生まれ変わったら政治家になって、「誰でも好きな時に安楽死できる権利」を作りたい

毎朝鏡を見るたびに問いかける。

「この世でママ以外に、私を愛してくれる人なんているのかしら?」

もちろん答えはノーだ。毎朝。

ママは「お前がわたしの生きがいよ」と言う。でもママ以外の人に、わたしが必要とされているのかはわからない。

ただいまメンタルが絶賛大不調だ。太陽が登ろうが沈もうが、わたしが見る世界は暗闇に包まれている。何を食べてもゴムのような味がする。生きることは、まるで噛み終わって味がしないガムを噛み続けているような感じだ。あまりにも大きすぎるので、吐き出すことができない。

ということで、生き続ける理由も見当たらないが、死に場所も見つからないので、ずるずると生き延びているのがいまのわたしだ。

わたしは腰抜けなので、電車に飛び込むことも、高層ビルから飛び降りることも、首を吊ることも、日本刀で腹部をかっさばくことも出来ない。せいぜい、病院のベッドの上で、麻酔をかけてもらって眠るようにこの世からおさらばすることを夢見るくらいが関の山である。もちろん、いまの住まいをきれいに片付けて、マンションの部屋を空っぽにしてから。何人かの友人に、さよならとありがとうを言ってから。ああ、それができたら、どんなにすてきなことだろう。もう二度と、目覚めなくても良いだなんて。

というか、死のうとしたことはある。あれは15年ぐらい前のことで、わたしは心療内科に行っていて、睡眠薬をもらっていた。その睡眠薬をこっそり溜め込んで、100錠ぐらいになった時に、全部飲んだ。これでこの世とおさらばできると思った。テーブルの上に「なんでこんなことをするのかわかりません、ごめんなさい」という遺書を置いて、もう二度と目覚めないと思って眠りについた。でも全然そうじゃなかった。たった8時間後、わたしはこれまでにないくらいスッキリと目覚めた。病院に行って先生にそれを告白すると、「良く眠れてよかったですね」と彼は言った。「こいつヤブだな」と思った。そしてわたしはただ単に、死にそこねた間抜けになった。

わたしを苦しめる一つの要因が孤独というやつだ。孤独はいつだって容赦なく襲ってくる。それは「この世にお前の居場所などない。いままでも、これからも」とわたしに告げる。わたしの過去には何もなかった。現在だって何もない。それなら未来にだって、いったい何の希望があるっていうんだろう。このまま年老いていくだけで、その向こうにあるのは虚無しかない。

わたしは昨日神保町で友人と酒を飲み、三田線で目黒の自宅まで帰った。ひどく酔っ払っていて、地下鉄の車内で眠りこけ、ふと気づいたら二人の駅員さんが「お客さん!大丈夫ですか!」と叫んでいて、囚われた宇宙人のように改札の外まで送ってもらった。わたしは改札を出るやいなやまた床で眠りだしてしまい、気づいたら親切なスーツのおじさんが「これ飲んで... 」と未開封のボルビックの水をくれた。「ありがとうございます!!」と元気にお礼を言ったわたしは、フラフラと歩き、植え込みに突っ込みながら、家路についた。権之助坂で、そんなフラフラ人間を心配してくれたスーツ姿でメガネの若い男子が声をかけてくれて、なぜか手を繋いでくれて、二人で権之助坂を降りていった。お腹が空いていたのだろう、途中でわたしは「ナポリタンが食べたい!!」と叫び、セブンイレブンに入って大盛りナポリタンを手にして店を出た。すると、さっきまでいた親切なメガネ男子はいなくなっていた。まあそりゃそうだ。その後も植え込みに突っ込みながら、どうにか家に帰り、気がついたら床で毛布をかぶって寝て、ふと時計を見ると朝の5時だった。ベッドまでは、わずか1メートルのところだった。惜しい。

もう何がなんだかわからない。人生は虚無だ。わたしにはなにもない。盛大に酔っ払って、なにもかもめちゃくちゃにしてしまう。わたしには何らかの大きな問題があり、ママ以外はわたしを愛することができない。

わたしがわたし自身を幸福にできるのは、病院のベッドの上で静かに息を引き取ること以外にはない気がしてきて、どうしていま意識があるのか、この意識はどうしたらなくなってくれるのか、金田一耕助みたいに頭をかきむしっては苦悶するばかりである。世界は人口爆発で悩んでいる。だったらこの未婚の日本人が一人いなくなるくらい、なんでもないことじゃないか。

でも日本には安楽死の制度はないし、わたしみたいに健康な人間だったらますますその望みは薄い。政治家になりたい。政治家になって、「誰でも希望者は安楽死できます」という法律をつくって、病院のベッドの上で静かに息を引き取りたい。なるべく早く。

ああ、ついに、わたしにも夢が出来たようだ。それはもしかしたら、未来への希望なのかもしれない。生まれ変わったら政治家になって、誰でも好きな時に死ぬことができる世界を作りたい。


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