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切子柄で、えんじ色のシャツ

俺は、父方母方ともに
叔父叔母にすごく可愛がられた経緯があり
ある伯母からは、俺を養子に欲しいと
言われたことがある

母がそれを言われた時
父が猛烈に反対することが明らかだったので
平謝りでその申し出をおさめてもらったらしい

そんな母も、子どもの頃
蛯名という家に養子に出す話があったことを
俺が幼い頃、ばあちゃんから聞かされていた

その蛯名という家は
山の斜面ひとつが敷地内で
切り崩したわずかな平地に
平屋を建てて暮らしていた夫婦だった

まだ俺が小学校に入った頃だろうか
よく遊びに行って、坂の合間にある
イチゴをとって食べた思い出がある

当時、イチゴなんて存在は
動物園のライオンを観るのと同格で
しかも、自分でもいで食べるなんて
あり得ない経験をしたと覚えている

話は変わって

俺の母の姉の娘の子供
うーむ、言葉にすると分かりづらい

つまり、俺の従姉(いとこ)の子供だが
従姉甥:いとこおい と云うらしい

彼は、俺を養子にしたいと言った
伯母の孫にあたる

伯母には一人娘がいて
結婚して子供を2人生んだが
痛ましいことに、40を前にガンで死んだ

この従姉甥の末っ子の方は
小学生に上がったばかりだったので
死というものを理解できず
母の遺体を前に、きょとんとしていた

そのきょとん、が
あまりに切なくて我々は涙を流し
ただ抱きしめることしかできなかった

そのいとこの死後
先祖供養に一生懸命だった伯母は
家系が途絶えるのを危惧して
男で次男の俺なら問題ないだろうと
養子にしたいと思ったそうだ

俺を養子にしたいと言いうくらいだから
伯母は、ものすごく俺を可愛がってくれた
札幌に就職したばかりの2年間は
伯母の家に居候し、衣食住の面倒をみてもらった

従姉甥とも、年の離れた兄弟のようで
よく遊びにつれていった

その頃、従姉甥の長男の方は高校生で
俺の結婚で伯母の家を出る時
大のお気に入りだったエディフィスのシャツを
彼にあげた

切子のグラスのような細かい柄のシャツで
わずかに艶のあるえんじ色のシャツだ

俺の記憶では、そこまで好意的な
反応じゃなかったような気がする

そして8年前
その従姉甥が結婚するのだが

結婚前の盆休みに、ふらっと我が家に
彼が遊びにきた

10年?15年?会っていなかったが
その屈託のない笑顔と、左頬のえくぼは
美しい母(俺にはいとこ)の面影をしっかり残していた

あき兄ちゃん
俺、結婚するんだ

ぬお!?
おおおっと、おっと
そうだったか

俺はすでに独り身だったし
さしで飲むのも可愛そうなので
俺の両親や兄家族も呼んで
盛大に酒杯をあげた

結婚相手は名古屋の娘さんで
三ツ星ホテルで式をあげるという

名古屋といえば、結婚式が何だかすごい
というのは噂では聞いていた
どんだけすごいかは、当日知らされるのだが(笑)

その従姉甥には
俺に出席してほしいと言う

母親がわりだった伯母は
高齢で施設に入所しており
名古屋まで行ける状態ではなかったし

何より、旦那となる側の親族が
父親以外、誰もいないなんてバランス悪いよな

と、俺は体裁ばかりを考えた

伯母にもよい報告ができるだろうと思い
もちろん出席するよ、と返事をした

そして、両親も兄も寝静まった頃
従姉甥と俺はリビングにふたり

あき兄ちゃん、これ

従姉甥は
自分が着ているシャツの胸もとを
両手でつまんで俺に言った

切子グラスのような柄のえんじ色のシャツ



俺は、もしかしたらとは思っていたが
まさか、あの日のシャツだったとは
思ってもいなかった

あき兄ちゃんからもらったシャツ

そう言って
従姉甥は俺に誇らしげに言ったように見えたのが
めちゃくちゃ嬉しかった


式は、道民では経験できない招待生で
お祝いの金額がまったく見合わず
恐縮するほどの盛大っぷりだった

そして

彼は、親族なんかいらないくらい
たくさんの友人に恵まれていた
すごい友人の数だった

彼の人柄が、いとこのそれと同じで
心の底から、祝福できたのを覚えている

俺たち親族が勝手に作り上げた
幼いころに母をなくした
可哀そうな従姉甥なんて

幻想だったのだ

結婚式の前夜、彼は嫁さんを紹介がてら
うなぎを食べに連れて行ってくれた時
俺は感動しすぎて
号泣しながら従姉甥を抱きしめた

式が終わり、帰る時いっちょこ前に
旅費まで渡されてしまい
俺はおじさん風をふかせることもできず

完敗だった
いやいや感無量だった

後日、無性に祝い返し(?意味がちがう)
をしたくなり

俺はあれやこれやと相当考えた末
豪華ギフトセット☟を贈った


TENGAの豪華ギフトセット
これ、凄いの♡
使ったことない人、死ぬ前に一度使った方がいい

俺の従姉甥だ
喜ばれる自信があった

するとほどなくして

あき兄ちゃん、ありがとう
らしさが冴えわたってた

と、大変喜んでくれた

俺のギフトセンスを
切子柄のえんじ色のシャツ再び
受け取ってくれたのだ

やったぁ
やったぜ うぃぃぃー♫

※言い訳するが
 従姉甥は、結婚したが
 しばらくは東京と名古屋の遠距離婚で
 嫁さんの転勤が上手くいくまで
 一人暮らしだったから
 その慰めをこめてこのTENGAを贈った

俺って情が、深海なみに
深いだろ?

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結婚式の思い出

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