今聴いてみたらいまだにかっこよかった。是非聞いてみてほしい。

blurはまさかの『Modern Life Is Rubbish』からまさかのこの曲?!という..これはblurが苦しかった時期の比較的地味なアルバムですよね。しかしその苦悩とシンクロするような映像が素晴らしかったです。

エドガー・ライトは製作中、映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の監督ジェームズ・ガンと「使ってる音楽がかぶらないように」確認を取り合っていたそうだ。きっと「SING」のガース・ジェニングス監督とも確認を取り合っていたに違いない。エドガー・ライトといい、ガース・ジェニングス監督といい、イギリスの監督のポップ・ミュージックを映画に取り入れるセンスはもう本当に素晴らしいですね。

と、延々音楽のことばかり言ってきたが、『ベイビードライバー』はキャラクターも最高にいい。天才ドライバーの主人公ベイビーがいいのは、すごい音楽好きだけど、iPhoneのデフォルトのイヤホンを使っていることだ。超凝りまくったイヤホンじゃないのがすごくいい。



死ぬほどかわいいヒロインのデボラ、ケヴィン・スペイシー演じるカリスマ的元締めのドク。で、『MAD MEN』でドン・ドレイパーを演じていたジョン・ハムが元金融街の強盗だったり、ジェイミー・フォックスの悪役も凶悪で最高だったなあ。あと太った甥っ子も、郵便局のフレンドリーな女の人もみんなキャラが立ってて愛すべき存在感があった。

ベイビーとデボラのコインランドリーでのデートシーンは、カラフルな衣装がくるくるとランドリーの中で回っていて最高にかわいくて、「あっ..わたしが感じられなかったララ◯ンドがここにあった..!!!」と思いました。「きみは僕の人生のなかで(ここ何年か?)起こった一番素晴らしいことだ」ってベイビーがデボラに言うセリフがすごくすてきだった。

エドガー・ライトがサイモン・ペッグもニック・フロストも抜きで、アメリカで撮った『ベイビー・ドライバー』(イギリスではカーチェイスが難しいからとか)。二度と同じことはやらない人だと思うので、次回はまたイギリスに戻るかもですね。どうでしょうね。

参考:

https://wired.jp/2017/08/19/baby-driver-edgar-wright-ipod-star/

https://www.nytimes.com/2017/06/27/movies/baby-driver-stunts.html

http://miyearnzzlabo.com/archives/44069

https://rockinon.com/blog/nakamura/163076





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akiko_saito

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コメント1件

『ラ・ラ・ランド』『ベイビー・ドライバー』に続いて『グレイテスト・ショーマン』は記事にしないのでしょうか?
自分は「あぁやっとgleeを超えてくれた」と思えました。
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