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'95 till Infinity 026

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【 第1章: 2nd Summer of Love of Our Own 018 】


 その最後のセリフが効いたトーニは、渋々ボトルをカイロに渡す。

 自分の手垢で黒光りしているようなセリフでも、それを言われるとトーニは断れなかった。

 「友達」という言葉が出てくると「ノー」と言えなかったのはトーニだけじゃなかった。

 あの頃の俺たちにとって、その「友達」という言葉はどんな分厚い辞書の中の言葉よりも重要で、時に俺たちはその言葉が勝手に一人歩きしてつけた重みに耐え切れず、それをただ抱えたまま下ろすこともできずにフラフラしていた。

 「つけすぎんなよ」と渡されたコロンを遠慮がちにつけるカイロと、そのカイロを横で渋い顔をしながら見張っているトーニに馬鹿らしくなった俺はつい口を出してしまう。

 「何で二人揃って同じコロンつけてんだよ?二人で同じ匂いしてどうすんだよ?気持ち悪いなぁ、お前らのオリジナリティーってのはどこにあんだよ?

 そんなことじゃ、せっかく知り合った女の子もお前らをただのすげぇ仲のいいゲイカップル思うのがオチだよ。」

 そう言われたカイロがムキになってすぐやり返してくる。

 「あぁ、ホモでもなんでもいいよ。少なくとも、俺たちはお前みたいに臭っせぇ汗の臭いはしてないからね。大体さ、そのTシャツは多分汗の臭いだけじゃなくてさ、汗だの空気中のホコリを全部吸った酸性雨だの排気ガスだのお前の体臭だのってのが全部合わさってすごいことになってるよ。

 それで女の子って、何言ってんだか。まっ、夢は見るもんだね」

 「うるせぇよ」、今度は俺がトーニのルーティーンをパクる番だ。

 俺はカイロをしっかりと睨み、「もう行こうぜ」と一言言ってドアに向かう。俺を先頭に3人がドアをくぐったところで、トーニが「ちょっと外で待ってて、すぐ戻るから」と言って家の中に戻っていく。

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