'95 till Infinity 005
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【 Prologue: He’s Back 005 】
トイレのドアを開けたところで、トーニに出くわす。
てかてかの薄いシャツに黒いパンツのクラブアウトフィットを着込んだ元同級生。馬鹿みたいな値段の美容室で切ってもらった髪形に、足元は400~500ドルはするデザイナーシューズ。
相変わらず気分は18のままの28歳、あの頃と何も変わってないつもりなんだろう。
ドアノブを持ったまま、俺は目の前にいきなり出現した90年代からの幽霊船を眺めている。お互いどうすればいいのかわからない気まずい1.7秒間。
先に口を開いたのはトーニだった。
「おぉ、久しぶり!こんなとこで何してんの?」
トーニはお互いの立場が生む気まずさを消そうとしているかのように不自然なまでの親しみを込めたトーンで言う。
多分、それは本物の職業的ドラッグディーラーと気のいい遊び人の間を行ったりきたりする中途半端な立場から身につけてしまったもの。大体、俺は厳密な意味での警察官ですらない。
「何って別に、ここには金曜の夕方は仕事の奴らとよく来てるからね。お前こそこんな時間に何してんの?動き出すにはまだ早すぎんじゃないの?」
俺の返事もトーニと同じくどっちつかずの親しみで化粧されている。
「ん、まっ、たまにはこんな時間からのんびりみんなとしてみるのもどうかなって思ってさ。早めのプリクラブドリンクみたいなもんだよ。
けど、どうも店を間違えたみたいだな。どこ見ても、つまんないスーツにネクタイのおっさんばっかでさ、流れてんのはラジオのトップ40だしよ」
俺の斜め後ろを見ながらそう言ったトーニは俺に視線を戻して、しまったという顔になる。感情が表情に出すぎる男、そんなところは何も変わっちゃいない。もちろん、後先を考えずに思ったことを言ってしまうところも。
高校の時も先生やら女の子に言わなくていい事を言っちゃトラブルを起こしていた。こいつにとっては過ぎ去った10年はあまり実りのあるものではなかったようだ。
急に訪れた気まずさと沈黙の中、俺たちは互いを見つめあう。
まだまだ18のつもりのトーニと、スーツにネクタイ姿の俺。
そんな2人がトイレのドアの前、ただただ見つめあう。
少なくとも、30代ってのはドアの向こうみたいに空気の中に小便の粒子が浮いているようなところじゃないといいけれど…
noteも含めた"アウトプット"に生きる本や音楽、DVD等に使います。海外移住時に銀行とケンカして使える日本の口座がないんで、次回帰国時に口座開設 or 使ってない口座を復活するまで貯めに貯めてAmazonで買わせてもらいます。