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4.ワインとビールと(第9章.旅先で考えた食することの楽しみ③)

 ワイン派であるとか、ビール派であるとか、そんな議論をしたことはないだろうか?

 私はもともとビールよりワインのほうが好きだった。「もともと」というのは20代の頃のことである。記憶を辿れば、その頃(1990年代前半)はビールと言えば日本の大手4社のビールしか飲んだことがなくて、それらのビールは飲み終わった後に感じる「米臭さ」がどうも苦手だった。しかも温まってしまえば、それだけで飲む気が失せてしまう。それに比べてワインは口に含んだ時の豊かな香りがとても好きだった。

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a pint of Guinness!(ダブリンのパブにて)

 しかし、海外を旅するうちに、特にチェコ、ドイツ、イギリスでビールを味わい、私はすっかりビール派になってしまったのだ。

 ビールの良さは、その"平等性"にあると思う。例えばワインの場合、値段の高いワインと安いワインとでは味の差は歴然としている。しかも値段の高低は、それこそピンからキリまである。誤解を恐れずに言ってしまえば、金持ちばかりが美味しいワインを味わい、貧乏人は安いワインを飲まされるということなのだ。

 それに比べビールは「高いビール」「安いビール」というのが基本的には無い。あったとしてもワイン程値段の開きが無いのが普通だ。だから、金持ちであろうと貧乏人であろうと皆、平等に美味しいビールにありつけるという訳だ。私はワインに比べ、ビールのそんな"平等性"が好きなのだ。

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ヒースロー空港(ロンドン)でちょっとひと息

 ところが、2012年8月にハンガリーへ行ってから、また少しワインが好きになった。もちろん、フランスでも美味しいワインは沢山飲んだ。しかしボルドーだのブルゴーニュだの、それからブドウの品種や畑など、そうした情報がフランスのワインは割とよく知られているせいか、ワインを飲む前についボトルに貼られたラベルを目で追ってしまう。

 その点、ハンガリーのワインは(私が)そうした情報を知らないため、「美味しいものは美味しい」と素直に思えるのだろう。だから小さなカフェで飲んだ安いグラスワインでも美味しかったのだ。

 まあ、ハンガリーでワインが美味しいと思えたのは、まっさらな気持ちでワインが楽しめたというのももちろんあるが、やはりその土地の物をその土地で頂いたから、だと思う。特にワインは農産物である。その土地の気候、風土、文化が大きく影響する。現地で収穫されたものは現地で消費するのが一番理にかなっているのだ。

 だから、ハンガリー有数のワインの産地、エゲルで飲んだエグリ・ビカヴェールという赤ワインは芳醇でとても美味しかった。古くから地元で育まれたワインそのものだった。

 他にもハンガリーは世界的な貴腐ワインの産地、トカイがある。私はトカイへは行けずじまいだったが、首都ブダペストでトカイ・ワインを頂いた。甘く香ばしい貴腐ワイン。甘いワインに苦手意識があった私でも飲んだ瞬間「これはいける!」と唸ってしまった。

 土地のものはその土地で消費する。そのことに気付かせてくれたのがワインだ。それがたとえ安いワインでも土地の風と光を浴びながら飲めば、それだけで豊かな気持ちになれるのである。

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タコのパスタとワイン

これで「第9章.旅先で考えた食することの楽しみ③」は終わりです。

次回から「第10章.旅先で触れた親切〜pay it forward」が始まります。いよいよ最終章です!

内容は以下の通りです。

1.謝謝(ありがとう)!台湾!

2.イスタンブールの靴磨き

3.ハンガリーの留学生

4.pay it forward

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