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あきたん2020・テンベスト短編集

天高く君肥ゆる秋。何を食べても美味しい季節ですね。
さて、この秋は神保町ではなにもないし、家から出ると家族がやいのやいの言ってきたり来なかったりでなにかと不便を抱えていることでしょう、ということで、「セルパブ秋の短編集フェア」を開催しました。
実行委の波野發作です。

私の初となる短編集も期間中に発売する予定ですが、その前に、まず「セルパブ秋の短編集フェア」とはなにかのご説明をいたしたいと存じる次第です。

セルパブとはなにか、これは「セルフパブリッシング」の略。出版社主体ではなく、著者・作家・小説家が、自作品を直接読者に販売してしまおうという社会運動です。言語を解する生物であれば、誰でもいつでも好きなときに、自分の本を世の中にリリースすることができるという出版の第三革命であります。ちなみに第一はグーテンベルグの活版印刷で、第二はDTPですね。知らんけど。

とにかく、書いた端から電子書籍でペペイペイと売り出せるような時代にもうなっているわけです。AmazonのKindleとかは有名ですね。知らない人は知らないと思ううけれど、KindleのKDP(Kindleダイレクトパブリッシング)といえば、数年前に軽く騒ぎになって、もう先駆者が何人も出ています。多くの人は小遣いにもなりませんが、中には一般サラリーマンの月収ぐらいになっている人もいるので、ワンチャンあるかもとみんな頑張っているわけです。

で、「秋」。それは夏の次、冬の前、9月〜11月に相当する季節のこと。スポーツの秋、食欲の秋、そして読書の秋として、古来我が国で親しまれてきた、有力な読書シーズンであります。例年であれば神保町ブックフェアなどの企画が目白押しなのですが、今年はもうコロナコロナでどうしようもない。そこで、ちょっと仕掛けをしてみたというわけなのです。

今回は「短編集フェア」と銘打ったわけですが、とくに「セルパブ」の「単著」の「短編集」ということで、みなさんの知らないセルパブ短編集の世界をご紹介したいと存じる次第です。個人の作家による、アンソロジー(共著)ではない短編集を紹介して参りましょう。どれも安価ですし、キンドル・アンリミテッドという読み放題サービスもあります。それでは参りましょう。

書き散らかしのアート

セルパブですから、出版社のコントロール下で計画的に書かれたものばかりではありません。多くの、いや、大半の、もとい、ほぼ全部の作品は、作者のリビドーが放出されるがままに世に放たれた、書き散らかされた迸りを具現化したものです。長編作品と違って、思ったことを思ったまま勢いで書いたものが多いはず。だからこそ、面白い。行間に、生の人間が見えるのです。セルパブの短編集とは、そういうものです。

折れた矢

セルパブの作家の大半は、アマチュア作家ですが、中には強くプロ作家になることを志望している者も数多くいます。彼らは、なんらかのコンテストに定期的に作品を応募して、一喜一憂しているわけですが、狙いすまして放った矢が、的を得ることは稀です。多くの矢は、心中を射抜くことなく、折れて地に落ちます。しかし、丹精込めて仕上げた作品をそのまま地に埋めるのは忍びないわけで、それはいつか世に出そうと思って仕舞っておきます。そしてそれがムクリと起き上がる日が来ます。セルパブの短編集とは、そういうものです。

戦いの残滓

セルパブ作家の一部は、仲間またはライバル同士で切磋琢磨することがあります。その一例が「合評」というイベントです。定期的に作品を持ち寄ってお互いに読み、批評を交わす。ときに順位を決する。そこで生まれた作品は、いわば振り上げた拳。下ろす場所に困ったとき、まとめて電子書籍でリリースしたりします。破滅派の作家に短編集をリリースしている作家が多いのは、これが主な理由です。セルパブの短編集とは、そういうものです。

絆の束

アマチュア作家の一部は、仲間同士で手を組んで同人誌を製作したりします。それを年数回行われる文学フリマなどのイベントで発売します。あまり長編でページを独占しても人間関係が歪むので、だいたいはほどほどの短編を持ち寄ります。これを何年かやっていると、手元に短編が溜まってきます。多くの場合、同人誌に提供しても権利は手元にありますから、そのうち自作品だけで短編集をリリースしたりします。セルパブの短編集とは、そういうものです。

試食サンプルとして

アマチュア作家は、なかなか長編を読んでもらえません。面白いかどうかわからない作家の作品を金を出して買い、読みはじめてくれる読者など、SSRです。めったに巡り会えません。ですが、短いものであれば、ちょっと一口試しに召し上がっていただくことも可能です。こんな面白いんだから、長くても安心ですよ、とアピールするために短編を書くことも少なくありません。そのうち手元に何本か溜まってきます。セルパブの短編集とは、そういうものです。

テンベスト2020をご紹介

セルパブ作家の短編集はすでに世の中に無数にあるわけですが、私の目の届く範囲でマスターピースと呼べるものを10点ピックアップしてご紹介します。これはマイ・コレクションの一端です。とくにオススメしやすいものになっております。ネタバレにならない範囲で読み味などお伝えできればと思っています。多くはKindleUnlimited対応ですので、安価に読むこともできますよ。
10点紹介しますが、順番は良し悪しを示すものではありません。とっつきやすい順と、いう感じにはしてあるかなと思いますが、どの順で読んでもいいですよ。

表題作がまずオススメ。地球まるいさんは文体にクセがなく、するする読める非常に上手な作家さんですね。最近は新作があまり出てこないですが、また出てくるものと期待しています。1本が短いですし、最初の1冊はこれで決まりでしょう。

