見出し画像

米国を騙した国防科学雑誌「機械化」

折しも「機械化 小松崎茂の超兵器図解」という大変素晴らしい本が刊行されたので、このnoteはお祝い原稿でもあります。
この機会に書き残しておかないと、おそらく日の目を見ない話なので。
なお、このnoteは投げ銭形式といたしますので、記事の内容が気に入った方は、お代を払ってくださいますようよろしくお願いします。

国防科学雑誌『機械化』について
国防科学雑誌『機械化』は、昭和十五年から二十年までの6年間刊行された幻の国防科学雑誌でした。太平洋戦争の戦時下に、軍事科学の専門雑誌として当時の少年少女たちを啓蒙した本誌は、後にSFや冒険絵物語、戦記口絵やプラモデルの箱絵で活躍した少年向け絵画の巨匠小松崎茂画伯が、グラビア図解の絵師として活躍しておりました。
もちろん、本誌における小松崎茂画伯の功績は大変素晴らしいものであり、この当時の仕事が、後の少年漫画誌のグラビア図解や、イマイやバンダイのプラモデルボックスアート、東宝でのメカデザインといった仕事へと繋がっていくのであります。
さてこの『機械化』は実は戦時下でありながらアメリカの諜報機関にマークされていた雑誌であり、GHQ(連合軍最高司令部)の下部機関、CIE(民間情報教育局)の文化政策(検閲)の為、終戦と共に廃刊となったことは「機械化 小松崎茂の超兵器図解」にも触れられております。

さて、この『機械化』には読者からのハガキ投稿を掲載するページがありました。もちろんこういう雑誌ですから、募集していたのは読者の考えた航空機。
有り体に言うところの「ボクの考えたヒコーキ」が読者投稿として掲載されていたわけです。
面白い事に、この「ボクの考えたヒコーキ」にアメリカの諜報員が騙されてしまったのです。
諜報員はアメリカ本国に、この『機械化』の読者投稿の中から3つの機体について実際の計画機であると報告してしまい、あまつさえ零戦=ジーク、紫電改=ジョージと言ったように、コードネームすら付けてしまったのです。
今回紹介するのは、これら2つの「ボクの考えたヒコーキ」についてです。

【涼風20】

まず1つめが、この涼風20戦闘機です。この機体は諜報員の手によってアメリカに報告されました。

英文を読んでいただければお分かりの通り、雑誌に投稿されたフィクションである事がちゃんと明記されております。英文には「空」と書かれておりますが、「機械化」の読者投稿にも掲載されており、おそらくデザインした方が複数の雑誌に投稿されたものと思われます。
にも関わらず、本機にはオマールというコードネームが付与されました。
二重反転プロペラの付いた星型空冷発動機に、低翼単葉直翼の主翼、中翼配置の水平尾翼、デルタ形状の独特の垂直尾翼という特異な形状がフランスの航空機デザイナーであるローラン・ペイヤンの機体デザインにあまりにも似ていたために、本機の存在があらたな誤解を発生させています。

【ペイヤン・三菱 Pa.400】

1938年にフランスのローラン・ペイヤンと日本の三菱航空機の間で、小型戦闘機に関する技術提携の話があり、そこで計画されたのがこのPa.400と呼ばれる機体です。
二重反転のプロペラ配置や低翼単葉の主翼、コクピットのレイアウトなどが酷似していたために、涼風20もペイヤンのデザインを元にしたものという誤解が発生しています。

【三菱 陸軍タイプ0】

もう一つ。「機械化」の読者投稿にあるのがこのデザイン。主胴体の前後に空冷発動機を配置した双胴ツインブーム式の機体となっています。
涼風20と同様にピックアップされてしまったおかげで、本機は三菱の機体と勘違いされ、あまつさえ陸軍の機体ネーミングとしてはあり得ない「0型」という呼称が付与されています。

この涼風20と陸軍タイプ0が、諜報員の手でアメリカに報告されたおかげで、今日でもアメリカやポーランドで刊行された洋書に、まことしやかな日本の計画機として取り上げられ掲載されています。
そして遂に、ウクライナのUNICRAFT MODELというレジンキットメーカーからは1/72のレジンキットが発売されてしまいます(陸軍タイプ0も発売予定)。

今もなお海外に混迷を与え続ける『機械化』という雑誌は非常に偉大で、非常に罪深い雑誌であるというお話でした。

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?