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負け犬たちが音楽によって輝く奇跡の映画「SING」

イルミネーション・エンターテインメントの新作映画「SING」ですが、もう全国民が見たと思うんですけど、念のためにオススメしておきたいと思います。

「SING」でまず覚えていただきたいのは、監督がガース・ジェニングスさんというイギリスの映画監督だということ。

ガースさんは最初に地球が爆発する映画「銀河ヒッチハイク・ガイド」のほかにもこれまでに素晴らしいミュージックビデオやCMを撮っておられるので最初にどうぞ!!

探し人の広告がついた牛乳パックの大冒険をミュージックビデオにしたり

おさるのぬいぐるみと太ったおじさんの楽しい生活をCMにしたり

いずれも卓越したリズム感とテンポ感、そしてユーモアを兼ね備えた、イギリスらしい映像を撮る映像作家。

そんな人が、動物たちが歌って踊るオーディションの映画を監督したのが「SING」。

フランスのアニメーションスタジオであるイルミネーションが、イギリス人の監督を迎えて作ったのが特徴。5年前、「動物がたくさん出るミュージカルを作りたい」とイルミネーションのプロデューサーがイギリスのガース監督のもとを訪ねてきて、ガース監督はパリに移住してこの映画を作り始めたのだとか。

イギリスでは昔からたくさんの音楽映画が作られてきた。「トレインスポッティング」もそうだし、古くはリチャード・レスター監督によるビートルズの映画とか、

ザ・フーの「さらば青春の光」とか、

「ザ・コミットメンツ」とか(アイルランドだけど)

最近だと「シング・ストリート」とか(アイルランドだけど)


で、「SING」もそんなイギリス伝統の音楽映画の特徴を兼ね備えている。

■みんな負け犬

多くのイギリス映画に見られる特徴は、登場人物がみんな、社会で虐げられて、心に傷を追っている負け犬だということ。

左が主人公である、父にもらった劇場を潰しかけているコアラの支配人バスター。右は200年生きているのでボケているワニのアシスタント。

他の登場人物は、25人の子持ち&家族に無関心な夫によって家事に忙殺される豚の主婦ロジータ、素晴らしい歌声を持っているのにエゴが強すぎてケチなこそ泥を働いて生き延びるネズミのマイク、本当は歌いたいのに家業の強盗のおかげで夢を追いかけられないゴリラのジョニー、彼氏とパンク・バンドをやっているけれど「俺の歌が最高だ、お前は何もできない」と彼氏からモラハラを受けるハリネズミのアッシュ、あまりにも恥ずかしがり屋なので人前で歌えない象のミーナ、お金持ちの親のスネをかじってダラダラ生きているニートの友人、などなど。

全員がポンコツで、一般的な成功からは、かけ離れた負け犬ばかり。彼らが考えたアイデアは世の中で嘲笑され、何かをやってみても考えが足りないので失敗してしまう。負けるのはいつものこと。だから慣れっこだった。でも今回ばかりは違った...

「判官贔屓」という言葉があるが、イギリス映画はいつも負け犬の視線から描かれる。「SING」もそうだ。たったひとりだとポンコツでガラクタかもしれないけど、力を合わせることで眩しい輝きを放つ。我々はあまりにも小さく、無力で、世界の無慈悲な力学にいつも押しつぶされている。しかしそれを覆すことができると「SING」は教えてくれる。

■説明くさくない

また「SING」が優れているのは、説教臭いセリフもくどい言い回しもなく、ただ音楽とダンスだけで”わかって”もらおうとしているところ。

クライマックスは、ただ動物が歌を歌っているだけのライブシーン。動物はただ歌っているだけだ、でも最初に発した声を聞くだけで、今まで彼らが歩んできた道のりが思い出され、その歌を聞いているだけで、涙で前が見えないくらい泣かされてしまう。

それはクライマックスだけでなくこのスーパーマーケットのシーンでも顕著で、わざわざくどくど説明しなくても、声を聞いただけで、何もかもがわかってしまうという音楽の力を存分に使っている。映画を通して言われる「恐れのために好きなことを諦めてはならない」というメッセージを、セリフではなく、歌う姿を通じて教えてくれる。そのあたりの演出は、さすがイギリスの粋という感じであった。

そんで、象のミーナを演じるトリ・ケリーは「アメリカン・アイドル」で、辛口評論家のサイモンに「君の歌声ってなんかイライラするね」と言われてしまったのだが自力でなんとかのし上がってきた苦労人。そんな人が歌う「Don't You Worry 'Bout A Thing」は最高に泣ける。

■曲がいい



あとは選曲も最高で、Señor Coconutの「Around the World」とか、THE SPENCER DAVIS GROUPの「GIMME SOME LOVIN'」とかGipsy King 「Bamboleo」とか、カニエ・ウェストの「Flashing Lights」(ガース監督がカニエに「MVでイカを出したい」と言ったら却下されて、この映画でようやく日の目を見たそうだ)めちゃくちゃいい曲ばかりが入ってる。しかもなんとかランドとは違って、みんな俳優だけど、とびっきり歌がうまい。特にセス・マクファーレンの歌が素晴らしかった。セス・マクファーレンといえば「TED」ですが、こんなに歌が上手いなんて..!!!

そんな感じで、音楽と反骨精神の国、イギリスの粋を感じる音楽映画「SING」。やはりイルミネーションはいま世界で最強に近づきつつあるということがわかるたいへん良い作品です。是非劇場で見てみてください。

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