牛野小雪さんは「うしのしょうせつ」と読むんですが、多作で、上手な作家です。たまに休眠期間があるので、seasonで区切っているようですが、今はseason3になっています。紹介するのはseason1の時代のもので、この中の『ベンツを燃やせ』をオススメします。本人も当時自薦していた自信作のようなんですが、まあ読んでる間ずっとニヤっとしている自分がいると思います。映像化してほしいなあ。

ふくだりょうこさんは、NovelJamという文芸ハッカソンのイベントで同じチームになったこともあって、交流のある作家さんなんですが、とにかく書くことが可愛い。とくにこの短編集は、願望なのか要望なのか妄想なのか知らないがとにかくめろんめろんなボーイ・ミーツ・ガールがいっぱいで、俺も來世ではこんな感じがいいな。と思わせる。オススメは表題作。ちなみに表紙デザインはわたくしですよ。

白昼社の泉由良さんは、文学フリマでも以前から長く参加している作家さん。こちらの1冊はちょっとクリアでぱきっとした感覚の作品が多い。というか言葉選びのセンスがピカイチで、どの文を切り出しても存在感が強い。Twitterで流れてくるセンテンスも、つい目を止めてしまう。読み飛ばしたり、聞き流したり、できない。どうしてもこちらの脳や胸に傷跡を残そうとして容赦なく刺してくるのだ。とにかくまずは『赤いマチネとブルーのソワレ』を読もう。話はそれからだ。

「破滅派」というケッタイな名前の文学投稿サイトを主催する高橋文樹さんの短編集。いくつも文学賞を獲っているのは伊達じゃなく、ピカイチの業師だ。本来はセルパブの土俵の人でもないのだろうけど(実際、商業誌にもちょくちょく書いている)、破滅派のリーダーとして文学こじらせ民を導いている。ただ、どこへ向かっているかは誰もしらない。そうだな、どれも面白いけど、『僕は不倫をしたことがない』を読んでみるといい。そしてゴールデン街で会おう。そのうちね。

ここ数年、文学シーンをウォッチしていて佐川恭一さんの名前を聞いたことがないというのであれば、それはちょっとアンテナが低すぎる。もう少し自分の作品以外も気にしたほうがいいだろう。いや別に無理にとは言わんけど。とにかくポップ&エロの青少年のリビドーをえぐりまくる作風は絶大な人気を誇っている。セルパブの範疇には収まらないんだけど、破滅派などからたくさんリリースしている。ま、これは頭から順番に読むのがいい。最初の作品は『光のそと』だ。それを読んでしまったら、もう巻末の奥付までノンストップだろう。

隙間社の伊藤なむあひさんはオルタニア時代からの付き合いであるし、ぼくと同じ頃にセルパブ界に身を投じた同志であるのだが、若さに乗じてものすごい勢いで伸びているので、もう全然追いつかない。昨年はあのブンゲイファイトクラブ(BFC)の本戦への出場を果たすなど、だいぶ知名度も上がっている。独特の文体や世界観はファンも多いし、メジャーデビューまであともう数歩でいけるんじゃないだろうか。ぼくが好きなのは『来たときよりも美しく』かな。伊藤さんは気持ち悪い空間を描くのがめちゃ上手いんだけど、一人称が複数形で最後まで全部行くのが、めちゃくちゃ気持ち悪い。病む。だがそれがいい。読めばわかる。

藤城孝輔さんは、破滅派合評でもよく一緒なのだけど、なにより第3回NovelJamでチームメイトとして戦った仲なのである。なので好き放題言わせてもらうが、とにかく上手いんだよ。この人。大学で英語を教えるぐらいなので語学センスがもう常人の域ではないのだけど、とにかく構築した世界の色彩感覚がビンビンに尖っている。そういう書き方。それでいて、騙してくるし、仕掛けてくるから油断できない。だいたいはニコニコしてるんだけど、目は笑ってないことが多いな彼は。うん。二十四作品も収録されているので、オススメはどれがいいか悩むけど、『Sガワで逢いましょう』かな。

壮大な超大設定の長編SFや、童話的な世界観の物語が得意な淡波亮作さんだが、小気味の良いSF短編も得意という全方位に死角がないパーフェクト作家である。さらに言うと、実は音楽もプロ級で、CGもプロ、いろいろプロで人間的に死角がない。家庭人としても超一流である。ぼくとは名前が似ている(同一人物説もあるw)が、人間性は真逆もいいところなので、光の淡波、闇の波野と覚えておけば間違いはない。オルタニアを一緒にやっている同志でもある。この短編集からは『きわめて効率の悪い誘拐』をオススメしておく。

セルパブを語るとき、ヤマダマコトさんに触れないでいられるはずがない。セルパブ界随一、ヒット作最多(推定)のザ・ヒットメーカーである。なんならプロ諸兄と並べてもいいと思う。遜色ない。基本的に長編を手掛ける作家なのだけど、短編集もある。ていうかこれまで書いた短編全部ここに盛り込んでいるんじゃないだろうか。お得すぎるじゃん。で、オススメは『鳥葬』。てかこれ短編なのかな?w とにかく設定、展開、描写が濃密。映像化してほしいなあ。ジャンルは、ホラーなんかな? まあとにかく読め。読めばわかる。

おまけ

上記諸兄に並べるのは恐縮ではあるのだけど、わたしの初の短編集、もうすぐ出ます。あきたんのフェアの期間中には出します。
タイトルは『マニまに』。なんつーか「波の間に間に」ってことです(ダジャレじゃねえか)。「マニ」にはいろんな意味があるので、短編集にはちょうどいいかなってね。
短編はこれまでだいたい30本ぐらい書いてたんだけど、そこから絞り込んでイケてる上位13本だけを収録します。未発表も2本あります。乞うご期待。

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