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【読書】Ken Follett - Fall Of Giants/ケン・フォレット 巨人たちの落日

最近noteへの投稿間隔が開いていたのは、大作に手間取ったからでした。以前書いたように、長くて読むのを過去に断念していたケン・フォレットさんの大作を改めて気合を入れて読むことにしたのですが、上・中・下三冊からなる本作は思ったよりも手こずりました。

ということで私としても多分これまでで一番長いレビューです。ネタバレになるので知りたくない人は読み終わってからその思いを共有してください。わかってもいい、知りたいと思う方は遠慮なく読み進めてください。ではどうぞ!


概要

本作は第一次世界大戦開戦前から終戦までをロシアの兄弟、イギリスの貴族と労働者階級、ドイツの貴族、アメリカの裕福な若者といった主要な人物が絶妙に史実と相互に絡みながら紡いでいく壮大な物語です。

タイトルの示す通り、20世紀初頭、それまで栄華を極めてきた欧州諸国の混乱、戦争、人々の苦難が描かれます。

しかもこれはまだ三部作の一つ目。どうです?聞いただけでもワクワクします?それとも気が遠くなります?まあ過去に大聖堂あたりを読んだことがある人であれば大丈夫でしょう。

主な登場人物と関係

ロシアのペシュコフ兄弟

真面目な兄グレゴーリィが一生懸命貯めたお金で買ったアメリカ行きのチケットを弟レフが殺人の罪から逃げるためになりすまして使って逃げて、しかも孕ませた女性も置いていくというとんでもないことをやります。でも彼が乗った船はアメリカではなくウェールズに。

ウェールズのウィリアムズ姉弟、フィッツハーバード伯爵とその妹モード

その頃ウェールズでは炭鉱が丁度盛んで、街全体が貴族階級に支配されていました。労働者階級のウィリアム・ウィリアムズ、通称ビリー・トゥワイスとその姉エセルは非常に弁が立つ姉弟でした。エセルは支配者階級である貴族の邸宅で女中をしていましたが、その美貌から伯爵が手を出してその子を孕ってしまいます。実にあるあるです。

ワルター&ロベルト・フォン・ウルリッヒ、ガス・デュアー

フィッツの家には様々な貴族が出入りします。彼は政治的な野心もあり、客を招くのです。彼の妻ビーはロシアの皇女の一人で、フィッツはロシア語が堪能です。ビーと彼女の兄は幼い頃ペシュコフ兄弟の人生に深く関わっています。

フィッツハーバートの邸宅、タイ・グウィンに出入りするメンツにはドイツ大使館勤めのワルター、そのいとこでオーストリア人のロベルト、アメリカ人のガス・デュアーなど多士済々です。ワルターとモードは互いに惹かれ合い、ロベルトは人に話せない秘密を持っています。ガスは父親が上院議員で自身も若くして大統領の側仕えをする身。

第一次世界大戦への道

やがてオーストリアの皇太子が襲われ、各国の思惑が交差する中、これまで紹介してきた人物たちもそれぞれの立場で戦争回避に奔走するのですが、避けられず開戦となります。

本書は長い年月・歴史上の出来事にうまく想像上の人物たち、しかも結構な人数を複雑に絡み合わせつつ、語っていくので、以下自分の理解のために順を追って整理しました。

章立てと主な内容

  1. 上巻

    1.  プロローグ
      第1章 1911年6月22日
      サウス・ウェールズ、アバローウェンのビリー・ウィリアムズの13歳の誕生日、炭鉱におりる日の出来事。

    2. 第1部 暗雲

      1. 第2章 1914年1月
        アバローウェンの炭鉱を含む広大な土地の所有者フィッツハーバート伯爵28歳と彼の妻プリンセス・ビーを中心に描かれる。
        タイ・グウィンと呼ばれる彼の大邸宅に集まるさまざまな人たちが、欧州各国の情勢、政治に対する想い、個人間の愛憎を交え綴られる。
        タイ・グウィンでメイドとして働いているビリー・ウィリアムズの姉エセル、フィッツの妹モード、ドイツ大使館勤めのワルター・フォン・ウルリヒ、その従兄弟でオーストリア人のロベルト、アメリカ人のガス・デュアーなど後々も重要な役割を果たす人々が次々登場。
        タイ・グウィンに国王を招いた日に炭鉱で爆発事故が起きる。そしてエセルはビリーとのつながりから事故に関する情報を国王に報告することに。その時のエセルの雄弁な語り口や動き、そしてその美貌はフィッツの目にとまる。

