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ハバネロでカレーを作ってみよう

昔、ロンドンに2ヶ月くらい住んでいたことがある。ロンドン市内を転々としていたのだけど、今でこそヒップにジェントリフィケーションされたロンドン東部は当時、かなり治安が悪い地域で、その分生活費も安かったことが滞在の決めてになった。

当時の私はめちゃくちゃ貧乏で、毎日自炊。テスコ(イギリスの西友)で1ポンドにも満たない、この世のものとは思えないくらいまずいトマトソースでパスタなどを作ったり、100枚くらい入ってるんじゃないかという薄切りの食パン(イギリスの食パンは厚さ5ミリくらいしかない)にマーマレードとバターを塗ってかじったりすることで飢えをしのいだ。ベイクドビーンズ、ソーセージ、目玉焼きに焼いたトマトがてんこ盛りになっている脂ぎったフル・ブレックファストは人におごってもらう時しか食べられなかった。そんな貧乏人が買えるようなものでもおいしかったのが牛乳と紅茶、燻製のサバだ。紅茶はティーパック100個入で1ポンドみたいな安い紅茶でもおいしい。特に牛乳は甘くてコクがあって、キャラメルのような味がして、天国のように美味しかったのを覚えている。イギリスのお菓子がおいしいのはミルクがおいしいからだ。

ロンドンの中心部は死ぬほど家賃も生活費も高いので、移民などお金がない人は東部や南部などに住んでいた。わたしはお金がなさすぎて語学学校にも行けないばかりか、地下鉄のパスが高すぎて買えず、毎日2階建てのバスに1時間揺られて中心部まで行っては無料のアップルストアや美術館、図書館などに行って時間を過ごしていた。ロンドンでは民間のアートギャラリーはもちろん無料だし、テート・モダンのようなハイレベルな美術館も常設展は無料だ。ナショナル・ライブラリーももちろん無料なので通いまくった。イギリスのアートのレベルが高いのはこういう環境があるからなんだなと思った。

東部にはカリブやアフリカからの移民がたくさん住んでいて、そんな人達が開いた食料品店もたくさんあった。日本では見たこともない珍しい野菜が売られていて、そういう珍しい食材を使って自炊のするのが楽しかった。

そんなある日、わたしは、カリブ系の八百屋に入って、「かわいい色の小さいピーマン」を見つけた。薄緑、黄色、赤、カラフルな色のピーマンで、手のひらに2つも3つも乗るくらいの小ささだ。たくさん買い込んで、家に帰って、ピーマンカレーを作った。10個ぐらいは使ったと思う。しかし、調理中に異変を感じた。

お玉をかき回す手がめちゃくちゃ痛い。

長時間鍋の上でかき回していたからかな?と思ったのだけど、なんだか匂いもおかしい。私はようやく気づいた。ピーマンだと思ったのは、ハバネロだったのである。

ハバネロは日本だとお菓子で有名だけど、実際に食べてみると辛いなんてもんじゃない。舌が麻痺して焼け付く辛さだ。唐辛子の辛さを決める単位は「スコヴィル値」というものらしいが、ハバネロのスコヴィル値は10万~45万、10万倍の水で薄めると辛さを感じなくなるくらいの半端なさだ。

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出来上がったハバネロカレーを、わたしは一応食べてみた。舌が焼け付いた。痛い痛い痛い痛い!!!!!水道をひねって水を出し、舌を出してひたすら洗い続けた。それでも痛みは全然収まらなかった。

お玉をかき回していた手のほうも、夜がふけるにつれだんだん痛みを増し、夜中には激痛になっていてもたってもいられなくなった。鍋から揮発する激辛成分でやけどしてしまったのだ。氷水のバケツを用意し、一晩中手を突っ込んで寝る羽目になった。

いまもハバネロを見ると、あの夜のことを思い出す。私が言いたいのは、いくら生活に困っていても、ハバネロでカレーを作ってはいけないということだ。

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