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ジェムカンクエスト!第1話「宝石に導かれた少女たちの物語」

 その夜、4つの煌めきが星空を裂いた。
 輝きに反応するように8つの光が地上を覆った。
 崩れかけていた世界の運命が廻りだす。

 流れ星の一つは王国の城下町、その一角に落ちていた。
「わぁ、すっごく綺麗な色。メロンソーダみたい……!」
 珠音ウタは城下町に住んでいるごく一般的などこにでもいる町娘。朝食用のパンを買って帰る途中、路地裏に落ちてきた翡翠色の小さな宝石を見つけた。
 ウタが拾い上げてじっくりと見てみると中の模様がぼんやりと揺らいでいるようにも見える。
「誰の落とし物なんだろ。うーん、やっぱりこんな立派な宝石を持ってる人といったら……」
 この付近に住んでいるのは特別貧しくも富んでもいないごく一般的な民衆。とてもじゃないがこんな立派な宝石を持っているとは思えない。
 そうなるとウタが思い当たるのはただ一人。
「綺麗な宝石だし、やっぱり王様のものなのかな。明日にでも王宮に届けよっと」
 この拾った美しい宝石を自分の物にするという欲が出てこない辺りが珠根ウタという少女を表していた。

 ウタはその日の夜、夢を見る。
 それは一人で泣いている少女の夢。
 ウタは何故少女が泣いているのか分からないけど、すごく悲しんでいる事だけは分かった。
 泣いている彼女に手を伸ばそうと、声を出そうとするも体は動かない。
 ウタと少女の視線が交わる。少女の黒い双眸に吸い込まれてしまいそうな感覚が包み込む。
「……あなたが私を救ってくれるの?」

