【WEE】この世の果ての話をしよう

本題の前に軽く自己紹介をしておこう。
自分こと秋ノ字は、有り体に言って量産型のオタクだ。
某所でTCG「Magic: the Gathering」を嗜みつつ、Fate/GOやらロマサガRSやらのソシャゲでガチャを回しては一喜一憂している。
こうして不特定多数に向けた文章を書くことは基本的にしないのだけれど、予想だにしなかったあるニュースに触発され、こうして筆を執ってみた。
自分のことはこのページを閉じたら忘れてしまっても構わないが、代わりにこれから話す物語のことを頭の片隅に留めていただけると幸いである。

では、本題に移ろう。

支倉凍砂クラスタ(の一部)に電流走る

2019年10月31日、ノベルゲーム「WORLD END ECONOMiCA」(以下、WEE)のクラウドファンディングによるアニメ化企画が発表された。

明日14日からCampfireおよびKickstarterでクラウドファンディングが開始し、それに先駆けてトレーラーも公開されている。

WEEはライトノベル作家の支倉凍砂氏(代表作:狼と香辛料)が主催する同人サークル「Spicy Tails」によって、2011年から2013年にかけて発表・頒布された三部構成の金融SF作品だ。
現在はPC版に加え、Steamやニンテンドー3DSで配信されているほか、電撃文庫から書籍版(全三巻)が発行されており、今年の冬にはPS4やニンテンドーSwitchでの発売も予定されている。

Steamは英語版だが、日本語化が可能なようである。
あとPS Vitaでの発売もされる(追記)

完結から6年。
最近の感覚ならひと昔、あるいはふた昔前と言ってもいいくらいの時間で、週間少年ジャンプならワールドトリガーの連載が始まり、SKET DANCEの連載が終わった年と言えば諸作の読者にはその長さが実感できるだろうか。
それだけ経ってなおこうして新たな展開がなされるというのは実に喜ばしいことで、自分を含めたファンと製作陣が持ち続けた、WEEへの愛着や支持があってのことだろう。

しかしながら、主観ではあるものの、国内におけるWEEの知名度はさほど高くないように思う。
「全年齢向けの金融SFノベルゲーム」というのはいかにも読者を選びそうであるし、書籍版も三冊とはいえ、一冊あたりの文量はかの有名な「境界線上のホライゾン(著:川上稔)」シリーズに匹敵する。

画像1

メルカリで発見した1~3巻の集合写真。加減しろ莫迦!
(https://item.mercari.com/jp/m75041411955/)

コミケのカタログよりも厚い小説を「試しに読んでみよう」と手に取るには相当のフロンティアスピリッツが必要だろう。
致し方ない事情はあるにせよ、そういった点から
「狼と香辛料は知ってるけど、この作品は知らないor読んでない」という人は多いのではないだろうか。

諸般の事情で再読の時間が取れなかったのだが、古い記憶を掘り返しつつWEEの粗筋とその見所を語っていきたいと思う。

青春×月面×金融

遠い未来。いかなる国家にも属さない「人類のフロンティア」として確立した月面都市で生まれ育った少年川浦ヨシハル(ハル)は、夢を叶えるべく巨万の富を求めて家を飛び出し、株式市場を奔走する日々を送っていた。
ある日、巡回の警官から身を隠す最中に謎めいた黒い少女ハガナと出会ったハルは、紆余曲折の末ハガナの保護者を名乗る女性、理沙に匿われ、共に暮らすことになる。
彼女たちとの出会い、そしてハガナのある才能をきっかけとして、忙しくも停滞していたハルの運命は大きく動き出す...というのがWEEのはしり。

「金融をテーマにしたSF作品」と言うといかにも小難しい印象だが、WEEの主軸は「ハルの成長」だと自分は考えている。
物語の当初は自信に満ちた、悪い言い方をすれば自分すらまだきちんと見えていないハルが様々な出会いを通して世界を知り、喜びを分かち合い、現実に打ちのめされ、隣人に支えられ、誰かにために立ち上がり、最後には月面都市そのものを揺るがすほどの大事件を相手取る。
WEEの背骨は、そういう少年漫画のような王道の成長譚なのだ。

ストーリーの中心には常に株式市場があり、起こる出来事も歴史上の金融にまつわる事件をモチーフにしている。
なのでそういった知識があればより深く楽しめるのは確かだが、なければ楽しめないというわけではない。
「狼と香辛料」が中世経済をスパイスに効かせたファンタジー作品として多くの人々へ受け入れられたように、WEEもまた近代経済で味付けされたSF作品と捉えていただければよいと思う。

金は諦めることができる。でも、出会いを諦めることはできない。

人物の紹介はいくらか推敲を重ねたが、
登場時期を含めて物語の詳細な展開に触れてしまう部分があるため、ここでは詳細を割愛させていただく。

ただ一つ、バートンという男の在り方には終始注目して欲しい。
自分が選ぶWEEの推しキャラは、ヒロインのいずれでもよき隣人である理沙でもなく、このやたら恰幅の良い中年男性だ。
彼は何者なのか。彼はハルにとっての何なのか。クライマックスと共に明かされるその答えを、その目で確かめて欲しい。

要するにめっちゃかっこいい。CV誰になるんだろう?

