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ANTWERP ROYAL ACADEMY 1

ANTWERP ROYAL ACADEMY アントワープ王立アカデミー。僕の母校であり、自分のものづくりのルーツでもある。

ANTWERP ROYAL ACADEMY OF FINE ARTS:アントワープ王立芸術アカデミーが正式名称。ここからも分かると思うが、アカデミーは服飾専門学校ではない。FINE ARTSを学ぶ場所、つまり芸大だ。芸大の中にあるファッション課なのでそもそも服飾専門知識を習得する場ではない(実際にそのような授業は無いと言っていい)。昨今世界のファッションスクールという名の下比較されることが多いが、服飾専門学校と比べる為の共通項目はほとんど存在していない。

僕が初めてアカデミーを知ったのはアメリカから帰国後まもなく当時ケーブルテレビで放送されていたfashion channel newsという番組でアカデミーの卒業ショーを観た事だった。パリコレのレポートを観ようと思っていたので肩透かしをくらったが、すぐにその作品群と表現力に圧倒された。圧倒されたという言葉では到底表現しきれない。今まで自分がファッションという概念をもっていたとすればそれを根底から覆されたような経験だった。僕は愕然としてテレビに釘付けになっていたが、横で母親がゲラゲラ笑っていたのを覚えている。確かに笑える程の距離があった。自分の周りに存在しているファッションという概念から笑える程走った先にアカデミーは存在していた。

99年はAngelo Figusがアカデミー史上最高得点で卒業した年だ。”Quore di Cane”と題されたサルディニアの彼の祖父に向けて作られたコレクションはそれまでに見たどのようなファッションとも違っていた。圧倒的なボリューム、有機的なシルエット、そして叙情的なコレクション展開の中に突き刺さるような感情が宗教音楽と共に表現されていた。狂気と神聖さが共存している様な今まで自分が体感した事のない高揚感と畏敬の念を覚えた記憶がある。あの日から色々なコレクションを観て来たが、自分にとってあの年のAngeloのコレクションの衝撃を超えたものはない。

出てくるモデル達は全て坊主で(実際は当日刈られたらしい)フェルトのような素材を貼り付けて作った様なシームレスな(縫い目の無い)服や、外側では無く洋服の内側を立体的に造形したとされるもの、頭上に2mを超える木がアクセサリーとして結ばれているものもあった。

そんなアカデミーの門を僕がくぐったのはそれから数年後の2002年、ファッションを学び始めて2年目の事だ。たどり着いたという表現よりも、気づいたらそこに居たと言う表現の方が正しいかもしれない。その前にも東京でファッションを学んでいたが自分の部屋には当時アカデミーの生徒のポスターが貼ってあった(たしか A MAGAZINEの付録で当時アカデミー3年の学生が仮縫いをしている写真だ)。専門学校で学んだ後深夜までバイトをして終電で帰るとさすがに疲労はピークに達していたが、ベッドの横に貼ってあるポスターを見ると負けていられないと徹夜出来たのを覚えている。今思うと自分がデザイナーになる為にはずっと先を走っているアカデミーの生徒達にまず追いつかなくてはいけないという思いがあったのだと思う。そして気付いた時には東京の学校を辞め、アントワープに来ていた。

服飾造形の知識や技術は重要だが、デザイナーにとってデザインを学ぶ事は何よりも重要だと感じたからだ。今思うと色々と考えて留学したのではなく、そこへ行かなくてはならない、アカデミーでしか見い出す事が出来ない何かを衝動的に求めていた気がする。そしてそれは実際にアントワープで体感する事になった。

 




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