'95 till Infinity 014

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【 第1章: 2nd Summer of Love of Our Own 006 】


 トーニは俺の視線から逃げるように斜め下を見ながら喋り続ける。

 人を丸め込もうとする時いつもそうだったように、トーニは喋り倒してごまかそうとはしてはいたが、ただの空撃ちと化した自慢のマシンガントークは完全に普段の威力を失っていた。

 大体トーニは俺を誰だと思ってたんだ?

 毎日毎日馬鹿みたいに顔をつき合わせてたのにそんなのが効く訳もない。

 けど、結局のところそれがトーニという生き物だった。憎めない男、トーニ。俺の美しき青春時代の友人。それは今となっては前世の遠い記憶のようにさえ感じる。

 しばらくトーニの思うように喋らしていた俺はもう一度聞く。

 「トーニ、もういいだろ?結局のとこ、お前がレイブ、レイブって言ってるのは、そのフライヤー配ってたおねーちゃんがかわいかったからだろ?」

 トーニはそれでも目を泳がせながら否定する。

 「いや、だから、そうじゃないって」

 あまりの馬鹿らしさにため息が出る。

 スケボーの上に座ったままのトーニは、そこから、散歩に連れていってもらいたいゴールデン・リトリバーのような目でまっすぐ俺を見上げている。

 「トーニ、もういいから。そんなの素直に言えばいいじゃん。そのフライヤー配ってた女の子がかわいかったって。そのコがとんでもなくかわいかったんだろ、な?」

 このまま喋り続けても無駄だと気づいたトーニは屈託もなく笑って言った。

 「うん」

 トーニのそんな姿を前に、いろいろ言う気は俺からもう失せていた。

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