      2. 第3章 1914年2月
        フィッツとガスのロシアへの情報収集の旅から始まる。ロシアのグレゴーリィとレフのペシュコフ兄弟が登場。サンクトペテルブルグ最大の工場、プチロフ機械製作所に勤めるグリゴーリィは両親亡き後一人で弟レフを養い育てていた。彼の夢は金を貯めてアメリカに行くこと。ある日グリゴーリィは嫌味な警官に付き纏われていた美しいカテリーナを助け、匿うことに。カテリーナの美しさに見惚れるグリゴーリィだが、カテリーナは家に帰ってきたレフに釘付けに。それを見たグリゴーリィはショックを受ける。

      3. 第4章 1914年3月
        アバローウェンでは炭鉱事故で亡くなった8人の未亡人に立退を迫る経営からのレターを端に、ストライキが起きる。事故をきっかけに距離感の縮まったエセルとフィッツ、やがて二人は男女の仲に。
        炭鉱未亡人やストライキに対し、炊き出しをするなど手を差し伸べたように見えたフィッツではあったが、エセルの国王への手紙も虚しく救いの手は差し伸べられることはなった。

      4. 第5章 1914年4月
        ドイツ大使館勤めのワルターとモードの恋の鞘当て。ワルターの父、オットーはモードのしていることが気に入らない。だが二人の恋は燃え上がるばかり。一方はアメリカはメキシコとの間で揉めていた。そのメキシコに弾薬を補給すべくドイツが船を送り、アメリカはそれを阻止したことで戦争に突入した。だがこれは国際法上違反となり、アメリカはドイツに謝罪することとなった。

      5. 第6章 1914年6月
        アメリカ行きのチケットを買う資金が貯まり、書類も揃え、送別会も開かれたグリゴーリィ。だがレフはいざこざを起こし、人を殺してしまい、追われる身に。そして逃げるために兄になりすまし、全てを持っていってしまう。家にはレフを好いていたカテリーナを残し。しかもカテリーナは妊娠していた。
        レフの乗った船が着いたのはニューヨークではなくカーディフだった。それを知ったレフは愕然としたが、とにかく稼いでニューヨークに行かないといけない。なんとか仕事を探し、たどり着いたのはなんとアバローウェンの炭鉱。レフはスト破りのために集められた外国人労働者にまじっていた。
        数日後、サラエボでオーストリアでフランツ・フェルディナンド大公が殺害される。第一次世界大戦のきっかけである。

      6. 第7章 1914年7月上旬
        戦争への道を回避すべく奮闘するワルター、そしてモードとの恋。
        どの本で世界史を習うよりもためになる第一次世界大戦開戦への流れが綴られる。各国のしがらみ、思惑は読んでいて本当に面白い。

      7. 第8章 1914年7月中旬
        エセルの体に異変が起きる。フィッツの子を身籠ったのだ。フィッツは結局金で片をつけ、エセルはタイ・グウィンを離れロンドンに行く。

      8. 第9章 1914年7月下旬
        ワルターの努力にもかかわらず、ドイツは開戦への道を歩み始める。

      9. 第10章 1914年8月1日〜3日
        ビーがフィッツの子をみごもる。モードとワルターは戦争で離れ離れになる前に大きな決心をする。

      10. 第11章 1914年8月4日
        ドイツはベルギーに侵攻した。もうワルターのイギリスでの時間もあとわずか。モードと二人はエセルとロベルトの協力を得て、ついに結婚式を挙げ、誰も知ることのないまま夫婦となった。

  2. 中巻

    1. 第二部 巨人たちの戦争

      1. 第12章 1914年 8月上旬〜下旬
        サンクト・ペテルブルグ、カテリーナとグレゴーリィから中巻はスタート。レフの子供を孕っているカテリーナと生活のため同居していたが、やがて戦争に行く間のカテリーナの生活を考えて結婚することに。元々グレゴーリィはカテリーナのことが好きだったので、これはいいことなんだと思ったけど、彼女にレフへの気持ちがまだあると思うと踏み込んだ関係になりきれないまま戦場に出ること。

