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95 till Infinity 038

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【 第1章: 2nd Summer of Love of Our Own 030 】


 繰り返し見たこのビデオで俺が感じたのは、この絵がその時、その場所ででなければ撮れなかっただろうということ。

 サンフランシスコの坂やくすんだ空、濃紺の海に坂を滑り降りていくスケーター。その全てがあの瞬間一緒にあの絵の中に共に存在することによって、少なくとも俺にとっては他に替わるもののないあの絵を生んだんだと思う。

 一つ一つはたいしたことなかった。
 
 空だけ見れば、夏のパースのどこまでも伸びていく空の方が綺麗だったし、海にしたって、コテスローの砂浜から望むどこまでも続くインド洋の方が綺麗だ。

 スケーターにしたって、流れるようなルーティーンは印象に残ってはいるけれど、そのルーティーンの中のトリックは一つも頭に残っていない。

 大体、俺はこのスケーターが誰だったかすら覚えてない。

 これはスケボーのビデオとして考えると致命的なことだと思う。

 ビデオの中のスケーターにもし会うことがあって、「いやぁ、キミのあのパートはホント最高だったよ。海が空が夕日が本当に最高だった。キミのことは何も覚えてないけど」なんて言ってあげても、怒ることはあっても、喜びはしない。

 それでも、あのスケーターを含めて、あの絵の中にあったすべてがあの瞬間一緒に存在するだけで、あのパートは他にない、かけがいのない何かになった。

 そして、俺は次第に考えるようになっていった。

 果たして俺たちが住むこのパースという街に、この街になんか来たこともない人の心さえも惹きつける、この世の中に一つしかない絵があるだろうかと。

noteも含めた"アウトプット"に生きる本や音楽、DVD等に使います。海外移住時に銀行とケンカして使える日本の口座がないんで、次回帰国時に口座開設 or 使ってない口座を復活するまで貯めに貯めてAmazonで買わせてもらいます。