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界のカケラ 〜83〜

 翌朝、といっても朝と呼べるかわからないくらい早い時間に起きてしまった。気合いが入りすぎたのか、不安になりすぎたのかわからないが四時半は早すぎる。まだ誰も起きていないし、こんな時間に廊下をうろついたり中庭に出ていれば、それこそ私が病院の怪談の一説になってしまう。流石にそれだけは避けたいところだ。

 だが目が覚めてしまった原因の大部分は季節外れの寒さの影響が大きい。四月半ばなのに布団を頭からかぶっていても寒い。こう寒いと桜もまだまだ咲けないだろう。毎年の楽しみである中庭の桜の下で花見をするのは先になりそうだ。せめて休みの間に咲いて欲しいと期待していたけれど、復帰するまで二日程度と計算しても咲きそうもないので、その期待はもろくも崩れ去った。天候ばかりは誰にも操作できないから諦めることにして、テレビをつけた。しかし昨日のままの音量設定だったため、室内に大きい音が響き渡ってしまった。他の部屋に音が漏れていないように祈りながら、慌てて音量を低くした。
  
 相変わらず昨日の飲酒運転のニュースが流れていた。朝の早い時間帯だからコメンテーターはほぼいないが、仮にいたとしても法律を変えるような影響力を持っているはずもない。せいぜいテレビを見ている視聴者の好感度を上げるくらいだ。本当に法律を変えるためには法律を変えるような重要な人間かその家族、親戚、近親者が同じ事象の被害者にならない限りは動きにくいし、罰則も厳しくならない。法律を変えるためには民意にプラスアルファが必要であり、さらに怒りと悲しみが後押ししなければならない。

 そんなことをテレビの音が聞こえないくらいになるまで考えていた。私が考えたり、声をあげたりしても力はほんの少しかほとんどないに等しいが、それでも何もしないよりかはマシだし、社会的に信用度の高い医者という職業の立場を使って伝えていきたい。


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