中村安希

自然と動物が好きなライターです。世界旅や登山にもよく行きますが、行き先は「美味しいものが食べられるかどうか」で決めることが多いです。ブログ http://akinakamura.net/ インスタ www.instagram.com/akinakamura22/

8. ひとつだけ約束できること

スタッフが持ってきた段ボール箱の中には、犬用のおしっこシートを敷いてもらってあった。
「どうやって持って行きますか? 後ろで抱っこしていくんでしたら、上は開けたままにしときましょうか」
「えっと、それは、その……」
 車で持ち帰ることが前提となる話の流れに冷や汗が出た。私がしどろもどろになる横で、姉は動じる様子もなく言った。
「ウチは車じゃなくて電車で来たんですけど、蓋って閉じてた方がいいですか?

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7. 捨てられる犬、拾われる犬

「最後が12月2日です。この4回目のワクチンが終わるまでは、犬を外へ出さないでください」
 テーブルの向こうで説明を続ける理事長の言葉を聞きながら、私は約束事が書かれた用紙を視線の先なぞっていった。散歩はどうするのだろう? 運動は? 排泄は? 社会化は? しかし、喉元まで出かかった数々の問いを飲み込んで、私は神妙にひとつ頷いた。こちらの戸惑いを察したのか、理事長がすぐに言葉を継いだ。
「なぜかとい

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6. なぜ里親になろうと思ったのか?

仮契約を終えて中庭へ出ると、私たちは必要な書類を持って本契約に進んだ。会場となる主屋の前には、手続きを待つ人たちが既に4組ばかり並んでいた。最後尾に加わり、空いたいすに座って中庭の犬たちを漠然と眺めていると、ふと、奥の方から視線を感じた。中庭に島のように据えられた二列のケージの奥の列、こちらから見て、島の向こう側に並ぶケージの中から、耳の垂れた茶色い犬が私の方をじっと見ていた。
「あそこに猟犬みた

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5.  俗に言う「犬好き」とは・・・

子犬を見ていた時と比べて、成犬はその十分の一ほどの時間であっという間に見終えてしまった。飼育頭数では子犬を圧倒しているとはいえ、実際に見ることが許されていた成犬は、ごく一部の良犬に限られていた。そしてそのほとんどは、門のところで待っていたときに見た犬だった。門からは見ることができなかった部分、すなわちエリート犬たちがいる中庭のさらに奥の敷地にもたくさんの犬舎が並んでいたが、そこへの入り口は閉じられ

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4. 咬んで、暴れて、破壊して、、、

壁に沿って最後まで見ていくと、端のケージだけ2段ではなく、なぜか3段になっていて、一つだけ飛び出した最上段のケージの中に白茶色の犬が入れられていた。あまり人気がないのだろうか、ケージの前には誰にもおらず、おかげで私はじっくりとその犬を見ることができた。子犬とは言え、体つきはがっしりしていて、性格はやんちゃそのものだった。あどけなさが売りの他の子犬とは違い、1匹だけガツガツ動きっぱなしで、まるで落ち

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3. 旬を過ぎた子犬たちは・・・

ボーダーコリーが散歩に出ていったあと、今度は子犬を抱きかかえた二組の家族が、立て続けに門から出てきた。子犬はどちらも、まだ随分と幼なかった。体はふにゃふにゃで、毛はもふもふしていた。サクラ色の小さな肉球は見るからにぷにょぷにょしていて、そんなものばかり眺めていたら、手の中がうずうずしてきてしまった。順番を待つ人たちからの羨望の眼差しを一身に受けて、子犬の新しい里親は、照れくさそうに何度も何度も頭を

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