見出し画像

棘のように抜けない言葉

女性のエンパワメントというのがメディアでも話題になっていて、発言力のある女性が日々取り上げられている。みんなすごい。人生に目標を持って輝いている。すごい。こちらはドブの中を漁るような毎日ですが...そういう輝く人たちは私達など人民のために活動している人も多いのだが、メディアで華々しく取り上げられているのを見ると、なんかちょっと苦しい気持ちになったりするんだよな。特に全然言われてないのに。「役にたたなくてすみません...」みたいな気持ちになったりする。せっかくエンパワメントしてくれているのに、大変申し訳ないことである。

昔、友人たちとの飲み会があった。会は和やかに進んでいたが、突然その中の一人が、わたしに向かって「お前ってほんと無名だよな」となんの脈絡もなく言ってきた。えっ、、、?!別に有名になるために生きてるんじゃないんだけど、、?!と戸惑っていると、彼はまっすぐ私を見て言うのだった。

「お前さ、全然話題にもならないじゃん。◯◯さんってすごいじゃん。あの女子の活躍見てみろよ。お前のことなんか誰も知らねえよ。お前、終わってるよ」と。

終わるも何も始まってもいねえし、◯◯さんと俺の人生がいったいどういう関係があるのか全くわからないが、彼は私にキラキラと輝いてエンパワメントしてほしいと思っていたのだろう。でもわたしはとくにドブの中でゴロゴロするくらいの活動しか望んでいなかったので、「何もしなかった」。わたしは彼の期待に応えられなかったというわけである。たいへん申し訳なく思う。

数年前のことだ。その人はもうとっくにその発言を忘れたと思う。でも私の心の中にはつららのように刺さり続けている。

サッカー選手、本田拓也さんのインタビューを読んだ。北京五輪代表など、華やかな経歴の方だ。そんな彼は現在、山形のサッカーチームでプレイしているが、古巣の清水エスパルスで、なかなか結果を出せずにいたときに、知らない人から、試合後に食事に行ったレストランでこう言葉をかけられたそうだ。

その年までは、妻と一緒にご飯を食べに行ってたんです。そうしたら知らない人が急に近づいてきて「今日のつまんない試合ありがとうね」と言ってきたことがありました。あのときの成績だったら言われても仕方がないと思います。でも、あのときはプライベートの空間だったんで……。

言った人はもうきっと、そのことを忘れていると思う。傷つけてやろうという意図もなかったんだと思う。でも、その悪気のなさが余計たちが悪い。人間はほんの一言で、誰かの心に一生消えない傷を残すことができる。そしてもちろん、その反対のことだっててきる。一生消えない灯火を灯すことだってできる。

できることなら、灯火を灯す人間でいたいものだ。傷ではなくて。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?