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'95 till Infinity 004

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【 Prologue: He’s Back 004 】


 照明を落とした閉店した店内でビールをグラスに注ぐ練習をする新人クン。営業中のホウキにチリトリ、灰皿にタオルをグラスに持ち替えて頑張っている。その横で鋭い眼光を放つはいつもバーで完璧なビールを注いでくれる金髪のとうのたったおねぇちゃん、右手に持っているのはピカピカに磨き上げられたスティールの定規。

 俺はそんな馬鹿な絵を頭に浮かべながら、手に持ったビールを思いっきり飲み込む。

 喉を通って食道を過ぎ、腹に沁みる冷えたビールがうまい。

 確かにスティーブの言うことが正しいようのかもしれない。

 何を考えることなんかあるんだろうか?毎週、仕事の終わった金曜の昼下がりによく冷えた、うまいビールを仲間と楽しく飲む。確かに、楽しかったらそれでいいじゃないか、そんな気がしてくる。

 振り返って俺達のテーブルを見ると出来上がったみんなが見える。

 酔っ払ってしまって曲がった口から飛び出した馬鹿話はここまで聞こえるし、ネクタイは緩みきって、椅子にきちんと座っている奴なんて誰もいない。スコットなんか後退したU字禿の全体が赤くなっている。俺はそのだらしなく酔っ払った俺の友人どもを眺める。

 世の中の皆さんが払う税金から給料を貰っているという立場からしてはあまりにもだらしなく、夢や理想なんかは考えたこともなく、ただただ目の前の月曜から金曜のルーティーンをこなすのに精一杯な奴ら。それが俺の現在の友人たちだ。そして、俺も彼らと何も変わらない。

 それは良いことでも、悪いことでもないのだろう。

 結局のところ、俺達はそうやって毎日生きていく。

 昨日気づいていたことや感じたこと、今日にはそういったことが存在することすら忘れるかもしれない。それを毎日、何年と繰り返していくうちに俺達は少しずつ多くのことをなくしていくのだと思う。そして、それは良いことでも、悪いことでもない。

 バーカンのそばに立ちしばらく仲間たちを眺めた後、もう半分近く空になったグラスを片手に階段を降りて一階のトイレに向かう。階段を降りながら、足元はふらついちゃないが、大分酔っているなと感じる。いろいろと考えてしまったのも、そのせいかもしれない。

noteも含めた"アウトプット"に生きる本や音楽、DVD等に使います。海外移住時に銀行とケンカして使える日本の口座がないんで、次回帰国時に口座開設 or 使ってない口座を復活するまで貯めに貯めてAmazonで買わせてもらいます。