ゼロ距離で感じないことでも 情報は現実になる

各エピソードのOP曲は岸田教団&THE明星ロケッツが担当しており、冒頭のトレーラーで流れている曲も彼らが新たに書き下ろした新曲だ。

PC版第一部のオープニングムービー。澄み渡る空が印象的

東方Projectアレンジ楽曲で一躍人気となり、現在はアニメタイアップ曲やオリジナルアルバムも含めて精力的に活動しているロックバンド。
ファンからのレポート公募が行われた東方アレンジ限定ライブツアー「MOD」も記憶に新しく、来年放映されるアニメ「とある科学の超電磁砲T」では珍しくED曲を担当することが発表されている。

原作を読み込み、それを最大限楽曲に落とし込む岸田の物語に対する真摯な姿勢はここでも健在で、まだ見ぬ世界の先、"前人未踏の地"を想起させる「ワールド・エンド・エコノミカ」(Ep.1)、傷ついた心でなお力強く決意を謳う「cause to decide」(Ep.2)、大事なものを見定め、二度と離すまいと追い求める「月光イノセンス」(Ep.3)はどれも必聴。
番外曲のAlchemy(WEEサウンドトラック、または同人アルバム「ロックンロールラボラトリー」収録)も読了者にとっては聴き逃せない一曲だ。

EDはPF AUDIO、作中のBGMは松本文紀氏がそれぞれ担当している。
両名の仕事もまた素晴らしいものではあるが、失礼ながらWEEを通してしか活動を存じ上げないため、詳しく語ることができない。
彼らの活躍についてはファンの方々へ譲るとして、折を見て知っていきたいと思う。

できるかどうかではない。生き残るには、うまくいくまでやるしかない。

アニメ化に際して最も気になるのは、「どこからどこまでを映像化するのか?」だ。
WEEの総プレイ時間はおおよそ20時間。1ルートあたりのプレイ時間がほぼ等しいFate/Stay Night(総プレイ平均60時間、1ルートあたり20時間)を参考にする場合、全てを映像化するならばTVアニメ2クール、劇場版なら三部構成に相当する。
いずれかのエピソードをクローズアップするなら1クールないし劇場版1本分というところだろうか。

製作陣の采配、あるいは総予算の規模にもよるだろうが、個人的にはやはり全編余すところなく映像化してほしいところ。
ハルとハガナのあれこれだとか、エレノアのあざといムーブだとか、バートンがおいしいところを全部持っていく瞬間だとか、何の脈絡もなく生やされる獣耳だとか、観てみたいものは山ほどある。

一方でクラウドファンディングによるアニメ製作は成果が芳しくない傾向にあるようで、成功例として挙げられる「この世界の片隅に」も、プロデューサー真木太郎氏へのインタビューではその難しさが繰り返し語られている。

本件も例に漏れず数多くの困難に直面するだろうが、「この世界の片隅に」のように、WEEアニメが後の世に語られる名作として結実することを願っている。

ファラオはピラミッドを建てた。ではあなたは、なにをする?

以上が自分なりのWORLD END ECONOMiCA宣伝兼、6年越しの感想文だ。
取るに足らない小さなものではあるだろうが、本件の成功の一助になればと思う。

なお、PC版エピソード1は公式HPで無料公開されている。

最新記事(2018年6月21日付)の末尾にリンクがある

興味はわいたけど買うにはちょっと、という方は試し読みにどうだろうか。
この世の果ての更にその先を目指す少年の物語を、一人でも多くの人に知ってもらいたい。

(※目次はWORLD END ECONOMiCA本編および公式の紹介文、または関連楽曲から引用しています。)

追記

もたもたと書いている間にCampfireのページが公開されていた。

最安値のインターン(¥3,000)にはSteam版WEEのダウンロードキーが付属しており、Stermのバンドル定価が¥4,000弱であることを考慮すれば実質無料どころか買って得すると言っても過言ではない。

また、公式で紹介されたヴァイス・プレジデント(¥27,000)には月面土地所有権権利書が付属するとのことだ。

現状では使い道もなく、当たらない宝くじのような代物ではあるが、
技術が加速度的に発展する将来、もしかしたらもしかするかもしれない。
子や孫の未来のため、あるいは笑い話の一つとして、持ってみるのもよさそうだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?