不二家のピーナッツ入りのハート型チョコレート

もうすぐバレンタイン...ということで、思い出すのは小学校1年の頃のこと。クラス一の暴れん坊で問題児といわれていたユウジくんのことだ。ユウジくんは授業中に騒いだり、同級生と喧嘩したり、そもそも学校に来なかったり。牧歌的でのんびりしたクラスの中で異彩を放つ、敬遠される存在だった。

わたしの実家は宮城の超保守的など田舎で、持ち家じゃない人はクラスに一人、離婚している人もほとんどいないというところだった。持ち家じゃないだけで「あの子ね..」とか言われてしまうのだ。なんて恐ろしいんだろう。そんな環境のなか、ユウジくんはご両親が離婚されてしまったということで、おばあちゃんがユウジくんを育てていた。家庭はあまり裕福ではなかったらしい。ユウジくんにはお兄ちゃんがいて、このお兄ちゃんが札付きの不良というやつ。家庭環境やお兄ちゃんの影響などで、ユウジくんも小学校一年生で思いっきり問題児のレッテルを貼られてしまっていた。でもまあ同級生をいじめたりしているので、敬遠されるのも仕方ない。わたしはクラスのみんなとは違う幼稚園から来ていた新参者で、いじめとかの概念がよくわからないかったので、ユウジくんの荒々しい攻撃にもあんまりビビらないで普通に話かけたりしていた。

そんなユウジくんが、2月に入ってバレンタインが近づく頃、わたしに「おい!!!!!」と乱暴に声をかけてきた。戸惑うわたしにユウジくんは「お前!!!!!絶対俺にチョコレートくれよ!!!!!」というのだった。暴力こそ振るわれなかったものの、そこには謎の圧力があった。ユウジくんは続けた。「板チョコのやつとかじゃないぞ!!バレンタインのやつだからな!!!」と。そして「学校で渡すなよ!!!何か言われるから!!」と言って去っていった。わたしはバレンタインの概念もわかったかわからないかぐらいの年齢だったので、なんでチョコレートをあげなければならないのかもわからないし、謎の圧力にものすごくビビってしまった。恐怖に震えたわたしは家に帰って泣きながら母に相談した。

「ママー!!!!ごわいー!!!!」

すると母はスーパーでチョコレートを買ってきてくれた。忘れもしない、不二家のピーナッツ入りのハート型チョコレートだった。80円くらいだろうか。

そして「学校では渡すな」ということだったので、このチョコレートを封筒に入れて郵送した。これでもう怒られることはないだろう....と安心したのもつかの間、やっぱりユウジくんが「おい!!!」と怒鳴ってくるのだ。

「ひえ~!!!!チョコは送りましたーー!!」と言ったものの、届かないのだという。「なんで来ねえんだよ!!」とめちゃくちゃ怒っている。そんなこと言われても,,,ということで、もう一回母とチョコを送った。それでも届かないという。1週間にわたり、ユウジくんの「チョコが来ねえ」攻撃は続いた。

攻撃が終結したのは突然のことだった。「チョコが届いたのを見つけた」という。「おばあちゃんがポストを見るのを忘れていたのでわからなかった」ということだった。「おばあちゃんにめちゃくちゃキレた」と言っていて、おばあちゃんが心底かわいそうだった。一ヶ月後、ユウジくんはホワイトデーに「ああ...これはおばあちゃんが買ったんだろうな」という渋いお菓子をくれた。

そんなユウジくんとはその後学校も別々になり、会うことはなかった。風のうわさではシンナー中毒になったとか、良くない話ばかりが聞こえてきた。久しぶりに話したのは大学4年の頃だ。夏休み、家でダラダラしていると、突然自宅に電話がかかってきた。そして「おい!!俺だよ!!」とまた荒々しく話しかけてくるのだった。でも、小学校の頃よりもだいぶ優しくなっていた。「お前いま何してんだ?」と聞かれたので「学校に行ってるよ」と言うと、「なんでこんな年になってもまだ学校行ってるんだ?!」と心の底から驚愕していたので、ユウジくんのいる世界がわかったような気がした。

っていう思い出を、不二家のハート型のチョコレートとともに、バレンタインが来るたびに思い出す。ユウジくん、元気かなあ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?