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犬とサンドバッグ/尾崎かおり

読んだ。『犬とサンドバッグ』尾崎かおり・著。

Amazonが24日に着くと主張していたのに、朝届いたっていうサプライズ。あやうく、近所の本屋でかぶせて買ってしまうとこだったわ。危ねえ。いや、危なくないけど。それはそれで。

ネタバレはしない。だがこれだけは言いたい。

いやーすごいな。これはすごいわ。とりあえず、少しヘタレで一途すぎる男を書かせたら尾崎かおり先生の右に出る人はいまのところいない。どんだけヘタレ男の引き出しがあるんでしょうか。

そして、ヒロインであるところの日子さん。あんなんされたら、イチコロで惚れてしまいます。強気なのにもろくてかわいくて、凛としている。そして自覚的に自虐できるくらいには謙虚で、色っぺえ。どういうことだよ(褒めてる)。

緩やかで牧歌的ともいえる離島の風景、のどかな子どもたち。ゆるゆると始まる日常…からの~~~~!ありそうで、無さそうな絶妙な世界観を作っているのは、おそらく死という状態や出来事が日常のすぐとなりにあることを表現するのが上手いからだろう。それは、Wingsに掲載誌ていたデビュー直後の短編『ハネムーン』でも、その後の作品でも一貫している。死というよりも喪失すること、か。

”ism”を保ちながら寄せるスゴさ

もう少し若干俯瞰的な感覚で眺めると、尾崎かおりismはどこにいっても尾崎かおりismなんだけれど、掲載誌に沿ったテイストに物語もキャラクターもカラーが寄っているというのがすごいところ。これは組んでる編集さんがすごいのか、本人の才覚によるものなのか、現場を知らないのでわからない。けれど、『犬とサンドバッグ』は確かにスピリッツ系、それも月刊だよな…という感覚がするし、『神様がうそをつく』は確かにアフタヌーン系だ。

一緒に年を取っていきたい

年齢を重ねると若い時の尖っていたところが、まろやかになるケースが多いし、それは作者と同年代のわたしにとっても同じことであり、言い換えると良い意味で世界に対して図太くなれたということでもあり、より生きやすく、自分が出しやすい世界線に降り立ったような感覚がある。彼女もそうだったらいいな。年齢を重ねて、より作家性を世の中に伝わりやすい形で表現できるようになったのなら、これほどうれしいことはないし、一緒に年をとり、できるだけ長く、彼女の作品を読み続けていたいと願ってやまない。

いつぞやの新書館Wingsの「パームブック」だったかな。そのあたりで、伸たまき(元・獸木野生)先生が、当時の編集長で担当だった関口氏に「雑誌は色々なジャンルを包めるような媒体でなければならないし、そうあるべきだ」(うろおぼえ)というようなことを言われた、と書いておられた。わがままかもしれないが、紙媒体にはやっぱりそうあってほしいんだよねえ。

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