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『東京タラレバ娘』がいつの間にか終わっていた

おお!いつの間にか東京じゅうの働く女子の共感をぶっちぎりで集めていると話題の漫画『東京タラレバ娘』が9巻で完結を迎えていた。

しかし全然ネットで騒がれていないので知らなかった。3巻ぐらいの時には「タラレバの新刊出たよ!!読んだ?!」なんて周囲の女子が未婚/既婚問わず騒いでいたので出るたびに読んでいたのだが、最近では話題に登ることもほとんどなくなった。そしてひっそりとした最終回。8巻の時には本編が単行本の半分しかなくて、amazonがブーイングで溢れていた。

なぜあれほど一世を風靡したタラレバの最終回には誰も見向きをしないのか。タラレバは独身女に夢を見せ続けることができなかった。タラレバは主人公を中心とした都会で自立する行き遅れの3人娘が話の中心。めちゃくちゃ年下の売れっ子モデルのKEYとのワンナイトラブが忘れられないクリエイタータイプの脚本家の倫子、父の経営する居酒屋で料理人として働いて客と不倫する良妻賢母タイプの小雪、ネイリストとして自分のサロンを開業して元カレのバンドマンと浮気相手として復縁するイケイケタイプの香。

いずれも三者三様に、自己評価が低いのだが戦略高く生きられるほど器用でもない独身女がうっかり陥りそうな地獄がコンパクトにまとめられている。読者がまるで別府の地獄めぐりをするように「ああ、あれは不倫の沼ね」「あれは二号の沼ね」と観光客気分で物味遊山できるのがタラレバの面白いところだった。

通常の神経で考えたら、不倫をしたり二号になったりするのは、全くメリットが無いからやる意味がわからない。でもそれをする人は後を絶たない。なぜか。それはものすごく楽しいからだ。

だいたいのまともな人は学生時代に結婚相手を捕まえていて、そこでつかめなかった人が第二ラウンドの社会人時代にどうにか結婚相手をつかもうとして「奢りだって言われたのに企業名を知った途端にワリカンにされた」みたいなことになったり、コリドー街に行ったりTinderをやったりしている。

だが不倫とか二号は、その越えられない線を越えられる。アラサー女子が遊び呆けている間にいつの間にか鬼籍に入っていた優良な既婚者と、まるで対等になったような気分になれる。だが考えてみろ、それはチートであって君は「カイロの紫のバラ」の主人公みたいな気分だろうが、映画館を出たら全ては幻なのである。

わかってはいるのだけど、いまもらうこの刺激が強いからやめられないのである。特に現在はLINEやSNSが発達して秘密の連絡が本当に取りやすくなった。2chの鬼女版というところには恐ろしい体験談が渦巻いているし、出会い系アプリなど何をか言わんやである。そうやってチャンスもたくさんある、インフラも揃っている、という時代に、じゃあどうするのか?

という答えを、みんなが待っていた。

未来なんか無いのはわかっているつもりだけど、いま目の前にある笑顔に勝てないと小雪は言うし、彼女の痕跡に目をつぶれば幸せだと香は言う。

その幸福が嘘ではないことをみんな知っている。

じゃあ、どうするのか?

その点において、タラレバ娘からは答えが出なかった。言っておきたいのは、作者の東村アキコ先生は独身女とは比べようもないリア充だということだ。リア充の人というのは、現実として重みがある幸福と霞食ってるみたいな幸福を天秤にかけて現実のほうを取れる人だ。

その点の追求が7巻あたりで終わった結果、倫子の幸福の追求に話がシフトした。倫子の話は、どうでもいいのである。ぶっとんだ女が「わたし、自分を好きだと言ってくれる人とのほうが幸せになれるんじゃない?」という葛藤はもう『ハッピーマニア』で20年前に安野モヨコ先生が提示してくれていたから。

ていうかそもそも倫子の話については、「あなたは僕が好きだった人に瓜二つだから、僕はあなたが大好きです」って言われて喜ぶ女っているんでしょうか?!愛の基本ってワンアンドオンリーってことじゃないんでしょうか?!二回くらいこじれて「そういう理由があるのなら、何もない私をあなたが好きになってくれる根拠を理解できるから私は私を肯定できる、ありがとう」くらい思ってるような女だったらドンピシャそうですが。

という不満が出るくらい、すごくバランスが良いお話だったので、キャリアでも女の友情でも家族愛でもどこのなんでもないところに着地してしまったのが、勝手に夢を見ていたファンからすると、残念だったのかもしれませんね。絵も可愛かったし。ギャグもテンポがよくて面白かったし。

というモヤモヤを、独身女に残しつつ終わったタラレバ。「自分の幸せは自分で決めればいいんだよ」「人のせいにするんじゃなくて、そうなってくれたご縁に感謝するんだよ」というメッセージを、いつかありがたく受け止められる日が来るのを、待ち望みたいと思います。

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