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超判断。

本当に一瞬だ。一瞬の判断だった。

あそこで判断ミスを犯していたら倦怠感や荷物だけでなく、

罪までも背負う羽目になっていたかもしれない。

瞬間的に校門をくぐった辺りから教室に入る前までの記憶が

フラッシュバックして重要な部分だけをもう一度再生した。

昇降口に入り、靴を脱いで上履きに履き替える辺りだ。

周囲を軽く見て何かを右靴の底に滑らせた。

スマートフォン。通称スマホもしくは携帯だ。

僕の靴の中にはスマホが入っている。

前にも書いたが、通っていた高校はスマホの持ち込みは禁止。

テストのときは特に気を張ってないといけない。

普段なら電源を落とし鞄の目立たないポケットに入れている。

だけどテストの日だけは下駄箱に忍ばせないといけない。

その理由は巻き添えを食う可能性があるからだ。

普段なら誰かのスマホが鳴ってしまっても当人だけ罪を被る。

だがテストの日に誰かのスマホが鳴ろうもんなら複数の教師による

手荷物検査および身体検査が始まる。クラス全員だ。

つまり自分以外のスマホが鳴ってもアウトってわけだ。

そうなったときにしらを切れるようにしておく必要があった。

だけどあのときだけは作戦が仇になりかけた。

実際に在学中他クラスが一度だけ被害にあっていた。

こういったあらゆる思考や記憶が、夜神月がLとの熱き思考バトルを

繰り広げているときのように一瞬にして脳内に滑り込み、そして

即座にその情報を処理し最適化した。

時間が止まっているように感じた。

僕の目の前にいるのは無表情ではなく優しい顔をしたLだ。

瞬間的に処理した情報をLに悟られぬよう冷静に表情を変えず

「大丈夫です。自分で行きます。」と言った。

テレスクリーンにも気づかれていないだろう。

ゆっくりとベッドから降り、足をついた。

久しぶりに地面に触れたような感覚だった。足裏の神経が少し敏感になって

足をついた瞬間鳥肌が立ちそうだった。

一気に重力を感じ、重たくなったが、荷物を背負った。

ここから更に罪が乗っかってこなくて良かった。とは当時は思っていない。

また重力に少し負けている姿勢になった。そして巨人のようにのっそのっそ

と歩き保健室を出る前に「ありがとうございました。」と一言言って出た。

昇降口に向かって歩き出して十歩ほど歩いた辺りから後ろが気になった。

後ろから誰か教師がついてきてしまったらあの超判断の意味がなくなる。

しばらく歩いては振り返り、また歩いては振り返りのループ。

タイラントに追跡されているような気分だ。先回りしてなきゃいいけど。

よし、昇降口に着いた。

自分の下駄箱がある位置まで行き、扉を開け、先に上履きを脱ぎ

右靴にスマホが入っていることを確認して、登校時同様周囲を見渡し

万引きするみたいにスマホを手に取り右ポケットに滑り込ませた。

任務は完了した。体調が一瞬良くなった気がした。

靴を雑に履いて母親が待っている方向に歩き出した。

相変わらず空は暗い。

普段なら曇り空は世界を狭く感じさせるが、あのときは広く感じた。

車に乗り、ゼリーのように力が抜けた。

車の妙な圧迫感がすごく嫌いだ。あと匂い。

ゆっくりと車が校門に向かって発進した。


車のタイヤにすり潰されている砂や砂利の音が心地良い。



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了@起立性調節障害

18歳。いつか19歳になります。 noteに自分の体験談や考えをほぼ毎日書いてます。何か反応をもらえると嬉しいです。 【twitter】https://twitter.com/qSWaNGop

脱線列車

普通の高校生だと思ってた僕が起立性調節障害になって少数世界に入り込んでいくきっかけとなった日。たった一日でこうも人生が大きく変わってしまうなんて。 ある高校の一年生のあまりにも突然すぎる高校生活最後の日を書いています。少しの暇つぶしにでもなればいいなと思ってます。
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