世界で一番カワイイ動物に見える魔法

女の人にはスーパーパワーがある。それは「好きな人がこの世で一番カワイイ動物に見える」というパワーだ。一番かわいい人間というよりも、「好きな人」という特殊な動物に見える。犬より猫よりパンダよりオーストラリアの一部にしか生息しない幻の動物クオッカよりカワイイ。他の人から見ると「ハア?」と言われてしまうことがほとんどだが、その女の人の目には死ぬほどカワイく映っている。

クオッカ

好きになると、もう何をやってもかわいい。ただ歩いてるだけでかわいいし、縦になってても横になっててもかわいい。酔っ払ってても愚痴を言っててもジュースをこぼしてもペンを落としてもかわいい。

これは3次元の恋愛の相手だけではなくて、2次元のキャラクターでもそうだし、子どもとか家族とかなんかもそうなんじゃないかと思う。この世界で一番かわいい動物のためにはどんなことだって出来るパワーが湧いてくる。早起きも出来るし他人に頭も下げられるしダッシュもできる。その力は不可能を可能にするほどの力がある。いつもそのパワーには驚かされるばかりだ。

だがそのパワーが、失われてしまう時がある。超能力者がある日突然能力をなくしてしまうような、スパイダーマンがスーツをなくしてしまうような。このスーパーパワーは自分では制御できないきっかけから始まって、無限に湧いてくるのだが、一度なくなってしまうと、自分の力ではどうにも回復できない類のシロモノなのだ。何かの理由で、ダムから水がなくなるように、ある日突然枯渇する。

枯渇の予感を、感じていなかったわけではない。2人の間にトラブルが起こるたびに、溝を埋めるように細かい工事を繰り返して、離れた絆を繋げ直していた。そうやってごまかしてやり直してはいたけど、自分の心は全然修復できていなくて、もうごまかしがきかないくらいの断絶が起こってしまっている。でもなにかしら違和感を感じるたびに、「気のせいだ」と自分に言い聞かせていた。この関係性は自分たちのものだけではなかったりするからだ。

しかし一度、違和感が臨界点を超えると、魔法が突然解けてしまって、世界で一番カワイイと思っていた動物が突然ただの他人に見える。自分の心だけはどうにも騙せない。一見つなぎ直されたように見える溝でも、本当はそうじゃないってことが痛いほどわかっている。あとはもう、空を飛ぶ鳥が飛び方を忘れてしまったように、落ちていくしかない。一度飛び方を忘れてしまったらもう二度と同じ空を飛ぶことはできない。そうしたら選択できるのは、離れていくことだけだ。

好きな人は世界で一番カワイイ動物に見える。その可愛さといったら犬も猫もパンダもクオッカも敵わない。この広い世界で、そんな貴重なカワイイ動物に会うことができたのは本当にラッキーというしかない。ドードーもニホンオオカミもオオウミガラスもみんな絶滅した。貴重な動物は油断すると絶滅する。どうにか不断の努力を怠らずに、貴重な生物をがんばって保護していきたいと思うのである。


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