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デザイナー向け #読書バトン

吉橋です。多摩美術大学 情報デザインコースでサービスデザインとかUI/UXデザインとかの研究・教育をしています。
有名人&卒業生のこばかなさんに指名されたら逃げられないので(笑)、おすすめ本をリストアップしてみます。紹介文は過去の自分のfacebookへの投稿などを転載してるものもありますがご容赦を。(note初投稿のためエディターの仕様に戸惑いつつ。)
一般に「デザイン」と呼ばれている分野の本は少なめで、いろいろな分野の本が混在するリストになりました。でも「デザイナー向け」は意識して選んだつもりです。

▼サービスデザイン

サービスデザインの教科書(Kindle版),武山政直 著
日本でのサービスデザイン研究の第一人者、武山先生(慶應義塾大学)の著書です。サービスの基本、デザインの基礎から、サービスデザインとその事例紹介、そしてこれからの可能性までていねいに解説されています。サービスデザインの入門書って何がいいですか?と聞かれたら、いままではTiSDTの日本語版などを勧めていましたが、これからは迷わずこの本をすすめたいと思います。重要な概念のひとつ「S-D ロジック」もきっちり(正確に)解説されていて素晴らしいので、難解でわからないという方は理解の助けになると思います。

決定版 FinTech―金融革命の全貌 Kindle版,加藤 洋輝, 桜井 駿 著
金融も「サービス」ということでこの分類に入れてみます。フィンテック=銀行 という単純な関係でないことがわかりました。証券会社、生保・損保、クレジットカード業界、ITベンダーなど様々なプレイヤーがいることがわかります。なるほど確かに。ほかに、地銀への影響とかAmazonの参入などにも言及。

▼認知心理学,UIデザイン

誰のためのデザイン 増補・改訂版―認知科学者のデザイン原論,D.A.ノーマン 著
基本中の基本、ということで挙げておきます。これを読まずしてUIデザインを語るなかれ、というくらいの1冊です。
初版(誰のためのデザイン?)の日本語訳が出たのは1990年でした。このころから国内のメーカーにユーザー・インタフェースのデザインを専門とするデザイン部門が続々と作られ、使いやすさやわかりやすさが製品にとって重要なものとして考えられるようになりました。またその実現に取り組むデザイナーが出てきました。私もそのうちのひとりで、その意味でこの本にはとても大きな影響を受けています。当時、メーカーの現役のデザイナーたちが終業後にこの本(初版)を持ち寄って、勉強会を開いて議論を交わしていたのを思い出します。

心を動かすデザインの秘密 認知心理学から見る新しいデザイン学,荷方 邦夫 著
認知科学とデザインをつなぐ入門書です。はじめの一冊としてどうぞ。専門書よりは平易に書いてあり気楽に読めます。

さよなら、インタフェース -脱「画面」の思考法(Kindle版),ゴールデン・クリシュナ著, 武舎るみ, 武舎広幸 訳
原書は2015年の出版。著者は、画面にしばられないユーザー・インタフェースとして、ノー・インターフェイス(No UI)を提唱します。VUI時代を見通すような論考です。

▼デザインマネジメント、経営
デザイン組織のつくりかた デザイン思考を駆動させるインハウスチームの構築&運用ガイド,ピーター・メルホルツ, クリスティン・スキナー 著
先日出たばかりの本で今まさに読んでいます。原書のタイトルは“Org Design for Design Orgs”で、デザイン組織の「Organization Design」つまり組織設計についての本です。組織で働くデザイナー、部下がいるデザイナーやデザイナーをマネジメントする立場の人、デザイン組織を有する企業のマネジメント層/経営者、スタートアップのひとたちにも必読の1冊になると思います。
デザイナーだけでなく、経営/経営学クラスタのみなさんにもぜひ知って欲しいところです。社長の机の上に一冊置いておくとか。

突破するデザイン あふれるビジョンから最高のヒットをつくる(Kindle版),ロベルト・ベルガンティ 著, 八重樫 文, 安西洋之 監訳
ベルガンティ教授は、デザインの価値は問題解決ではなく「意味のイノベーション」にあると説きます。私は、デザイン思考が流行って以来「デザインは問題解決!」と連呼されるたびに違和感を感じていたので、「意味のイノベーション」に共感できる部分が多く、たいへん興味深く読みました。意味のイノベーションのための「内から外へ」というアプローチや、「批判(criticism)」は美大の文化と重なる部分も多いと感じます。

知識経営のすすめ ナレッジマネジメントとその時代(Kindle版),野中郁次郎, 紺野登 著
野中先生・紺野先生の著書から読みやすいものを一冊。経営の視点から見た広義の「デザイン」について知ることができます。知識経営・知識創造という経営の文脈のなかでデザインや組織の創造性を俯瞰してみることができます。

▼マーケティング

新訳 経験経済 脱コモディティ化のマーケティング戦略,B・J・パインII , J・H・ギルモア 著, 岡本 慶一 訳
"The Experience Economy"(1999)の再翻訳版。経済価値としての「経験」や経験価値、経験ビジネスについて扱った本です。初版の日本語版が出たのは2000年ですから、マーケティングの分野では早くから「経験価値」について注目され議論されていたことになります。経験価値を考えるにはここ(基本)へ立ち戻ることにしています。

▼その他

「無知」の技法 NotKnowing 不確実な世界を生き抜くための思考変革,スティーブン デスーザ, ダイアナ レナー 著, 上原 裕美子 訳
知らないこと、不確実なことに向き合うための指南書です。知っていること(既知)を疑い、知らないこと(未知)を受け入れて受容した上で、新しい問いを自ら生み出すための探求の書、と書くとあやしげな自己啓発書のようですが、そうではありません。「知らないこと」がテーマの本なので説明が難しいのですが、かなりおすすめしたい本です。

博報堂のすごい打ち合わせ(Kindle版),博報堂ブランドイノベーションデザイン局 著
クリエイティブな打合せはこうでなくては、と思わせる内容です。特に、博報堂社員が語るコラム(COLUMN)と、第5章「8つの質問」、第6章「ひとりブレスト」がおもしろいです。「博報堂の打合せは、50%が雑談でできている。」「『会議』ではなく『打ち合わせ』」「打ち合わせは雑談から始めよ」などなど衝撃の項目が並びます。クリエイティビティが至上命題の組織ならでは、そして「生産性を上げるために雑談をする」とかサラッと書いてしまうあたりに、実績に裏打ちされた現場の経験知の凄みを感じます

逆説のスタートアップ思考 (中公新書ラクレ) Kindle版,馬田隆明 著
東京大学 馬田さんの説く「逆説の」スタートアップ思考。「スタートアップ思考」の特性としては美大の志向性と共通部分が多いので、美大生は起業向きのはずなのですが。個人的にはデザイン思考よりこっちのほうが重要かなと思っています。日本でもAirbnbのような美大発のユニコーン企業がいつか出てくることを願いつつ。

いま世界の哲学者が考えていること(Kindle版),岡本 裕一朗 著
人工知能(AI)、ロボット、遺伝子工学、フィンテックなど、テクノロジーと人間と社会が関わり合うなかで避けて通れない様々な選択があり、デザイナーが当事者としてその現場に立ち会うことも増えて来そうです。「哲学」も必要です。

...紹介できなかった本もたくさんありますが、ひとまずこのへんで。
バトンは指名しないので読んだ方で書きたいと思った方はぜひ。(^^)(2017.12.16)


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