      2. 第13章 1914年 9月〜12月
        フィッツはパリで諜報活動に従事していた。戦場でビーが出産したことを聞き喜ぶフィッツ。そしてクリスマスの日、中間地帯ではイギリス、ドイツの両軍の兵士が戦わず談話をし始めた。そこでフィッツはワルターと再会する。ワルターはフィッツにモードに自分がまだ無事生きていることを伝えるよう頼むのであった。

      3. 第14章 1915年 2月
        ロンドンの下町でミルドレッドたちとたくましく暮らすエセルのもとに弟のビリーがやってくる。やがてエセルも出産を迎える。

      4. 第15章 1915年 6月〜9月
        アメリカについたレフはヴィヤロフ一家の仕切るまち、バッファローへ。小銭稼ぎをしていたレフはある日ヴィヤロフに目をつけられ彼の運転手に。そこで彼の娘オルガを孕ませてしまう。
        実はその時オルガはガス・デュアーとの婚約話が進んでいたのが、婚約は破談となり、レフがオルガと結婚することになった。

      5. 第16章 1916年 6月
        ビリーがアバローウェンの仲間たちとフランスでの戦いに赴くまでが語られる

      6. 第17章 1916年7月1日
        フィッツに率いられたアバローウェンの子供たちからなる舞台はワルターのいるドイツ部隊と遭遇し、やり込められ、フィッツも大怪我を負う。

      7. 第18章 1916年7月下旬
        エセルは息子ロイドを連れて里帰り。父親との関係にようやく雪解けが。

      8. 第19章 1916年 7月〜10月
        ポーランドの戦場からサンクト・ペテルブルクに戻ったグレゴーリィは飢えている街の人々に憂いを覚える。一方カテリーナとの関係に変化が訪れる。いつしかカテリーナが愛しているのはレフではなくグレゴーリィになっていたのだ。ここは読んでいて嬉し涙が出た。

      9. 第20章 1916年 11月〜12月
        ガスはウィルソン大統領の欧州訪問に同行し、ベルリンでワルターにあう。そこでワルターからモードへの手紙を預かる。

      10. 第21章 1916年 12月
        フィッツと再会したエセル。フィッツは妾用の家を申し出るがエセルは躊躇する。エセルは地元政治家バーニーレクウィズと親交を深めていく。エセルは政治活動に傾倒していく。

      11. 第22章 1917年 1月〜2月
        ワルター、フィッツ、そしてガスが各国の思惑・政治を背景に絡み合う。ガスとローザの距離が縮まっていく。

      12. 第23章 1917年 3月
        ペトログラードでグレゴーリィ目線でロシア社会の問題が語られる。

  1. 下巻

    1. 第2部 巨人たちの戦争(承前)

      1. 第24章 1917年 4月
        ワルターは亡命中のレーニンの帰国を支援する任務につき、グレゴーリィはレーニンを出迎える。

      2. 第25章 1917年 5月〜6月
        浮気現場を抑えられたレフは軍に入ることに。同時にガスも軍に入ることを決意する。

      3. 第26章 1917年 6月中旬
        バーニーと結婚して4ヶ月、前々から女性の権利が守られていないと思っていたエセルは政治への思いが募る。そして些細な違いからモードと仲違いをしてしまう。

      4. 第27章 1917年 6月〜9月
        グレゴーリィのレーニン警護、ワルターのロシア潜入、農民の反乱、フィッツとびーはアンドレイ皇子を訪ねるが救うことはできず、ロシアの革命は進んでいく。

      5. 第28章 1917年 10月〜11月
        トロツキー、レーニンが動く。革命のど真ん中にいるグレゴーリィは家に帰れない日々が続く。その最中にカテリーナはグレゴーリィの娘を産んでいた。

      6. 第29章 1918年 3月
        フランスにいたワルターはアバローウェンパルズと交戦する。

      7. 第30章 1918年 3月下旬〜4月
        ビーは二人目の男の子をうみ、フィッツはウラジオストクへいくこととなる。

      8. 第31章 1918年 5月〜9月
        アメリカ軍が参戦しワルターのドイツ軍と交戦する。ガスの活躍もありアメリカが勝つ。ワルターは脛骨を撃ち抜かれ負傷する。

