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舞台撮影 その2〜AIは闇中の光となるか〜

●前回からの続き。


舞台写真というジャンルが抱えるジレンマについてお話ししました。
他のジャンルにはない暗さ、その中での激しい動き、そして求められる“一瞬の輝き”。

そもそも舞台の闇の中で、見たままの明るさで写すこと自体が非常に難しいわけです。
この環境下に激しい動きが加わると、ブレの問題も出てきます。
これだけ厳しい状況で、さらに「一瞬の美しさを切り取る」というのが最も重要なミッションなわけです。


さて、このお題に対して考えられる対策というのは、

「感度(ISO)を上げること」

ここでの高感度とは、舞台のジャンルや演出にもよりますが、
ISO6400から、舞踏などの暗いことが前提のジャンルではISO51200なんてことも。
ISO51200なんて、他のジャンルではまず使うことがないでしょう。
人間の視覚の限界に迫るって、なかなか大変なわけです。


そこで問題となるのが高感度撮影で生じるノイズをどうするか?

暗闇と激しい動きをようやくクリアしたと思ったら、撮れた絵がザラザラ。
そんな次の壁が待ち受けています。


そのノイズを撮るため、これまで写真家がさまざま苦心をしてきたのですが、
ここに一筋の光が見えてきました。
それが「AIによるノイズ除去」です。

今年になってから、AIによって劇的にノイズを除去し、
尚且つ画質を向上してくれるという機能やアプリが充実してきたのです。


代表的なアプリとしては、
Adobe Lightroom
DxO PureRAW
などが挙げられます。


Adobe Lightroomについては言わずと知れたRAW現像アプリの代表格。
フォトグラファーであれば基本触ったことのない人はいないでしょう。
当たり前に使うツールの中にAIによるサポートが入った。
車とスマートフォンが連動するようになったくらい劇的なことなんです。

もう一方のPureRAWもなかなか面白いアプリで、ノイズだけではなく、
レンズの特性の中で生じてしまう各種収差(色のズレみたいなモノでしょうか)
までクリアにしてくれます。


さて、ここまで話してきて、
「じゃあ実際どうなのさ?」
というのが正直なところではないでしょうか。

ここからは舞台写真の紹介も兼ねて作例を挙げていきます。


●『踊る。秋田2023』より

高橋綾子(日本/USA)『追伸』


ミーガン・ドヘニー&イリヤ・ニクロフ(USA/イスラエル)『幻』
キム・ジョセフ(韓国)『Gom-bang-yi-teot-da』


いずれも今年撮影させていただいた「踊る。秋田2023」より、
掲載許可をいただき紹介いたしました。
個人的には、秋田でこういった国際的なダンスフェスティバルがあるというのは、
元舞台人としても地元民としても誇らしいですし、舞台との関わりを強く感じられる機会でもあります。


舞台写真の中でもコンテンポラリーダンスや舞踏といったものは、
暗闇の中でダンサーを照らし出す明かりというのが実に印象的なジャンルです。
主役は光ではなく、大きな闇を明かりが彫刻刀のように掘り進めていくような感覚というのでしょうか。
その分撮影も極端に難易度が上がり、難しくもあります。


この撮影でも、ほとんどの演目が人間の目で追えるギリギリの明るさの中で
演じられていて、それがまた美しいのですが、撮影する側から見ればなかなか過酷な状況。
今回はカメラ側の設定も合わせて記載しておりますが、わかる人にはこれがいかに暗く、
また通常であればノイズだらけになるかが想像できるでしょう。

(こちらは上記のLightroom ClassicのAIノイズ除去にて仕上げています。)


散々大変だ大変だと申し上げてきましたが、この暗闇があってこそ美しいのが舞台写真の魅力。

気難しくも美しい、この闇というものとどう付き合っていくかが舞台写真の醍醐味でもあるのです。


舞台という、本来であれば形に残らなぬ儚いもの。
それをあえて形に残すというのが舞台写真。
残すのであればより美しく感動を残したいという、
写真家の足掻きのお話でございました。


次回は商品撮影についてお話していきたいと思います。
どうぞお楽しみに。

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