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夏終了

夏が終わった。

思い出すのは、暑い盛りの8月、平日の夜遅く、麻布十番の駅で見た10代の女の子のこと。腰までありそうな長い黒髪をツインテールにしている。ファストファッションというのにはファッショナブルさが足りない、ZARAやforever21やH&Mですらない、ぺらぺらの薄い生地で、露出度がほんのりと高い服を着ている。すごく短いスカートから伸びるのは、すんなりとした白い足。足元のサンダルはヒールが15センチぐらいあるプラットフォームシューズで、コーラルピンクとオレンジの中間のような微妙な色。印象的なのはそのサンダルがすごく煤けていることだった。彼女は切符売り場で1000円だけチャージをした。

その後目黒駅で降りると、彼女も同方向のようで、権之助坂を下りながら誰かにスピーカーフォンで電話をしているのだった。

誰に電話をしているのだろう。友達かもしれないしボーイフレンドかもしれないし付き合うか付き合わないかくらいの微妙な男友達かもしれない。10代の頃の夏は、無限の可能性を持った顔をしながらやってくる。時間は無限にあるように思えるし、どこにだって行けるような気がする。でもいざ夏が来ると、友達と海に行ったり、着慣れない浴衣を着て花火に行ったり、親に嘘をついて夜遊びしてお酒を飲んだり、友達の友達とかよくわからない異性を紹介されて何の記憶にも残らないような会話をしているうちに、あっという間に終わってしまう。

この女の子にとって、この夏はどんな夏だったんだろうなと思う。どんなにこの夏はすごい思い出を作るんだぜと意気込んでも、10年後にはきっと何も思い出せない。メリーゴーランドのようにくるくると回る季節に流されているうちに、いつの間にかたくさんの年を取っていく。でもそれは別に、悪い気分じゃない。

今年の夏は以上です。

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