      9. 第32章 1918年 10月
        コサック支援のため、ウラジオストックに集まるフィッツ、アバローウェンパルズ、そこから部隊はシベリア・オムスクへ。レフも通訳として連れて行かれる。
        ビリーは暗号で現状をエセルに伝える。一方、エセルは議員立候補を勧められ、夫の不評を買う。

      10. 第33章 1918年 11月11日
        それぞれの終戦。
        オムスクについたアバローウェンパルズはそこでレフから終戦の知らせを聞く。
        ガスはドイツと交戦し、終戦の直前に友人を失う。
        エセルは妊娠していることがわかり、下院議員への立候補を取り下げることにした。

    2. 第3部 新しい世界

      1. 第34章 1918年 11月〜12月
        終戦後の補償、再建で各国の思惑が動き始める。

      2. 第35章 1918年 12月〜1919年 2月
        バーニーは落選した。
        国際連盟、講和条約と奔走するウィルソン大統領につきそうガス。ガスはローザと恋に落ちる。

      3. 第36章 1919年 3月〜6月
        フィッツ側にいたレフはソヴィエト側に捕まり、グレゴーリィと再会を果たす。お互いのこれまでを分かち合うが、溝を埋めることはできず、送還とまでは行かないまでもレフは中間地帯で解放される。
        ビリーはエセルに書いた手紙の件でフィッツに軍法裁判にかけられ、10年の懲役刑をくらう。

      4. 第37章 1919年 5月〜6月
        ワルターとモードは再会を果たし、正式な結婚をすることを決める。

      5. 第38章 1919年 8月〜10月
        ガスとローザとお互いの気持ちを再確認し、結婚することを決める。

      6. 第39章 1920年 1月
        戦争から戻ったレフ、だが妻オルガから愛娘デイジー以外にも子供がいることをなじられ、義父ヨセフと揉み合い、ヨセフは心臓発作で亡くなってしまう。捕まることを恐れたレフはカナダへ逃亡するが、禁酒法の時代にカナダからウィスキーを密輸してビジネスすることを思いつき、逃げるどころか自らバッファローに戻った。
        カナダウィスキーで再興できるファミリービジネスと引き換えにオルガの気持ちを引き寄せ、ヨセフの死について記者会見を行い自らの潔癖を証明し、ヴィヤロフファミリーのボスに返り咲くのであった。 

      7. 第40章 1920年 2月〜12月
        ビリーハエセルの活動を受けて4年間の懲役生活から解放され、ミルドレッドを伴いアバローウェンに戻る。
        ロシアではボルシェヴィキがメンシェヴィキを弾圧していた。

      8. 第41章 1922年 11月11日〜12日
        ワルターとモードの間にはエリックとハイケという二人の子供ができていた。ドイツでは戦後処理の中、貧困が問題となり始め、ヒットラーが台頭し始めていた。

      9. 第42章 1923年 12月〜1924年 1月
        ビリーもエセルも議員になり、政治は貴族だけではなく、民衆の手のものになった。

このように第一次世界大戦開戦前夜から数年間の出来事ですが、たっぷりと読ませてくれます。

この次は4巻ものの更なる強敵「凍てつく世界」が待ち受けており、現在攻略中ですが、本作の主人公たちと共に少しだけ登場した子供達の世代の物語で第二次世界大戦を挟んでの話となります。本作を読んで、世界に入り込み、勢いがついてきたので頑張って読んでますが、登場人物が結構複雑なので、時折振り返りつつ読んでます。登場人物の関係などは図にしてわかりやすくできないか、考えているのでそれも合わせて次回は紹介していきたいと思います。

人物相関

と言いつつ、少し整理しておきましょう

巨人たちの落日 主な登場人物たちの相関図

ここに書ききれていない人物、繋がり、エピソードもありますが、ある程度カバーしたつもりです。これを元に次の作品の複雑な相関関係を明らかにしていきたいと思います。

ということで次作、今ようやく半分くらいまで来たので、読み終わるまでもう少し時間かかると思うので、あまり期待せずお待ちください。

おすすめ度:★★★☆(3.5くらいでしょうか、ちょっと人物紹介や背景描写などどうしてももたつきがあり、物語にテンポが出てくるまで時間がかかった感が拭えません。ですが読み応えは保証します。折り紙つきです!)

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