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界のカケラ 〜82〜

 先ほどの事故のニュースがどこの番組を見ても報道され続けている。報道に合わせて司会やコメンテーターが意見を交わしているが、私の心にはどれも響かなかった。どこか上辺だけで感情がこもっていない言葉の羅列に気持ちが悪かった。

 私はすぐにテレビを消して夕食を食べ始めた。味気ないのが病院食の定番だが、どこか先鋭的で他の病院の食事とはほとんど違う。院長のことを考えれば別に驚くことではないのだが、実際に十日間毎日食べ続けてみると味の飽きもなく、栄養も考えられている。入院患者だけでなく、働く医師たちのご飯にしてもらいたいくらいだ。最近では実験的にベジタリアンやヴィーガン向けのメニューもあったり、ハラル認証の食材を積極的に採用している。スーパーフードのキヌアやモリンガを使った料理や飲み物もオプションで1週間単位で選択できるようになっている。私もこのオプションをつけているが、医者の視点で感想を教えて欲しいと院長に言われ毎食つけてもらっている。

 しかし、この病院食が食べられるのも明日の昼食までだ。さすがにこれ以上長くは休んでいられないし、頭痛はまだ心配だが入院当初よりかは収まっている。ゆいちゃんが現れる時以外は全くないので、そろそろ復帰どきだ。まさか手術中に現れるほど空気が読めない子ではあるまい。

 明日は朝一で院長に会いに行き今後のことについて相談し、そのあとは救命室のリーダーにも相談しよう。そしてその後に、あの日の患者に会いに行くことにしよう。今日の生野さんと市ヶ谷さんの話、ゆいちゃんと深鈴さんの話を聞いて、私はあの人ときちんと向き合おうと思っている。あの時はダメだったが、今は向き合えると思っている。根拠のない自信だが、私の中で何かが変化しているのを感じていた。

 あの人に何があったのか、なぜそうなってしまったのか、導いていけるならその方向性を見つけてあげられるかもしれない。おごがましいかもしれないが、私にしかできないことだと思っている。

 明日に備えて、病室に備え付けのシャワールームで早めにお風呂に入り、早めに寝ることにした。

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