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中学受験マンガ「二月の勝者」を語る

人気中学受験マンガ「二月の勝者」を紹介します。ご存じない方のために基本情報です。著者は高瀬志帆さん、ビックコミックスピリッツに2018年より連載。コミックスは現在20巻まで発売しています。私も全巻持っています。柳楽優弥(やぎら ゆうや)さん主演でドラマ化もされました。 

桜花ゼミナール吉祥寺校という渋谷大崎(四谷大塚のパロディ)系列で中学受験専門の塾が舞台です。細かいストーリーはコミックスをご覧いただくとして、今回ははじめに主人公の黒木蔵人(くろうど)の名言を紹介していきます。2021年9月の教室通信を加筆修正してアップしています。


黒木の名言①

君達が合格できたのは、父親の「経済力」。そして母親の「狂気」。

二月の勝者 第1巻 第1講 黒木

私がこのマンガがおもしろそうと思ったのは初回のこのセリフでした。中学受験はお金がかかります。ですから父親の「経済力」はたしかにその通り。しかし、母親の「狂気」も合格の秘訣であると塾業界の人はわかっていたものの文字にした人はいなかったのではないでしょうか。佐藤ママの著書「中学受験から高校・大学受験まで役立つ 親がやるべき受験サポート」や佐藤ママのYouTubeも刺激的ですが、大変参考になります。すべてをできるのは佐藤ママだけなので1つでも参考になりそうなところからはじめてみてください。「ミスはゴミ」と言ってみたいです。

黒木の名言②

見込みのない戦いを勧めるほど私は愚かではありませんよ。

二月の勝者 第6巻 第55講 黒木

この業界で20年以上働いているものにとっても納得の一言です。作者の方も入念に塾関係者に取材したそうです。私の塾では模試の年間偏差をもとにした過去の先輩たちの合格率と受験生の皆さんの年間偏差値を照らし合わせてデータを駆使したデジタルな側面でのアドバイスと、中学校の先生たちとかわす、今年の入試状況や来年の合格の出し方などのアナログの情報を合わせて併願校のおすすめしていきます。実際にある中学の先生からは、先生の教室は合格率が非常に高い。受かる生徒しか受験させていない。もっとチャレンジ層を受けさせてほしい。と言われることもあります。私自身は誉め言葉と受け取っています。

黒木の名言③

2月1日の本番その日まで、学力は伸びます!!

二月の勝者 第7巻 第62講 黒木

これもまさにその通りです。私の塾では最後の模試はクリスマス前後です。しかしこのあとには冬期講習や1月の埼玉入試もあります。毎年「合格しました」の報告を受けるまで生きた心地はしません。本人たちがぎりぎりまで努力したことはいうまでもありませんが、私がアドバイスした中でも効果的であった思うものは第一志望校の前の受験の経験(お試し受験)です。開成や麻布を受験する生徒には12月に東海地方の名門校、海陽中等(特別給費)を受験してもらいます。受験は都内でできます。合格したら6年間の学費、寮費も含め、ほとんどかかりません。ですから、それなりに合格ラインは高いものです。合格であっても不合格であっても冬期講習の前にこの厳しい入試を体験しておくことはプラスになります。そして年が明けて1月上旬、奈良県の名門校、西大和学園の入試があります。西大和学園の東大実績は渋谷幕張に次いで共学校2位です。それだけの難関校です。1月の栄東をはじめとする埼玉入試の前にこの2校の入試を経験した子ども達は埼玉入試の前にすでに顔つきが違っていました。

本命の2月入試の前には1月22日の千葉最難関校、そして共学No.1の渋谷幕張の入試があります。私は前泊(幕張付近のホテルに前日に泊まり込みでいくことです)をおすすめしています。子ども達に聞くと結構入試を楽しめたようです。ここは共学校ですが男子と女子の合格者数が大きく違います。女子には狭き門。御三家の桜蔭やJGよりも難関と言えます。ある年のことですが桜蔭に合格した生徒4人のうち渋幕にも合格したのは1人でした。しかし、不合格になった生徒達も口をそろえて渋幕を受験してよかったと言います。そこからラストスパート人が変わったように勉強したといいます。合格であっても不合格であってもそれは経験となり第一志望校にプラスになると私は考えます。


先ほども述べたように二月の勝者は綿密な取材が行われていると感じます。その中でも中学受験のリアルを描いているなと思うエピソードを紹介します。

二月の勝者のリアル①

実は、55から60の間はいうなれば、断絶した崖道(がけみち)

二月の勝者 第3巻 第26講 黒木

55と60というのは偏差値のことです。偏差値のしくみを知っていればこれは納得できると思います。偏差60は上位15.87%(6.3人に1人の割合)、偏差55は上位30.85% (3.2人に1人を割合)%でいうと倍近くちがうのですね。算数で言えば60を超えるにはノーミスでいかないとかなりつらいです。まずは計算ミスをなくすこと。そして正答率10%程度の問題も2問に1問は正解できる突破力が必要です。つまり初見の問題にアタックするチャレンジ精神です。

守りだけでは限界があって日頃の勉強でも少し難しい問題にじっくり取り組んでいくことが必要です。崖道という比喩は、どうにかすれば渡れないこともないが、とても時間がかかるということでしょう。テスト直しも非常に有効です。初見の問題を解けるようにする前に、一度見たことがある問題を確実解けるようにするほうが効率はよいです。

二月の勝者のリアル②

私は「せっつけ」とは言っておりません。口を出すとその後、ケンカで1、2時間は勉強にならないですよね?

