対話に基づくデザインとは?(v.1)

これまでデザインに直接的・間接的に関連性がある理論や哲学についていくつか投稿を書いてきた。自分自身の頭の中にある考えを言葉やモデルとして落とし込む行為は、続けていてかなり愉しく思う。加えて、これから先自分の物理的な身体が消えることがあったとしても何らかの形として、自分の思考が記録として残っていくことを考えるとなかなか感慨深いものがある様に感じる。

興味深いことに、書いてきた投稿が何となくではあるものの、自分の学びの連続性の中でそれぞれの点として存在してきた。連続性とは言ったが、一つ一つの繋がりに時系列的な直線性は無く、不規則で複雑ながらも意味のある形で纏まっている。このかなり抽象的な感覚は、おそらく学びの本質と関係性があると思う。

大学で、ふとした出会いからではあったがデザインという分野に足を踏み入れることを選択した過去の自分自身を少し賞賛したい。お陰で、アメリカでの生活の殆どを、デザイン(特にコミュニケーション・インタラクション・システムズ・デザイン)と触れ合いながら自分なりのペースで確実に進めることができた。デザインの本質は、何と言っても学びと同義であるということにある。しかし、正確にはそれだけではない。デザインは、対話を通して起こる特別な種類の学びである。

対話とは、自分達の生活においてごく普通の当たり前の行為であるために、あまり特別な注意を払うことがない。しかしながら、この単純な行為が一人一人を個性的で複雑な存在にする。そして、これこそがデザインにおいて重要な要素の一つであると考えている。アメリカという多様な文化やコミュニティから成り立つ国で自分自身の20代前半を過ごすことができた経験は、このデザインと対話という二つ異なる点を繋ぐことを可能にしてくれた。

かなり抽象的ではあるが、今回はこの経験を書き起こしていく。


1.私達は個人間で常に対話をしている。

人々は、お互いに対話をする。これは常に起こっている。

最大限に簡略化すると対話とは、下記の様なプロセスで行われている。

個人Aが個人Bに話をする。
そして、個人Bが個人Aに話返す。

対話にこれ以上の要素が存在するのか?


2.その対話は、個人の中で状況的思考・解釈を導くものである。

まずはじめに、自分達は対話の中でお互いの意図を理解するために、状況的思考・解釈を作り出す

あなたがもしもモデル上の個人Aだとするならば、個人Bが意図しようとしていることを理解しようとするだろう。この行為そのものが、状況的思考・解釈の発展そのものである。

「思考」や「解釈」といった用語は、インタラクションデザインの分野においては「メンタルモデル」という言葉と置き換えることができる。このメンタルモデルという考えについては、ドナルド・ノーマンの「The Design of Everyday Things」という本の中でより深く説明されている。


3.その状況的思考・解釈は、修辞法的な形式へと変換される必要があり、その過程を通す事で、個人間での基本的な対話が成立する。

個人Aの状況的思考・解釈は、個人Bと対話を図るため修辞法的な形式へと変換される。この修辞法的な形式には、口頭的、非口頭的、視覚的、そして文章的な形式を含まれる。

いきなり修辞法的な形式と言われてもなんのことを指しているのかイマイチ捉えにくいと思う。自分としては、頭で考えていること(思考・解釈)は、口から言葉として吐き出されること(修辞的な形式)とは同一な存在ではないことを強調したかった意図がある。

自らの思考・解釈(抽象的)を言葉にする行為には、思考・解釈の具体化するプロセスが関わってくる。頭の中で理解してたはずのことを言葉に落とす(コミュニケーションのための表現方法と組み合わせる)という行為を実際に行ってみると意外にも考えていたこととは若干意味の異なるものを生み出してしまうといったような経験がこれに当たる。

人に物事を教えるといった体験を思い起こしてみるとよく理解しやすくなると思う。したがって、対話において自分の考えを伝えるためには、この修辞法的な形式が重要だと強調したい。


4.修辞法的な形式は、表現方法(言語を含む)によって支えられる。

この修辞法的な形式は、様々な表現方法によって支えられている。一つ前のスライドで述べた修辞法的な形式とはすなわち、状況的思考・解釈と表現方法の組み合わせなのである。

修辞法的な形式=(状況的思考・解釈)+(表現方法)

ここでは、意図的に「言語」の代わりに「表現方法」という言葉を選ぶことにした。理由としては、この表現方法とは、言語的な要素以上のものを含むことを示唆するからである。人間同士のコミュニケーションでは、仕草や表情、視覚的・文章的表現なども考慮に含む必要がある。しかし、対話という観点から考慮すると英語や日本語と言った言語的なものとして一般的に認識すると理解しやすいかと思う。

それぞれの個人は、それぞれが生まれ育った環境に基づいた多様な表現方法を習得している。自分の様な日本人であれば、自らの思考や解釈を基本的に日本語を基本とした修辞法的な形式へと落とし込む。

