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あなたは愛する人が離れていくのを笑顔で見送ることができるか 映画『シュガー・ラッシュ:オンライン』

映画『シュガー・ラッシュ:オンライン』(原題:Ralph Breaks the Internet)を見た。

主人公は、ドンキーコングのようなレトロゲームの“悪役”であるラルフと、グリッチ(不具合)があるので女の子向けレースゲーム「シュガー・ラッシュ」で仲間はずれにされる落ちこぼれの少女ヴァネロペの冒険と友情を描いた大ヒット作『シュガー・ラッシュ』の続編だ。

第一作は、どんなに努力しても”悪役”だから嫌われ役になってしまい、どうにかヒーローになろうと悪戦苦闘する(映画中にはザンギエフらが出席する「悪役セラピー会」が開かれる)ラルフと、キラキラした世界で仲間はずれにされ、ゴミだめで寝起きしているヴァネロペが出会い、困難を乗り越え、はみだし者同士が固い友情で結ばれるラストシーンで幕を閉じるというホンワカ映画だった。

映画の舞台はレトロゲームも現役で活躍する、うらぶれたゲームセンターだ。ゲームの登場人物たちは、ゲームセンターが閉店すると休憩時間になり、有線を通じて他のゲームに遊びに行くなどして交流しているのである。そしてこの第二作目では、ゲームセンターにモデムがやってきた。ケチな店長(なぜなら一回25セントのゲーセンだから)がついにインターネットを導入し、広大な世界がラルフとヴァネロペの前に開かれたのだ。

あらすじ:アーケードゲームの世界に住む優しい悪役のラルフと親友の天才レーサー・ヴァネロペは、レースゲーム「シュガー・ラッシュ」が故障し廃棄処分の危機にあることを知り、部品を調達するためインターネットの世界に飛び込む。見るもの全てが新鮮で刺激的な世界に夢中になるヴァネロペと、早くもとの世界に帰りたいラルフは少しずつすれ違っていく。(公式からコピペ)

というわけで、ラルフとヴェネロペはインターネットの世界に乗り込む。そこには何でも教えてくれる検索もあれば、買い物ができるe-bayもある。そして二人はオンライン対戦する凶暴なレースゲーム「スローターレース」(ちなみに『レッド・デッド・リデンプション』をモデルに作られている。『ベイビー・ドライバー』のスタント・コーディネーターをしたジェレミー・フライがカーチェイスシーンを監修)に迷い込む。オンライン参戦するユーザーたちが爆速で走るレースゲームで、至るところに凶暴な罠が仕掛けられている。あまりにも暴力的な世界観にラルフは尻込みするが、ヴァネロペは新しい刺激にワクワクして、ここを離れたくないと言う。

女は新しいことに尻込みせずにチャレンジし、男はいつもと同じものを望む。ラルフはヴェネロペに繰り返し言う。「もとの世界に戻ろう。そして毎日同じ仕事をして、仕事が終わったら一緒に遊んで、寝て、また仕事に行く毎日に戻ろう」と。一方でヴァネロペは、見たことのない世界に目を輝かせ、ラルフたちが見知らぬ人と“仲間”になって、危険なルールのゲームで毎日を過ごすことを望む。

あなたはのんびりした田舎でこどもと暮らしていきたい。でもこどもは「もっと刺激の多い都会に行きたい」と言う。あなたはそれを望んでいない。いつも近くにいてほしいと思っている。でもあなたのこどもはあなたが制御できないくらい大きくなって、そのドアを開けて出ていく。恋人だけじゃない、友達でも、親子でも、あなたがそばにいてほしいと思う誰かが、「遠くに行きたい」と望むこと。毎日いっしょにいると思っていた親友が、「外国に行くのが夢だったんだ」と目を輝かせて語る時に感じる胸の痛み。誰しも経験があることだろう。このすれ違いが、見るものの心をキュウキュウとさせる。

わたしは監督のRich MooreとPhil Johnstonが憎い。なぜなら彼らは完璧で、抜け目がなくて、『ファインディング・ドリー』の監督のようなヘマを絶対に犯さないからだ。あなたは覚えているだろうか。『ズートピア』で、「んま〜悪役って怖いザマスね〜。私は善人だから関係ないザマス」と、完全に対岸の火事として傍観していた観客に銃口を突きつけ、全員恐怖のどん底に叩き落としたあの出来事を。

彼らの映画は恐ろしい。スクリーンの向こうから、見るものの心を、もっと奥の方にある魂をも、直に掴んで揺さぶってくる。わたしは『シュガー・ラッシュ:オンライン』で二時間泣き通しだった。ヘレディタリーとは全く別の意味で泣き通しだった。

この映画は巣立ちについての映画だ。だれかが巣立っていくこと。もしあなたが誰かを巣立たせたり、誰かの元から巣立ったりした経験があるなら、この映画を見て涙をこぼさないことはできないだろう。

「あっちの世界に行きたいの」というヴァネロペに、ラルフは何も言うことができない。ラルフは変化に対応することができない。今いる場所を動くことができない。そうすると、ただ、ヴァネロペを見送ることしかできない。でもラルフにはそれができない。抵抗し、ヴァネロペをどうにか引き留めようとする。その努力が見ていてつらい。

あなたのお腹から生まれ出た、言葉も発せず泣くことしかできなかったお人形が、立ち上がり、言葉を発し、自分の意思を言うようになり、あなたの膝の上を離れて歩き、「クール」な友達とつるむようになる。あなたのあたたかい料理にも見向きもしない。クールな友達と、クールな場所に行ってクールな事をすることだけを望んでいる。そのクールな場所を、あなたは気にくわない。あなたの意思には沿わない。

あなたは多分怖いのだ。あの可愛らしいお人形さんが、あなたに皮肉をいい、自分の膝から離れて赤の他人と居る方を心地よいと思い、いつの日にかーー離れていくのが。その恐れをよそに、その日はやってくる。あの、おくるみにくるまっていたお人形さんが、瞬きをする間に大きくなって、いま、遠くにいこうとしている。

わたしはこの映画を見て、初めて自分のママとパパがどんな思いでわたしを見知らぬ土地に見送ったのかを知った。身が切られるような思いがした。ママが新幹線のホームで、わたしが見えなくなる一センチまでも見送る訳を知った。二ヶ月後に帰るよ、すぐでしょ、と言ってママがどう思うのかを知った。

そしてこの映画は、胸が苦しくなる思いをさせるだけではない。ディズニーの力がどんな風に使えるのか、その権利を100%活かしている。そういえばシュガー・ラッシュはディズニー映画だから、ヴァネロペもディズニーのプリンセスだったんだわ、そういえば。そう言われてみればそうだわ。

そして公式だからこそできる、最高のパロディをかましてみせる。もう完全にやりたい放題だ。公式だからってここまでやっていいの?!

「あなたは何のプリンセス?」
「魔法の髪を持ってる?」
「魔法の手は?」
「動物と話せる?」
「毒を盛られた?」
「呪われた?」
「誘拐された?」
「父親の問題は抱えてる?」
「大きな男の人に救われた経験はある?」

そしてプリンセスたちが○○に身を包むシーンは爆笑なのでぜひ見てほしい!こんなことまで出来ちゃうんだって震えた。

ほかの誰にも、こんな真似はできはしない。

あーーーーズートピアの監督だから身構えてたけど、そんな盾など彼の前では無力もいいとこだった。でもまた見たいです。すごかった。

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