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ジェムカンクエスト!第2話「手にした力は誰の為に」

 ぐーすかと寝続けるアオイを全員でなんとか起こすこと10分。
 4人は王の間へと案内されて、この国を治めているサイトー王と向かい合っていた。
 サイトー王は威厳たっぷりに王座に座っていた。
 ウタはサイトー王を何度か遠くから見かけたことがある程度。
 ただの町娘であるウタが王様と直接話す機会などあるはずがなく、今更になって王様と向き合っているという現実に緊張で足が震えてしまっていた。
「4人とも顔を上げてくれ」
 そう言われて3人が顔を上げる。下を向いたまま寝ているアオイをナニヌが急いで起こす。
 サイトー王は4人の顔を見ながら、最後にウタが先ほど城門で会った老人に話しかける。
「ではこの子達で間違いないんだな?」
「はい、彼女達こそが宝石に選ばれた子達"ジェムズ"に間違いないかと」
 サイトー王は老人に頷くとウタが持っていた翡翠色の宝石を見つめる。
「・・・かつてこの世界を魔が覆った。その時、天から降り注いだ宝石に選ばれた少女達が魔王を退けた」
 サイトー王が何かを思い出すように語った物語はこの世界に生まれた人々なら知らないはずがない有名な伝説の一節だった。
「宝石に選ばれた少女達のことを"ジェムズ"と我々は呼んでいた。彼女達は世界の滅亡をもくろむ魔王を激闘の果てに遂に倒したのだが、今なお世界にはキメラと呼ばれる魔物が蔓延っておる」
 キメラと呼ばれるピンク色の魔物が現れるようになって数年。世界の脅威であるとして各国はキメラ討伐を行っているが、今なおキメラの根絶はできないでいる。
「混乱が起きないように民たちには告げてはいないが・・・・・・」
 サイトー王はためらいながらも一呼吸おいて告げる。
「魔王は今現在も生きている」
 ウタはこの事実に関して衝撃を感じる、というよりはやっぱりそうなのかという感覚が強かった。
 国王による公言こそされていないが、かつて魔王が世界を滅ぼそうとした頃と似ていると民衆はうっすらながら感じていた。
「そこで新たなジェムズであるお主達の力で、魔王を今度こそ討伐してほしいのだ」
「無理無理無理無理無理ムゥリィ!!!」
 ナニヌが大人しくしていたと思っていたら急に王様相手に叫びだす。
「ナニヌはただの踊り子じゃけん、宝石に選ばれたからって魔王と戦えるわけじゃないんよ!!!」
 ナニヌはかつてないほどの剣幕で自分の無力さを全力で伝える。
 ウタ自身もただの町娘であり、魔王討伐どころか魔物と戦う事など出来るはずないと声に出さず同意の頷きをこっそりする。
「お嬢さんたちが拾った宝石。それにはジェムズであるお主たちの力を引き出す力がある。無理かどうかはまずはそれを見てからだ」
 4人は各自の掌に載せたジェムと呼ばれた宝石を見つめる。 
 杖の老人が困惑する4人に優しく語り掛ける。
「まずはこうありたい、こうあってほしいという願いを。そしてその為に必要なものを心の中で強く想像しなさい」
「こうあって欲しい願いと、その為に必要なもの・・・・・・」
 ウタの中にある想い。
 そして夢の中に出てきた少女の悲しそうな横顔を思い出す。

(もし私に戦う力があるっていうのなら、誰かの笑顔を守る為にその力を使いたい・・・・・・!)

