見出し画像

優先席にて

本日日曜日、中目黒から日比谷線に乗った。代官山とか中目黒とか六本木とかというのは、健康で若く美しい人しかいないので、世の中がそういうものかと錯覚してしまう恐ろしいところだ。

車内は混んでいて、わたしは優先席の前に立った。その優先席にはワンレンでギャルっぽいはっきりとしたメイクの美人女性とその4歳ぐらいの娘、もう一人は40代くらいの地味目の女性(カチューシャ付き)が座っていた。地味目の女性は携帯でグーグルマップを覗いている。美人女性と娘は大変おしゃれに着飾っている。

そこにもう一組親子連れが乗ってきて優先席の前に立った。若いお父さんが、2歳くらいの男の子を抱っこしていて、お母さんが隣に立っている。お父さんは抱っこひもとかもなく、手で抱えているので、電車が揺れると危なさそうだ。なにより子どもを抱っこしているので重くて大変そうである。

のだが、優先席に座っている地味めの女性も美人女性も娘もそのお父さんの姿には全然反応しないのだった。

え?!?!譲らないの?!?!

と狐につままれたような気分のまま、電車は発車した。地下鉄なので揺れて、そのたびにお父さんは大変そうだ。それでも地味めも派手めも全然知らん顔をしている。どちらも「席を譲ってください」のサインとかはつけていないしすごく元気そうに見える。電車は恵比寿を過ぎた。地味めカチューシャは変わらず携帯の画面を見つめているし、派手めは娘とキャッキャと何かを話している。この人たち前が見えてないのかしら?!なんなのかしら?!

とモヤモヤしているうちに、電車が次の広尾についた。そしたら派手目の母娘が電車を降りていったのである。

二駅しか乗らないなら譲れよ!!

と思ったのだがまあ思っただけで言えなかった。

その一方、背後の優先席では席を譲られた人が降りていくところで、

「譲っていただいてありがとうございました」

とさわやかな感謝が交わされていた。

派手目の女性が席を譲らないのは勝手だけど、そういう親を見て育っちゃうと子どももそういう風になっちゃうんじゃないか、それは可哀想だなあと思った。たった2駅の距離で座るよりも、「ありがとう」って言われるうれしさのほうが大きくないですか。言い出すのが恥ずかしかったら、わたしがよくやるのは、何も言わずに席を立って遠くの吊革につかまる方式である。そうすると関係ない他の人が座ってしまうリスクもあるのだが、恥ずかしいときにはこれがおすすめだ。

大人みたいにきれいに着飾ることを教えるよりも、困った人がいたら手を差し伸べてあげるとか、そういうことを教えてあげられる人がいたら良いなと思った。いまはがんこじじいが嫌われる世の中なのでそれも難しいのだろう。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?