コミュニケーションデザインには、対話におけるこの観点と深い繋がりがある。端的言えば、コミュニケーションデザインとは、視覚的要素を駆使した言語であり、特定の人にとっては、単純な話し言葉としての言語よりも理解しやすいものである。


5. その表現方法は、文字+グリフや文法+シンタックスなどで構成される。

この表現方法に関してさらに説明を加えることができる。

表現方法の基本構成要素は、それに属する文字とグリフがある。加えて、それらの要素を意味のある形に組み合わせる文法とシンタックスを含む。これらの要素は言語学的な観点をベースにして考え出したため、それに基づいて考えると理解しやすいと思う。しかし、個人的には、人間の仕草や行動にも文字や文法に似た構成要素が存在するのではないかと考えている。自分達は普段の対話の中でこれら人の行動を、相手の意図を読み取るヒントとして無意識的に探っている。

コミュニケーションデザインでは、このシンタックスが生み出す意味(セマンティック)について注意深い配慮を向ける。デザイナーは、彼らのデザインが伝えようとする意味を、受け取る側に正しく理解してもらうこと(プラグマティック)を常に考慮する必要がある。


6.個人はそれぞれに特定の思考方法(信念・信条)を有する。

一人一人の人間はそれぞれに特定の思考方法(信念・信条)を有している。これらの特定の思考方法は、様々な宗教的、社会的、文化的、そして学術的な影響を強く受けている。

人の意思決定は、自らの過去の経験に基づくことが多い。その人がこれまで学んできた学問、生きてきた環境、信仰してきた宗教、所属してきた集団などといった要素が積み重なり、それぞれの意思決定の基盤(特定の思考方法)になる。これは日々の中で遭遇する個別の状況といった具体的な事象よりも高度な位置に存在する感覚であり、知恵や諺といった部類と近い。

一般的には、この特定の思考方法とは無関係に、それぞれの状況的思考・解釈の発達が起こるといった理解が存在しているように感じられる。しかし、自分達が普段何気無く思いついた事柄に関しても、それまでの経験や知識の積み重ねが大きな影響を及ぼしている。


7.特定の思考方法は、異なる実践コミュニティ(宗教、社会、文化、学術)に基づいて形成される。

表現方法(言語)と同様に、人々の特定の思考方法(信念・信条)についてももう少し掘り下げた説明をすることが可能である。前のスライドでも触れたが、特定の思考方法は、異なる宗教、社会、文化や学術にそれぞれの起源を持つ。

これらの起源となっている存在は、実践コミュニティと呼ばれる。この実践コミュニティは、コミュニティに参加する個人で構成されている。それぞれの参加者は、個人の解釈に基づいた若干ニュアンスの異なる活動を行い、相互交流を行うため、実践コミュニティそのものにも影響を与え続ける。

デザインは、一つの大きな実践コミュニティと捉えることができるだろう。その中には、インタラクションデザインやコミュニケーションデザインといった異なる目的を持つ第二次的な実践コミュニティが存在する。

この辺の詳しい理論については、トーマス・クーンの「科学革命の構造」千葉雅也氏の「勉強の哲学」の中で記されている。他にも、この実践コミュニティという言葉自体を提唱したエティエンヌ・ウェンガー博士とレイヴ・ジーン博士の「Situated Learning」なども参考にすることができる。

千葉氏の本については以前一度モデルにしたことがある。
「勉強の哲学」を読んでみて:感想と学びとしてのデザイン


8.新たに言語を勉強することは、会話を成立させる為に必要な媒体を取り込むことにある。

日本に住まう多くの人が新しい言語(英語)を学ぶことそのものが、国際的な人材になるための必要十分条件だと捉えているように感じる。個人的は、それは違うように思われる。言語自体は、人々が会話をかわすために使用する単なる媒体である。同じ言語(媒体)を使用することで、会話を成立させることができ、お互いに聞き覚えのある言葉やフレーズを耳にすることが可能になる。しかし、単に媒体を共有させただけでは、お互いの意図までは十分に理解することは適わない。会話が可能なだけでは、国際的な人材の要素としては不十分である。

この観点に基づいて考えてみると、英会話とはまさに英語で会話をするということになる。つまり、個人の思考・解釈を運ぶ媒体であるはずの英語が主役となり、なんの意味も結果も生み出さない表面上の言葉遊びが成立する。しかしながら、この会話自体は、対話を可能にするために必要な第一段階であることに間違いはない。

デザイナーは、ユーザーの現状や課題を理解する為に膨大な時間を費やす。そこには、対話が存在する。そして、その対話を成立させる為に、まずはデザイナー自身が異なる分野で活動するユーザーの言語を話せるようになる必要がある。