二月の勝者 第5巻 第42講 黒木

マンガの中では夏期講習前の保護者会でのこのセリフです。親子喧嘩は入試にとってはマイナスです。特に試験結果にマイナスとなってあらわれます。テスト前の親子喧嘩は厳禁です。あっという前に成績がダウンします。脳が興奮状態のままでは冷静にテストに臨めません。子どもが変わらないのであればまずは大人が変わりましょう。冷静なコーチでないと子どもはついていきません。心を開きません。

二月の勝者のリアル③

でも貴方がわかってないはずがない。最難関校が!開成が!!本当に!絶望的に!手の届かないものであるということを!

二月の勝者 第10巻 第89講 灰谷

中学受験の難関校が集う2月1日。その中でも開成は群を抜いて難関です。私の塾の偏差値で最高の数値72の中学は2校あります。開成、そして筑駒です。No.1を目指す人が集まる入試です。当然受験生は偏差値70以上の子ども達。その子ども達が、親御さんが我々塾講師が自信を持って送り出したエースたちが3人に1人しか受からない入試なのです。算数は問題数も少なく、一問の配点も高いので運の要素も含まれてきます。知力、体力、時の運すべてがかみあってはじめて合格できるのです。以前、開成に合格した生徒が合格後の報告で私に言ってきました。「先生、僕の合格は本当にギリギリだったと思います。」この生徒は模試で全国1位を取ったこともあります。入試は受験した学校全勝でした。その生徒であってもギリギリの戦いなのです。誰にとってもチャレンジ校、それが開成なのだと思います。


私は二月の勝者は電車の中で読むことが多いのですが、思わず涙ぐんでしまうこともあります。そんな感動のシーンを紹介します。ぜひマンガを手に取ってお読みいただくことをおすすめします。

感動のシーン①

「やるだけやってみようよ?」

二月の勝者 第7巻 第60講 柴田

ジュリ・まる(直江樹里と柴田まるみのコンビ)は二月の勝者の中でも人気のキャラです。悩み多き受験生の柴田が直江を励ますシーンに感動しました。日頃、元気なこれぞJG受験生の直江の弱点、国語が苦手という場面です。

感動のシーン②

ママ、「行けるといいね」じゃなくて、「行く!」なんだって!

二月の勝者 第7巻 第61講 直江

第61講も引き続きジュリ・まるコンビの回です。 志望校に合格する子というのは自分が合格することに疑いを持っていないのでしょう。ぜひ、親御さんも合格することを前提に日々の会話をお願いしたいです。自分が合格して通っているシーンをイメージできれば大丈夫です。そのイメージが合格を引き寄せ、入試本番の自信につながります。

「伸びしろ」しかないじゃん…!

二月の勝者 第7巻 第61講 直江

今度は直江が柴田を励ます番です。入試は追われるより、追う方が強いのです。勉強をしていなければすればいいのです。早めに気づいてその差を埋める努力を早くはじめればいいのです。勉強していない人ほど成績が伸びるのです。

感動のシーン③

とりま全員ぶっちぎればいいんじゃん!!

二月の勝者 第8巻 第68講 前田

吉祥寺校の女王です。1番じゃないのが納得いかない! これぞ桜蔭を目指す生徒という感じがしますね。自分が一番だと思っている人がうける学校です。多くの学校が無料で配付している学校紹介パンフですが、桜蔭中では私が説明会に行ったときは有料でした。No.1の学校だからできることです。来たい人だけに来てもらえればいいのです。

感動のシーン④

開成合格! 俺も海斗も! 開成合格! お願いします!!

二月の勝者 第10巻 第84講 島津・上杉

中学受験は個人競技ではなく、団体競技と感じる場面です。はじめは仲が悪かった二人ですが、お互いの力を認め合い、同じ志望校を目指していきます。ネタバレになってしまいますが、上杉海斗の志望校を聞いたときはびっくりしました。


二月の勝者のネーミングセンス

①桜花ゼミナール

桜花ゼミナールの先生達は全員木へんが入っていたり、植物に関する名前になっています。黒木蔵人・佐倉麻衣・桂歌子・橘勇作・木村大志
生徒数のわりに常駐の先生が5人いるのはフィクションと感じます。ちなみに私の教室は生徒数が500人以上、6年生が120人以上で常駐のスタッフは5人です。 

生徒は戦国武将の名字ですね。人数が多いので今回は最上位クラスのΩクラスのメンバーを紹介します。島津順・前田花恋・直江樹里・上杉海斗・柴田まるみ 私の世代だと上杉兄弟と言えば、あだち充のタッチを連想してしまいます。

②塾の名前

実際の塾の名前を少しずつ変えていますね。日能研は毎日研で、NバックはMバックになっています。その他の塾は、フェニックス小学部、渋谷大崎、早馬塾などが出てきますが、元ネタ皆さんわかりますか?

③中学校の名前

こちらも元ネタがなんだろうと考えながら読むとおもしろいです。どうぞ偏差値表をお手元においてご覧いただくと盛り上がるかもしれません。作者曰く、いくつかは元ネタがない学校もあるようです。作者のXをフォローしているとそのあたりの周辺情報や執筆の苦労がよくわかります。たくさんあるので私のお気に入りを紹介します。

新新→渋渋(渋谷教育学園渋谷)
新新海浜→渋谷幕張
早米田→早稲田 
豊島園女子→豊島岡女子

吉祥寺女子→吉祥女子
宵の星→浦和明の星
西洋西部女学院→東洋英和女学院
有栖川学園→広尾学園(広尾のすぐ近くに有名な有栖川宮記念公園があります。麻布中もすぐ近く)

最後に 中学受験当日を迎えられた皆さんは全員勝者です。辛かった中学受験生活を完走できたからです。弱い自分自身に勝ったのです。


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