小籔さんはなぜイキってる人を憎むのか?

カフェで友人とお茶をした。彼女は「好きな人ができた」と大変うれしそうだ。彼女は普段はクールな方であまり異性に興味がなさそうなので、浮いた話を聞くのはなかなか久しぶりのことである。

「そう。久しぶりすぎて、行動がおかしくなってるらしくって。この前昔からの友達とその人と一緒に飲んだんだけど、友達が『お前、昔のミッキーマウスの映画みたことあるか?』って言うの。昔のミニーマウスって、ミッキーにものすごく媚びてる声を出すんだって。「ねええ〜ミッキイイイ〜」みたいな。『お前、今完全にミニーの声になってるぞ』って言うのよ!完全に自覚がなかったからすごい焦ったわ。ダサすぎて。でも幸い、その人は基本的に人の話をあんまり聞いてないから反応がなくて、『じゃあ見てみるわ』とかサラっと流して次の話題に無理やりそらしたんだけど。恥ずかしかったわ〜」

わたしはその現場を想像してゲラゲラ笑ってしまった。普段はサバサバしている彼女がそんな声を出しているところに遭遇したら、わたしも同じ感想を抱いてしまうかもしれない。そんな久しぶりに彼女のハートを射止めた男子はどんな人なのか?と聞いた。

「とにかく人間ができてる!すっごく優しい!そして頭がいい!でも一番好きなのは、そうやって人類としてすごく優秀なのにイキってないところかな」

と言う。

「イキってる」。

関西芸人の影響で、最近よく聞かれるようになった関西弁だ。「いきがってる」の略で、「ドヤってる」「オラついてる」などが類似語。つまり、周りの気持ちも考えずに一人で調子に乗っていたり、自分の姿をありのままよりも大きく見せようとする態度である。謙虚な気持ちを忘れると、人はどうしてもイキってしまう。なぜか優秀な人ほどイキらず、謙虚で自分を大きく見せようとはしない。言葉というのは不思議なもので、「イキってる」という言葉を知ると、イキってる人間が目につくようになる。その概念がなければ「声がデカイ」くらいで見過ごしていたかもしれないが、「イキってる」という言葉を知ることでそういう人を見ると無償にイライラするようになったりするのだ。彼女は話を続けた。

「最近、Netflixで『すべらない話』を見るようになって。そこで気づいたのが、小籔さんがものすごく”イキってる”ことを敵視しているってことなのね。一番笑ったのは、小藪さんが結婚前に、彼女と彼女の弟、その先輩とスノボに行った時の話で。この話していい?」

「どうぞ..」

「みんな、弟が運転するクルマでスキー場に行くのね。小籔さんは、一般の人といる時は芸人スイッチを切ってるんだって。でも彼女の弟の先輩が、芸人がいるぞ!何か面白いこと言うだろう!ってことで張り切っちゃって、助手席から後部座席の小藪さんに向かって、たまに会話のボールを投げてくると。小藪さんは面倒だからおとなしくしてたら、その先輩が『芸人大したことねえな』ってイキっちゃって。弟をいじったり、ネタトークをしたり、それはそれは調子に乗ってたんだって」

「だいぶ小藪さんの被害妄想な気もするけど...」

「小籔さんはそもそもイキってる人間が我慢ならないのよ。それは多分自分がすごく謙虚な人なんだろうなって思うんだけど。それで先輩は行きの車の中でトークをブンブン回してね。『芸人がなんぼのもんじゃい!!我は覇者なり』ってだんじり祭りみたいになってたんだって」

「車の中でだんじり祭りってなんやねん」

「もうトークのだんじり祭りよ。で、スキー場に着いたら、先輩はますますイキっちゃって、『小籔さんスキーのリフト券買いました?やっぱ一日券っしょ!』なんてノリノリで言ってくる。ますます苦い思いをした小籔さんは、自分達は一般者用で、彼らが上級者用のゲレンデにいるのを下から見てたんだって。そしたら弟がまずジャンプ台から飛んで、先輩が飛んだんだけど、先輩がまっすぐにジャンプ台から飛ぶっていうより落ちて....救急車で運ばれたと」

「ブラックな話だな〜」

「先輩は滑れなくなっちゃって、車で待ってることになったんだって。それで小籔さんが車で待ってる先輩に一応『大丈夫ですか?』って聞いたら、すんごいか細い声で『ぉ〜』って返されて、小藪さんはさっきのだんじり祭りを思いだして笑ってしまいそうになったと...」

「先輩が心配だ...」

「まあそんな感じで、イキる=悪、っていうのが小藪さんの中にはあるんだよね」

すっかり彼女が好きな人の話はどっかに行ってしまい、なぜ小籔さんはイキってる人をそこまで憎んでいるのか?という話でその夜は終わってしまったのだった。

小籔さんのだんじりの話はこちら。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?