 ウタは小鳥の囁きと朝日を浴びながらいつも通りの朝を迎える。
 昨晩の夢の中で出会った少女をぼんやりと思い出しながら、少しばかり乾いてしまったパンを口にする。
 ウタは机の上に置かれている翡翠色の宝石を眺めると、その宝石は陽の光を取り込みキラリと反射する。
「そういえばこれ、王様のところに持ってかないとだ」
 ウタは残っていたパンを口に放り込み、普段から自作して愛飲しているアマザケで流し込む。
「そいっ!」
 ウタは朝が特別強い訳では無いので、やっぱり少し眠たいけどお気に入りの言葉で気合いを入れると、手早く着替えて朝市でわいわいと賑わう城下町を駆け抜ける。
 大きくて立派な城門の前に立っている衛兵さんが近寄ってくるウタを見かけてにっこり微笑む。
「やぁウタちゃん、おはよう」
「おはようございます!」
「こんなところまで来るとは、今日はどうしたんだい?」
 衛兵はニコニコとした笑顔でウタに尋ねる。
「昨日これを拾って、多分王様のかなって持ってきました」
「落し物かぁ、わざわざ届けてくれるとは流石ウタちゃんらしいね。どれ、一体どんなものを拾ったの・・・・・・やら・・・・・・」
 ウタがポケットから取り出した翡翠色の宝石を見た瞬間、衛兵の顔色が変わる。
「・・・・・・これをウタちゃん、君が拾ったんだね?」
「は、はい」
「分かった、ちょっと待っててくれ」
 衛兵は急いで城門の内側に引っ込む。しばらく城門の前で待っていると衛兵は1人の老人を連れてきた。
 老人は青い宝石がついた杖をついているが、見た目の年齢に対してその眼光はどこか鋭い。
「お嬢ちゃん、拾ったというその宝石をワシにも見せてくれんかの」
 ウタがおずおずと差し出した宝石を老人は目を見開いたり逆に細めたりしてひとしきり眺めたあと、ウタの手に宝石を返してきた。
「間違いない。どうやらこのお嬢ちゃんが最後の一人じゃろうて」
「そうですか、では・・・・・・」
「ああ、ほかの方と一緒にお連れしなさい」
 衛兵は老人に頷くとウタに振り返り、さっきより少し強ばった笑顔で話しかける。
「申し訳ないけどウタちゃんには今から王様と会ってもらう。詳しい話はそこで聞くといい。その宝石のことも・・・・・・これからのことも」
 ウタは状況がよく分からないままに衛兵に連れられて城門をくぐる。
 衛兵に連れられて初めて入った王宮の中をぐいぐいと進んでいくと、数ある部屋の一つに入るように促される。
「呼ばれるまで他の人と一緒にここで待っていてくれないかな」
「わ、分かりました」
 衛兵によって案内された部屋の中では3人の女の子が同じように待機していた。
 1人は女戦士だろうか、ピンク色の髪の毛に赤い鎧をつけて大きな斧を壁に立てかけている。
 もう1人は栗毛の髪の毛でその小さな体を思っきり縮こませて部屋の隅っこに座っている。
 最後の1人は・・・・・・椅子を2つ使ってうつ伏せになりながらぐーすかと寝ている。
(私は入る部屋を間違えたんじゃないかな・・・・・・?)
 ウタは気まずい空気に耐えきれず、背丈が同じくらいだからという理由で壁際で姿勢よく立っている女戦士に話しかける。
「あのー……私は珠音ウタって言います。お姉さんの名前はなんですか?」
「私の名前は桃丸ネクト。多分、同い年くらいだから敬語はいいよウタちゃん」
 ネクトと名乗った女戦士はキリッとした表情から一転、ニコニコとした笑顔に変わる。先程までの凛とした表情はどうやらウタ同様に緊張していた様で今の笑顔がネクトの本来の表情である事が分かりウタはホッとする。
「ありがとう! えーっと、ネクトちゃんはどうしてここに連れてこられたのかは知ってる?」
「私はこの城の兵士なんだけど、今朝の巡回中に高そうな宝石を拾ったから、その報告を上司にしたらここに連れてこられたんだよねー」
 ネクトの手の中にもウタが拾ったものと同じような桃色の宝石があった。
 すると部屋の隅にいた小柄な女の子もその話を聞いていたのか、すすすすすっと駆け寄り2人の顔を見つめてくる。
「ナニヌも同じような宝石を拾ったんじゃ!」
 ナニヌと名乗った少女も何故か涙目になりながらプルプルと震える手で握りしめた宝石を見せてくる。
 ナニヌの宝石はネクトの持っている宝石の色より少しだけ淡い桃色だった。
「ナニヌはこれを拾って綺麗じゃったからアクセサリーにしてたんじゃが、嬉しくて踊っとったら兵士さんがナニヌをここに・・・・・・やっぱり自分のものにするんじゃなかったんじゃ、きっとこれから王様に罪を問われてナニヌは死刑になるんじゃあああ!」
 わんわんと泣き始めるナニヌを見て可哀想に思ったのか、ネクトがハンカチで涙と鼻水でびっしょびしょになっていたナニヌの顔を拭いてあげていた。
「ウタもネクトちゃんも拾って正直に届けてて、それでもここに連れてこられているから・・・きっとナニヌちゃんも大丈夫じゃないかな?」
「そうだよ、それに誰のか分からないものを拾っただけで死刑になんてなってたら大変だよ!」
「ナニヌ、死刑じゃない・・・・・・?」
「うんうん、きっと大丈夫だよ!」
「よ、よがっだぁぁぁ!!!」
 安堵のあまり、また号泣するナニヌ。
「うーーーん・・・・・・なんやうるさいなァ」
「あ、起きた」
 ナニヌちゃんがようやく泣き止んだと思ったら、椅子に突っ伏して爆睡をしていた女の子がむくりと起き上がる。
(猫の耳・・・?)
 3人が同時に見ていたのは少女の頭についていた猫耳だった。
 少女のつぶらな瞳を眠そうに片手でこすっている様子はまさしく猫そのものではあったが、残念ながら尻尾は生えていない様子。
 ウタのお猫様センサーが反応しかけたが、横で同じような反応をしているネクトと目が合う。そしてお互いが大の猫好きであると即座に理解する。
 2人はがっしりと固い握手をして、その様子をナニヌが横で呆然と見つめていた。
「・・・あぇしの名前は水科アオイや」
 アオイと名乗った少女は部屋の雰囲気を察したのであろう、簡素な自己紹介だけをして再び寝ようとする。
「ちょい待ちぃ、アンタも宝石を持っとるんか?」
「……ん」
 うつ伏せになりながらも手だけを上げる。その指先には群青色の宝石が輝いていた。
「夜空を震わせようと夜通し歌ってたら・・・これがあぇしのとこに落ちてきてん・・・それを拾って道端で寝て・・・起きたらここやったんや・・・・・・むっちゃ眠いねん・・・・・・」
 アオイは最後の力を振り絞ってそう言うと、またすやすやと眠り出してしまった。
「朝まで歌ってたって、アオイちゃんは旅の詩人さんか何かなのかな」
「全く、変な子や」
 ウタとネクトは目を見合わせて、2人でさっきまで号泣していたナニヌを見つめる。
「とりあえず、ここにいる全員が宝石を拾ってここに集められたってことだけが分かったね」
 何故連れてこられたのかという謎の一つが分かって3人が安堵していたのも束の間、先程の衛兵が部屋にばたんと入ってくる。
「さぁ皆、王様との謁見の時間だ。くれぐれも粗相のないように」
 衛兵はそう告げると、少し渋い顔をしながら下を向く。
「あと・・・・・・この子を起こすのを手伝ってくれるかい?」
 再び爆睡モードに入ってしまったアオイを部屋にいる全員がため息と共に見つめていたのだった。


あとがき
秋さん「はい、という事で完全に秋さんの趣味全開の小説『ジェムカンクエスト!』第1話『宝石に導かれた少女たちの物語』でした。アイデアはしろのさん(@shirono7)のジェムカンクエスト!のイラストからですね。今回のサムネの許可を頂いたり、いつも素敵なイラストをありがとうございます!」
アオイ「でもこれあぇし描かれてないで」
秋さん「まぁ、そこは秋さん側というか物語上の事情というか……色々あるのよ色々と」
アオイ「そこまで言うなら、そこはあんまりツッコまんどいたるわ」
秋さん「ありがとうございます。ちょこちょこと更新していく予定ではあります。応援メッセージとかあるとこれからも頑張れるかも、です」
アオイ「現金なやっちゃな」
ナニヌ「ナニヌは賢者になれますかびっくりまーく!」
秋さん「夢は諦めない限りいつかきっと叶うんだよ、うん……(遠い眼差し)」
ナニヌ「……」
秋さん「という事で次は王様との謁見、少女たちの願いとこの世界についてのお話です。是非とも次回もお楽しみに!」
アオイ「ばいにゃーん!」

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