氷雨の旅日記−英雄の街前編
ある町に来た。
その街は昔にドラゴンを退治したという英雄伝説があると聞いた。
約300年程前のことで、生き証人はいないが、代々街長が語り部としての役目を受け継ぎ、旅人に語っているのだと聞いた。
街長の家に伺えば、街の歴史書まで取り出して随分と雄弁に伝説を語ってくれた。
茜色が言葉では言い表せない程美しいブルードラゴンである僕の翼の色になるくらいに街長は長く、長く語った。
「…ざっくりとした粗筋にすると、街の美しい娘を狙ったドラゴンが、娘を奪う為に度々村に悪さをし街を困らせていたが、ある時この街を訪れた英雄がドラゴンを討伐し、街に平和をもたらした。」
「おや、随分と簡略化しましたなあ。…まあ、それでいいでしょう。」
「ありがとう。帰ったらみんなに話す。」
そう言って僕はさっさとこの家から、街から去った。
街を出る直前まで追いかけられて夕食に誘われたが、断った。
「…本当は泊まっていく予定だったんだけど、急な予定を思い出してねェ。いやあ、実に残念だ。」
街を出たときに街長に言い捨てた台詞を反芻した。
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