'95 till Infinity 001

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【 Prologue: He’s Back 001 】 

 終わったはずの夏が一瞬戻ってきたような昼下がり、窓越しの日が肌を刺している。もちろんセイント・パトリックス・デイももうすぐだっていう3月に夏が戻ってくる訳もなく、空の上にいる誰かさんが気まぐれで掃き集めた夏の残骸を燃やしているのに違いない。

 金曜日のいつものパブ、周りにいるのは毎週見るメンツ。「今週も1週間無事に終わったね」とかなんとか言いながら毎週毎週乾杯を重ねるけれど、それさえも繰り返される月曜から金曜のルーティーンの一部でしかない。

 結局はみんなそのまま家に帰るのが嫌なだけだと思う。

 同じようなカッコして 月曜から金曜まで同じ時間を同じオフィスで過ごし、同じ窓から毎日全く同じ景色を眺め、葉っぱの色だの雲の形だの外を歩いているオネーチャンの服装を見ては「いやぁ、すっかり秋だね」とか言って、ささやかな変化に気づく自分がたいした詩人になったような気になる道化師たち。

 10年前にはまさか自分がそうなるとは思いもしなかった。

 テーブルに並んだビールのグラス、冷え切ったチーズが固まったナッチョズ。アルコールで歪んだ口から出るのは毎週同じ内容の会話。上司の陰口に部内の噂話、果ては新しく入った女の子についての下卑なコメント。酒が進むにつれテーブルを支配するのはここじゃなかったらセクハラで首になるんじゃないのっていう話ばかり。

 もちろん、この席には女だっているけど、それは今は問題になんかならない。ここにいるのは『気の合う仲間』と互いに認め合った奴らだけ。とどのつまりは、女の色香なんかとうの昔になくしてしまい、あけすけな下ネタさえもベースの効いた下品な笑いで吹き飛ばせるような女か、満員電車の中で聞こえたら眉をひそめるようなこの会話がへべれけになってたまに起こる駐車場でのフェラまでの前菜という女しかここにはいないってこと。

 月曜のランチタイムに囁かれるスキャンダルにはもう誰も驚きもしない。

 1杯、2杯、3杯、4杯と酔いが回るにつれ段々と上がってくる声のボリューム、内容のない会話、下世話な話ばかり。周りにいる奴らはこの会話を聞いて俺達が彼らが払う税金で飯を食ってるって知ったらどう思うんだろう。

 少なくともバーカウンターにいる奴らは毎週来る俺らの仕事は知っているはずだ。彼らは毎週金曜に仕事が終わり次第ここに集まっては何かに追われるように飲んでいる俺たちを見てどう思っているんだろう。

noteも含めた"アウトプット"に生きる本や音楽、DVD等に使います。海外移住時に銀行とケンカして使える日本の口座がないんで、次回帰国時に口座開設 or 使ってない口座を復活するまで貯めに貯めてAmazonで買わせてもらいます。