界のカケラ 〜81〜

 テレビはちょうどニュースをやっていた。

ーー今日の十四時頃、下校途中の小学生の集団に車が突っ込むという痛ましい事故が起きました。事故にあった小学生五人全員が頭と体を強くうち意識不明の重体。うち二人は車と壁に挟まれていたとのことです。事故を起こした運転手は事故を起こす直前に大量に酒を飲んでおり、事故を起こした直後、車から降りて逃げようとしたところを現場に駆けつけた近くの住民に取り抑えられました。警察関係者からの情報によりますと、逮捕された当時ろれつが回っておらず、酒の匂いが強かったとのことです。またしても飲酒運転による身勝手で悲惨な事故が起きてしまいました。

 「え?」

 私と深海さんがは声を合わせ、お互いテレビに見入った。

 「また飲酒運転の事故か・・・ 小学生全員、意識戻るかな・・・」

 私は先ほどの市ヶ谷さんと深鈴さんの話を聞いていたため、飲酒運転の事故に胸が締め付けられ、どうしようもないほど怒りがフツフツと湧き出していた。

 「・・・」

 深海さんの方を見ると両手を力強く握りしめ震えている。言葉には出していないが、私と同じように怒りを感じているようだった。

 「深海さん?」

 「・・・」

 「深海さん!」

 もう一度呼ぶと体をビクッとさせて私の方を向いた。

 「あ、すみません! 今のニュースを見ていたら、周りのことが感じられないくらい腹立たしくなってました」

 「その気持ち、分かります・・・」

 「私、飲酒運転の事故と聞くと、ものすごく怒りを覚えるのですよね。暴れたいくらいの怒りで、私自身も怒っているのはわかっているのにどうしようもなくて・・・ 怒りを止められなくなってしまうのです。自分でも不思議なのです。もちろん他の事故や殺人事件とかもそう感じるのですけど、飲酒運転は特に周りが見えなくなるほどの怒りが湧いてくるのです」

 「報道でたくさん流れてしまっているからですかね。運転手の状態が状態だけに感情的になりやすい要素はありますけど」

 「そうですよね。数年前から一週間に一回のペースで飲酒運転の事故は聞きますしね。それでかもしれませんね、きっと」

 「ええ、きっとそうですよ。事故に合った小学生の意識が戻ることを一緒に祈りましょう。直接医療行為ができない私たちにはそれしかできませんから」

 「はい。そうですね。私も祈ります。意識が戻るまで毎日・・・」

 一瞬、部屋の中が静寂という沈黙に包まれた。少し違うのは祈りという行為が具現化し、暖かいものであったということだ。この空間は暖かい祈りで満たされている実感は私だけでなく、深海さんにも感じられているということだ。本人に聞かなければ分からないことだが、私がそう思っているだけで十分なので、聞くだけ野暮だ。

 少しの沈黙の後、先ほどの配膳の係りの方がお盆を持って入ってきた。
 

 「あ! そろそろ本当に帰りますね。失礼します」

 「車には気をつけてくださいね。さようなら」

 「はい、気をつけます! さようなら」

 深くお辞儀して彼女は病室から出ていった。私はその様子を見て、お辞儀する仕草がなんとなく深鈴さんと同じようだと思っていた。お辞儀をする角度、歩いていく後ろ姿が似ていた。飲酒運転のことにあれだけ怒りを表すのも深鈴さんが市ヶ谷さんを庇って引かれた経験があるからかもしれない。

 もしそうであっても、深鈴さんに聞きたいことを伺ったときに「深鈴さんを見つけるのに時間がかかった」と言われたことから、こんなに近くに深鈴さんの生まれ変わりがいるとは考えにくい。他人のそら似だろう。でもゆいちゃんに今度会ったらダメ元で聞いてみることにした。

サポートしていただいたものは今後の制作活動に使わせていただきますので、サポートもしていただけましたら嬉しいです。