2017/12/26 銀座

19時に銀座の喫茶店「カフェー・パウリスタ」で待ち合わせ。カフェー・パウリスタは明治44年創業の老舗喫茶店。芥川龍之介や、与謝野晶子、谷崎潤一郎、森鴎外が通ったという。いまの店舗は1970年から使われている。茶色い革張りのソファー、高い天井、そこここに置いてあるガラスの置物に歴史を感じる。待ち合わせした友人が遅れているのでアイスコーヒーを飲みながらkindleで本(『現代ゲーム全史』)を読む。

夜の蝶が急いだ様子でお店に駆け込んでくる。水色のぴったりとしたドレスの上にコートを着ている。お客さんとの待ち合わせなんだろう。他にも恰幅の良い紳士が入店しては店員さんと親しげに会話をしていたりして、いかにも銀座という感じだった。友人は30分遅れでやってきた。コーヒーの気分じゃないというのでトマトジュースを頼んだ。

それにしても唇が痛い。わたしはすぐに唇が乾燥するのでリップクリームを持ち歩いているのだが、リップが入ったケースをこの日どこかに置き忘れてしまったのでリップが買いたいと言ってすぐ近くにある商業施設のギンザシックスに行った。ギンザシックスに入るのは初めてだ。店内を貫く大きな吹き抜けに草間彌生のオブジェがぶら下がっている。とりあえず最上階の蔦屋書店に行ってぶらぶらした。友人は観察の練習 | 菅 俊一を買う。アインシュタインのソックスなどいろいろなグッズが売られているがリップクリームはなかった。猫の写真集のコーナーで、「インターネットで見る猫写真はすごくかわいいのに、写真集になってしまうとどうしてその輝きが失われるのか」ということについて話した。

続いてアップルストア銀座に行った。iPadproのケースが欲しかったのだ。店員さんが親切でいろいろ教えてくれた。銀座のアップルストアは激混みで店員さんも余裕がないのでいろいろ教えてくれる人は珍しい。ケースを買おうとすると友人が「そういえばアプリだけで決済できるんだって」と言うので店員さんに聞いてみると、店員さんはアプリを電話に入れてくれた。そのアプリでバーコードをピッとやると、レジを通さなくてもお会計が済んでしまうのだった。店員さんは買い終わった後もついてきてくれて「このスピーカーオススメなんですよ〜」と話してくれた。珍しい。最後に名刺をくれた。これも珍しい。

9時になったので予約していたおでんやさん「おぐ羅」に行く。お店は地下一階にある。店内は狭い。カウンターと個室2つ。カウンターの中ではおでんが汁につかってくつくつと煮込まれている。最初におつまみを、ということで、サッポロの大瓶ビールとしらすとみょうがの和物、春菊の胡麻和え、砂肝の揚げ物とアジの叩きを頼んだ。しらすと千切りにされたみょうがのあえものがまず運ばれてくる。みょうがのさっぱりとした爽やかさとしらすの味わいが素晴らしい組み合わせで、この発明にノーベル賞を贈りたいというくらい衝撃のおいしさだった。春菊の胡麻和えはまるでスイーツのように甘く、砂肝の揚げ物は肉厚でしっかりと味がついていてうまみに溢れていて、ああこれは学生時代に食べていた白木屋とか天狗の軟骨揚げとは天国と地獄くらい違うなあと感じ入った。アジのたたきは脂が乗っていて、こりこりとしておいしかった。

そしてついにおでんだ。たっぷりとした汁からもうもうと湯気が上がっている。大根、はんぺん、ちくわぶ、たまご、糸こんが入っている巾着を頼む。全てが衝撃的においしかった。なかでも大根はまったく筋を感じさせないホロホロとした食感で、だしが染み込んで舌の上でとろけるようだった。続いてフキ、ロールキャベツ、しいたけ、がんも。フキはシャキシャキとしたすばらしい歯ざわりで、がんもは大豆のうま味と歯ごたえをしっかりと感じるこれまでに食べたこともないようなもので、しいたけには肉が詰まっていた。ここまで手を抜かないなんて!その後わかめ、豆腐、ごぼうを注文。このごぼうの中にもミンチの肉が詰まっていて、ごぼうと肉の旨味が渾然と混じり合ってもう旨味で殴られているようだった。それらすべてを浸す汁も夢のようにおいしい。大将は「関西風みたいな色だけど、関東風にしっかり味をつけているんですよ」と言っていた。おでんの鍋の写真を撮ってもいいですか、と聞くと「ちょっと待って」といってひしゃくでだしをざばざばと入れて「はいどうぞ」と言ってくれた。素人にはわからないけど、きっとおだしがたっぷり入っているのが、よいおでんの鍋の条件なんだろう。

その後、お店は閉店。iPadのケースの開封の儀をやりたかったのだが、銀座の店はだいたい23時に閉まってしまう。近くの東急プラザにあった、夜中までやってるつるとんたんに行ってみると大行列。諦めて、帝国ホテルのインペリアルバーに向かう。ここは夏にサンダルで行って入店をやんわり断られたところだ。今回はスニーカーだったので入店できた。お店に入って、わたしはよくわからないおすすめカクテル(三角のグラスに丸く切り抜いたオレンジとレモンの皮が浮かんでいる)を、友人は暖かいレモネードをオーダー。店内は薄暗く、ベストやスーツを着たベテランのバーテンさんたちがキビキビ働いている。そういえば全員男性スタッフだ。皆仕事に誇りを持って働いているようだった。「こういうところで働いたら楽しいかなあ」と言ったら友人が「働いてみたらそうでもないんじゃない」と言うのでそういうものかもと思う。

それにしてもここは暖かい。フランク・ロイド・ライトの意匠がところどころに残されている。おつまみにカキピーと帝国ホテルのチョコレートが出てきた。向こうの席ではアメリカ人っぽい女性と日本人っぽい男性が、オレンジが刺さったカクテルを片手に話し込んでいる。iPadケースを開封し、装着した(できなかったのでやってもらった)。

外に出ると銀座はイルミネーションで溢れていた。寒い寒いと言いながら帰った。

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