 そう願うと同時、ウタの握りしめた宝石から翡翠色の光が溢れ出す。
 同様に残りの3人からも宝石の光が溢れて王の間を包み込んでいた。
 ウタが次に目を開けた時には、握りしめていた宝石の代わりに剣の柄らしきものを握りしめていた。
「宝石にはお嬢さんたちの”願い”による『特性』、そして戦う為に必要な『ジェムズアームズ』と呼ばれる武具を具現化させる力がある」
 ジェムズアームズと呼ばれたウタの剣の刀身は金属ではなく、淡い翡翠色の光が剣の形に伸びていた。
 ウタが持つには少し大きいが、その大きさの割には不思議と重さは感じなかった。
「ワシの杖についておる宝玉でお嬢さん達の特性が大体じゃが分かるようになっておる」
 老人はまずナニヌに向き合い、手に持った杖についている青い宝玉を通してナニヌを見つめる。
「情熱に燃える桜色……お嬢さん、お主には"活性化"の特性が発現しておるようじゃな」
「カッセイカって、なんじゃ?」
「簡単に言うと他のものを元気づける力じゃ」
 それを聞いたナニヌはパァっと顔を明るくさせる。
「ナニヌは誰かを傷つけたり、他の誰かが傷つけられたりするのは嫌じゃけん、皆を守りたいーって思ったんよ!」
「……優しい子じゃな。その特性は『誰かを支える力』と言った方がええかもしれんの。それと持っているその盾は……」
 ナニヌが手に持っていたのは森によく生えているキノコの形をした大き目の盾だった。
「これはエリンギシールドじゃ!」
 ナニヌはちゃっかり名前を決めていた。
「おそらくただの盾としての役割だけではない。障壁を張る力があると見える。その力を使えば離れている味方を守る事も出来るじゃろうて」
 老人はそれだけ言うと今度はナニヌの横にいたアオイに向き合う。
「澄み渡る夜の蒼。特性は”音”となっておるが、これは……また……すごいのを出しおった」
 アオイの横にそびえ立つ巨体を見て老人は言葉を詰まらせる。
 それは2mを超える身長の巨大な黒猫のぬいぐるみだった。
「にゃんさん!!可愛い!!!」
 大きな猫のぬいぐるみを抱いて眠るというウタの密かな夢のカタチがそこにあった。
「ああ、これは猫ちゃうで。乳酸菌くんや」
「乳酸菌くん……?」
 アオイはようやく目が覚めてきたのか、ハッキリと巨大なぬいぐるみの名前を言っていた。
「あぇしが願ったのは『ずっと歌っていたい。歌で世界を救いたい』や。多分やけど乳酸菌くんはあぇしのパートナーでボディーガードやねん」
 アオイは愛情たっぷりの眼差しを乳酸菌くんと呼ばれた巨大ぬいぐるみに向ける。乳酸菌くんと呼ばれた巨大ぬいぐるみもアオイを見つめていた。
 しかしアオイに起きていた変化はそれだけではなかった。
「乳酸菌くんとは別にもう一個出ててな、あぇしの使ってた楽器も宙に浮くようになっとんねん。これめっちゃ便利や」
 アオイの手元にはキーボードと呼ばれる楽器が確かに空中に浮いていた。
「ふむ、音楽に特化した特性のようじゃが……こればっかりはワシにもよう分からんわい」
「なんとなくやけど、やるべきことだけは分かっとるから安心しぃや」
「わぁ! めちゃめちゃ高い!」
 気が付けばナニヌが乳酸菌くんに抱っこされていた。
 ウタはその光景を見てちょっと羨ましかった。
「ふむ、なら良いかの。さて最後じゃが……」
 老人がネクトに視線を移すと、ネクトはその手に先ほどまで持っていた大斧の代わりに大きなハンマーらしきものを持っていた。
「今度こそにゃんさんだ!!」
 ウタが見たそのハンマーらしきものとは、巨大な灰色の猫そのものであった。
 長く伸びた尻尾を柄として叩くべきヘッドの部分が巨大な肉球となっている。しかも眠そうな顔をした猫の顔までついているのだから、傍から見ると巨大な猫の尻尾を握りしめているようにしか見えないのだ。
「私の力で悪い奴は全員ぶっとばしてやるーって思ったらこのハンマーが出てきたんですけど……」
「強靭なる意思の桃色。特性は……”狂戦士”」
「全然可愛くない!!」
 ネクトは具現化した可愛い猫の武器に対して、老人から告げられた特性に目に見えてガッカリしていた。
「キョウセンシってなんじゃ?」
「んあー、とりあえずガンガン戦っていく人みたいな感じやないんかな」
「大まかそんなところじゃな。基本的な身体能力の向上は感じれるが……果たしてどのようになるのやら」
 老人にもこれ以上はお手上げのようだった。
「なんか私の時だけ雑じゃない!?」 
「まぁつこうてみんと分からんっちゅーことやな」
 アオイと乳酸菌くんが腕組みをしながらしたり顔で頷いていた。
「にゃん丸ハンマー、頑張ろうね……」
 ネクトは若干涙目になりながらハンマーについている肉球をぷにぷにと触っていた。
「さて最後はお嬢さんじゃな」
 老人が杖先についた青い宝玉を通してウタを見つめる。
「癒しの風の翠色・・・やはり、お主が"浄化"の特性を持っておったか」
「浄化ですか?」
 老人はウタを見つめながらウタの持つ特性の本質を告げる。
「おそらくじゃが、お主の持つ剣には魔の存在や負の感情といったものを断つ力が備わっておる。特殊な武器ゆえ普通の物質は切れんわい」
 ウタは思い切って光る剣を床に突き刺そうとしたが、刀身はするするっと沈んでいき柄まですっぽり埋まってしまった。慌てて剣を抜き出しても床には傷一つ付いていない。
「そっか、お野菜は切れないのかぁ・・・・・・」
「はっはっは、そんなとこじゃの」
 落ち込むウタに老人は愉快そうに笑っていた。


あとがき
秋さん「ジェムカンクエスト! 第2話『手にした力は誰の為に』でした、いかがでしたでしょうか?」
ネクト「にゃん丸ハンマーの商品化をお願いします!」
秋さん「ちょっとモンスターをハントする系のところから怒られそうなのでパスです」
ウタ「ウタの光る剣にも名前が欲しい!」
秋さん「そいそいソードですね、語呂がいい」
アオイ「なぁ、あぇしこれから2mの乳酸菌くんを連れ歩くの大変なんやけど」
秋さん「ジェムズアームズは基本的に宝石の形に戻っているので使いたい時に出し入れ可能です。ただ乳酸菌くんが宝石に戻ってくれるかどうかは乳酸菌くんに聞いてください」
ナニヌ「ナニヌ、踊り子なのに盾なん……?」
秋さん「そこは腕輪の案もあったんですけど、武具として分かりにくいのとインパクトがないので盾になりました……あとイメージとして某盾のアニメの影響も若干あります」
アオイ「障壁っていうかバリアも張れるしな……」
秋さん「次の話ではいよいよ4人の旅立ちと大きな悩みと小さな悩み、そして初めての戦闘まで……いけるといいなぁって感じです。それでは次回のあとがきでまたお会いしましょう!」
ネクト「ここまで読んでくれてありがとーっ! おつねくとー!」

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