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読んだ、面白かった! -1-

 堅苦しいことは抜きにして、読んで面白かった本を紹介するコーナー。

 言いたいことはただ一言。

 面白いから読んで!

 栄えある第一回は、田中兆子の『懲産制』。

 文庫本に収められている小谷真理の解説から、本書の設定を紹介しよう。

 部隊は、二十一世紀も後半の近未来日本。スミダインフルエンザという謎の流行病が蔓延し、若年層の女性の数が激減する。その一方で、全く同時期に、男性から女性への性転換が容易になるという技術が開発される。

 それゆえ、十八歳以上三十一歳未満の男性に、二年間女性になる義務を課す「懲産制」が導入される。

 驚いたのは、この小説が書かれたのが、2018年ということだ。なんと、コロナパンデミックの前ではないか。ものすごい先駆的な小説だ。作者自身が、現実に慄いたのではないだろうか。

 文庫化にあたり、加筆修正をおこなった、とあるように文庫本ではコロナウイルスのこともさらりと触れられているが、本書のテーマはそこではない。

 この小説で描かれるのは、女性になった五人の男性のお話。それぞれ、育った境遇も置かれた立場も、懲産制に対する考え方も異なる登場人物が、女性になったが故の苦悩を通して、色々なことを考えていく。

 男が女になる、もしくは女が男になる、というのは古今東西よくあるテーマだ。『とりかえばや物語』という古典作品もある。、

 男の妄想として、女になりたいという気持ちはある。それは女性として生きたいわけではなく、女になってちやほやされたい、という非常に分かりやすく薄っぺらい願望だ。要するに「若くて」「美人」になっていい気分に浸りたいという男性に都合の良い女性像丸出しな欲求だ。

 こういう感覚が、男性の意識改革を妨げているのだろうか。

 この小説は、そんな男の甘い願望をあっさり打ち砕く。再び解説から引用する。

 例えば、性転換すると、妊娠可能な身体にはなるが、必ずしも美少女になるわけではない。

 子宮はできても、体はいかついままという状態でルッキズムに晒されるのだ。そういった、男性が無意識にやってしまいがちなこと、言ってしまいがちなこと、が縷々語られる。自分が懲産制の当事者になって、生きるとしたらどんな「女の人生」を生きようとするか、身につまされるだろう。

 さりげなく、人種差別や国籍差別なども触れられているのだが、ここはもうちょっと掘り下げてもらってもよかったかと思う。

 隣の芝生は青く見える、という。男性から見ると、女性は楽しそうに生きているなぁ、と気楽に考えがちだが、そんな浅はかな幻想にガツンと一発喰らわす、そんな一冊だ。

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