幼なじみのモッチャン。

幼なじみのモッチャンは、美容師だ。

昔は東京の名だたる名店で働いていたけれど、今は自分の母親がやっていた街の美容室を継いでいる。おしゃれな美容室がたくさん増えたのに、頑固なモッチャンは改装もせずに母親のやっていた昔の美容室の内装そのままにしている。

モッチャンの美容室に行くと、モッチャンは決まってヒマそうにスタイリングチェアに腰かけて煙草を吸いながらテレビなんか観ている。くるくる坊主頭に真っ白なタオルを巻いて、「おう」と気だるげに振り向いた無精ヒゲ面は竹原ピストルそっくりだ。

「で、今日はどうする?」自分の座っていたスタイリングチェアに座らせて、モッチャンは訊いてくる。見た目は竹原ピストルだが、腕は確かだ。噂では自分も耳にしたことはあるような東京の名店で働いていたらしい。髪を彫刻のようにカットして要望通りかそれ以上の形にしていく。仕上がりは大満足。

腕は確かなので、店を今どきのサロン風にしたらもっと客も入りそうなのに、モッチャンは今のままで良さそうだ。当然、若い女子の客なんかいなくて、おばあさんかおばさん、小学生のチビッコぐらいしか客はいない。正直もったいないなぁと他人事ながら心配したりすることはある。

モッチャンは現在、彼女もいないらしく独身で、モッチャンの母親も心配しているともっぱらのウワサだ。

そんなモッチャンだが、中学、高校の時は女子にモテてモテて仕方がなかった。バレンタインデーにはチョコレートを段ボール箱に3箱分女子たちからもらい、卒業式には記念に何かくださいと女子たちが群がり身ぐるみをはいでしまったせいで、上半身裸で帰宅する羽目になったというモテてしかたがありませんでしたという逸話がある。当時母親がやっていた美容室は土日になるともしかしたら一目だけでも見ることができるかもしれないという、モッチャン狙いの女子の客でいっぱいになり大盛況だった。

今やガランと静かな店内。以前見かけた小学生男子の客は、帰り際にモッチャンに、「おう、オマエ、自分の髪の毛ぐらい掃除していけや」と男の子にほうきとチリトリを渡して床に散らばったカットした髪を掃除させていた。(その分カット代は安くしているみたい)

そういうところが、なんか、なんかいいなぁと思ったりする。

そんなモッチャンは今日も店でくりくり坊主頭に白いタオルを巻き、スタイリングチェアに腰かけてタバコを吸いながら、テレビを観ている。


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