9.対話は、参加者に対して、それぞれの特定の思考方法と表現方法の両方を共有することを要求する。

会話とは異なり、対話を成立させるためには、参加者が同じ表現方法を用い、それぞれの思考方法を共有する必要がある。

例えば、あなたが自分と同じ地元出身の人と話をするとする。そこには、すでに共有された思考方法や表現方法があり、お互いを理解するのに最小限の労力のみで事足りる。

しかし、実際には自分とは異なる背景を持った個人と対話をすることの方が圧倒的に多い。したがって、相手の経験や背景状況に対してきちんと向き合い理解を深めようとする努力の必要性が際立ってくる。同時に、自分自身の経験や背景をきちんと理解することもまた重要になってくる。つまり、思考方法と表現方法の共有は、対話を成立させるための必要十分条件なのである。

これは、デザイナーの課題解決と意思疎通をはかるプロセスの中で、なぜ対話を重要視すべきなのか論点をそれとなく説明してくれる。デザインとは、対話における修辞法的な形式と同様の存在と認識できる。デザインにおける修辞法的な形式とは、デザイナーが生み出す設計物のことである。その設計物は、使い手が持つ思考方法や彼らが慣れ親しんだ表現方法によって形を与えられている。その使い手の思考方法、状況的思考・解釈、そして表現方法を理解するためには、デザイナーが使い手と対話をする必要がある。つまり、デザインは対話を元に行われるのである。


10.対話の積み重ねは、個人の思考方法と表現方法とを継続的に研磨し、新たな存在へと変化させる。

対話は、参加者同士がそれぞれの思考方法と表現方法を共有した時初めて成立する。意味のある対話を積み重ねることで、外在化された思考はお互いに作用を始める。混ざり合い、溶け合った思考は、個人の思考方法と表現方法との両方に変化を与え始める。そして、新しいものへと変化する。

対話は、人々に多様性を尊重する寛容性を招き入れる。お互いの違いを認識することは対話の重要な過程である。人々の多様性は、一つ一つの対話から全く異なる結果を生み出し、常に変化を与え続ける。この主張は、本物(Authenticity)という概念に対して疑念を生むかもしれない。しかしながら、本物の定義は、個人の中で不確定的に存在する概念であり、客観的に判断することが難しい事柄である。

対話は、人々に時間を要求する。対話は、二方向性を持つ活動であるがゆえに、人々は積極的に参加する必要がある。無限に更新を続けるツイッターのツイートやフェイスブックの投稿、オンライン広告などは、それらを享受する人々の背景や状況を考慮しない限り一方的な存在であり続ける。刹那的な時間で人々の注意を奪おうとする不快な広告やソーシャルメディアのフィードは、どれだけマッチング技術を駆使したとしても、対話が可能にする相互作用を生み出し得ない。

対話は、人々のデザインを手助ける。人々のためにデザインするには、自分達のことを学ぶ必要がある。自分達の事を学ぶ為には、対話をする必要がある。対話をする為には、対話をする為にデザインする必要がある。つまり、デザインをする側と使う側との対話を可能にするデザインプロセス、プロダクトやサービスを作り出す必要がある。この主張は、チャットボットを作る事を示唆していない。これは、対話に基づいてデザインする事を意味する。

対話を基本にしたデザインとは:
実践コミュニティの理解+視覚化
=サービスドメイン分析

特定の思考方法(信念・信条)の理解+視覚化
=エコシステム・コンセプトマップ

状況的思考・解釈の理解+視覚化
=メンタルモデル

修辞法的な形式の視覚化+設計
=ユーザーコンセプチュアルモデル
=ユーザーインターフェース

表現方法(言語)の設計
=デザインシステム

文法+シンタックスの設計
=ビジュアルデザインパターン(統一性)

文字+グリフの設計
=コンポーネント

を用いた循環的で共創的なプロセスのことを指す。

デザインに対する認識が、プロダクトの表面を覆い隠すベニヤ板からビジネスの本質的な部分に携わるものへとを変化しつつある今こそ、対話に基づいたデザインを推し進める必要があると思う。


References: 

Buckland, Michael.
Information and Society.
https://mitpress.mit.edu/books/information-and-society

Dubberly, Hugh.
Conversations and models: Secrets to designing great products.
http://presentations.dubberly.com/conversations_and_models.pdf

Henderson, Austin. & Johnson, Jeff
Conceptual Models: Core to Good Design
https://www.amazon.com/Conceptual-Models-Synthesis-Human-Centered-Informatics/dp/1608457494

Masaya, Chiba.
The Philosophy of Learning: For Those Who Want to Learn.
(I translated the title)
https://amzn.to/2qNkSyy

Norman, Donald.
The Design of Everyday Things.
https://amzn.to/2qNhBzs

Shigehiko, Toyama
The Theory of Organizing Thoughts.
(I translated the title)
https://amzn.to/2HiDmxh

Vignelli, Massimo.
The Vignelli Canon.
http://www.vignelli.com/canon.pdf

Wenger, Etienne. & Jean, Lave.
Situated Learning: Legitimate Peripheral Participation
https://www.amazon.com/Situated-Learning-Participation-Computational-Perspectives/dp/0521423740


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akiramotomura

A Learner of Communication + Information + Interaction + Service + Systems Design @ Dubberly Design Office

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