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つくったものをけなされると傷つく。映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』

『アイアンマン』の監督、ジョン・ファブローの監督&主演映画アイアンマン『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』がめちゃくちゃおもしろかった。

2008年に『アイアンマン』が登場したときは衝撃だった。アメコミのヒーローはたまたま特殊能力を持ってるスーパーヒーローというのが普通だったのだけど、アイアンマンは手からビームを出せない人間が頑張って自分で機械を開発してめちゃくちゃ強くなる話だったから。ファブロー監督は、そういう「人間味」を出すのがすごく上手な人なのだ。

で、この映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』は、超絶大ヒット作の『アイアンマン』を降板したファブロー監督が監督・主演・製作・脚本を担当。どうしても作りたくて作った映画だという。

なぜ監督が予算も宣伝も潤沢なことが保証されているアイアンマンを降りたのかというと、プロデューサーに言われて作った『アイアンマン2』と『カウボーイ&エイリアン』を批評家にさんざんこき下ろされたから。たしかに『アイアンマン2』はひどかった。オラクル社がスポンサーかなんなのか知らないけどばんばん出てきて広告臭がすごく、『アベンジャーズ』の前フリという役目があったのか話がモタつくし、そもそも映画『トロピック・サンダー / 史上最低の作戦』の人がやってるという脚本がしょうもなかった。あれでいい映画にしろという方が無理だ。『カウボーイ&エイリアン』は見てないけど、タイトルだけで「相当しょうもないんだろうな..」と思わされるとおりに相当しょうもないそうだ。そういう映画を「撮って」って言われて撮らなくちゃいけない監督って大変だよなあ。

という事情があるにせよ、批評家もファンも結果しか見ない。二作とも駄作だということで、こぞってファブロー監督を叩いた。既に作られたものをダメだと非難するのはたやすい。あの演出がだめだ、セリフがだめだ、ストーリーがだめだ、映像がだめだ、とかいろいろ。だが監督はそういう批評にものすごく傷ついたようだ。いかに彼が傷ついたのかは、この映画のなかでファブロー監督演じる主人公シェフ(一流レストランの料理人カール・キャスパー)が、彼をぼろくそに書いた批評家にブチ切れるシーンを見るとわかる。

「この料理を作るのにどれだけの人が汗水たらして頑張ってるのか知ってるのか?!傷つくんだよ!ものすごく傷つくんだ」と悲痛な叫びをあげている。

批評家はいまネットで一番人気があるというイケイケなブロガー。もともとカールが作った料理を食べて感動したあまりに批評家の道を歩み始めたという大ファンだ。しかしレストランに来た彼にカールが出した料理は、彼の創造性を出すことなく、オーナーの言うなりになって作った無難な料理だった。それを批評家が「久しぶりにあいつの料理を食べたらつまらなくなった。前はスゴイやつだったのに」とブログに書いたところカールが激怒したというわけである。このシェフ・ブチ切れ動画は客によってYouTubeにアップされ、大炎上してカールを雇ってくれるレストランはなくなった。

この流れを見ると毒舌批評家にも全部の否があるわけではないと思うが、書くほうは受け取る側がどう思うのかを慮らずに発言してしまうことがある。とくに「毒舌」は受けがいいからどんどんエスカレートしてしまって、言われるほうの気持ちよりもビュー数のことを考える。そういう好き勝手な意見は、いままでは酒場とかで言われて監督の耳には届かなかったけど、ネット社会では作った人に簡単に届けられてしまう。そういう状況に対する作家の気持ちを表現したのは素晴らしいことだと思う。

で、どん底に落ちたカールが後半巻き返しをはかる。雇ってくれるレストランがないなら自分で作ればいい。ということで低予算のフードトラックでオリジナル料理を提供していくのだが、炎上騒ぎで全米に顔が知れたのが有利になって、どこに行っても人気になる。「どこにいるのかわからない」ことが難点のフードトラックも、SNSで「今日はここにいるよ」と告知することで場所を限定せずに活動することができる。もちろん味はお墨付きなので、口コミでどんどん客が増えていく。

カールはSNSのせいで自分がどん底に落ちたと思っていたが、実はそのおかげで本当に自分のやりたいことが出来たのである。いまこうした一流シェフが出すフードトラックは実際にアメリカで人気なんだそうだ。一流レストランでごまをするよりも、自分でトラックを出したほうがいい。こうやって権威に頼らず、実力で評価されることが可能になるのが、いまの時代のいいところだと思った。

あともう1点はっとしたのは、カールが離婚して元嫁が引き取った息子に会う時には遊園地や映画に連れてっていたのだけど、息子が「全然会話がない」と不満に思っていたことだった。カールは「一緒に会うときは楽しみたいだろう?」と言い訳していたけど、結局対話するのを避けていただけだったのだ。

などなど、文句なしに面白い映画なので是非。

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ちなみに元嫁のソフィア・ベルガラは、わたしが好きなコメディードラマ「モダン・ファミリー」で金持ちの父親が再婚した南米出身のトロフィー・ワイフ役で出ている人なので、映画で見て「うおお!」となった。ドラマで見ている人が映画に出てるとアガる。


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