氷雨の旅日記~英雄の街後編

街を出た僕はギルドに帰る前に英雄がドラゴンを倒したとされる遺跡に立ち寄った。

お世辞にも遺跡と言うには小さすぎるなと思った。

「ドラゴンの巨体がこんなところに納まりきるかねェ?」

僕はクククッと意味ありげに笑う。

真ん中には魔法陣があって、その中央にはブルードラゴンの鱗が封印されている。

近くに像が建てられていて、これは英雄を讃え、魔物への見せしめの為と刻まれていた。

「…人が立ち入ることは出来ず、もし封印を解けば街は魔物に襲われる、か。」

僕の表情がスッと消えた。

「…此処は気高きブルードラゴンがこの地の民との契約で魔物から守っていた」

魔法陣に手を向け横にスライドさせた。

封印は解け、鱗がぽつんと残る。

「…人間は元々住み着いていた魔物共を追い出して街を造り…そして取り返そうとした魔物共に襲われた。因果応報だった。」

鱗を広いあげた。これは紛れもない僕のものだ。

「当時僕はここ一体を住処としていた。そこへ人間が入り込んで…僕に害を加えた訳ではないから無干渉でいた。」

今でも鮮明に思い出せた。

「そしたら…一人の青年がやって来た。僕を、ブルードラゴンを祀り讃えるから、ここらの魔物を追い払い、僕の住処を変えてくれと。割に合わないから最初は突き返した。でも、青年は毎日ここに通った。僕は最初は相手にはしなかったけど…そのうち僕は青年を気に入った。どうしてかはわからなかったけど。」

僕は姿をヒトからドラゴンに戻した。

遺跡は、かつて僕を祀るものだったものはなくなってしまった。

「とうとう僕はその話を受け入れた。ここに殿を設置し、魔物を払うまじないを鱗にかけた。」

それ以来、今日になるまでは僕はここに来なかった。

まじないの効果が薄れる頃だからかけなおしにきたのだが、

「どうして、どこで僕が討伐される話になったのか。あの青年が、僕を出し抜いたのか。それとも、街の者が都合よく話を改ざんしたのか。」

真実はもう二度と知ることができない。

「…どちらにしろ、これは契約破棄だ。まじないはかけなおさない。いずれあの街は、魔物たちの対処をせざるを得なくなる。縋るものがなくなった彼らはどうするのかは…僕の知ったことではない。」

ふわり、と翼を羽ばたかせ、ギルドへ帰ろうとした。僕の巨体が浮く。空と体色が同化する時間帯だから、そう簡単に僕のことは見えまい。

「…英雄なんて本当は何処にもいないのかねェ」

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