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少数の原理を活用する(その4)

概要

本エントリーは前回に続き、『ソフトウェア品質のホンネ』に寄稿した記事の復活です。

内外の原理

これまでの連載で、“上下の原理”と“左右の原理”を使用することで問題を分析し、“前後の原理”で既知の解決策と未知の解決策へのアプローチができることを説明しました。
しかし、なかなか解決策が見つからない(場合によっては解決策が存在しない)やっかいな問題にぶつかることもあります。このような場合には、“内外の原理”を使用します。

過去の論文に当たっても「今後の課題」の章に載っているだけで「解決策が示されていない問題」が世の中にはたくさん残っています。そのような場合、問題を抱えている現場に飛び込んで一緒になって仮説創造していこうという話を前回書きました。
しかし、1週間が過ぎ、2週間が過ぎ、解決に至る仮説も考えつくして煮詰まってしまう場合もあります。そのようなときに、問題のとらえ方を根本から変えると打開策が見つかる場合があります。

・ 問題の内側に入り込む

“上下の原理”で問題のブレークダウンについて説明しました。問題の内側に入り込むとは、問題の分解を超えて、まったく違う相にまで入り込むことを意味します。

たとえば、ガン治療において、CTで病巣を調べ、さらに血液検査や、細胞を詳細に検査していくところまでが問題のブレークダウンだとすると、それを超えて遺伝子まで入り込むことでガン治療に生かせる何かを見つけられないかと考えることを内側に入り込むと呼んでいます。現在は、ガンと遺伝子の関係が見えてきましたので、遺伝子治療は内側でなくブレークダウンになるかもしれません。すなわちいいたいことは、果関係があるかどうかさえはっきりしないときには、相を超えて問題に切り込んでいく」ことを内側に入り込むと呼んでいます。

技術の例でいえば、ソフトウェアテストのブラックボックステストの項目数がなかなか減らないという問題があったときに、まずは、ブラックボックステストをテストタイプごとにブレークダウンして、テスト項目を削除する活動をすると思います。しかし、そうしても仮説が見つからないときには、ブラックボックステストの定義を超えてソフトウェアのアーキテクチャーやプログラムコードまで入り込んで活路を見出そうとするかもしれません(実際にそういうテスト方法をグレーボックステストと言います)。このように定義の枠を超えて内側に入り込もうというわけです。

「定義の枠」とはその人の「思考の枠」に他なりません。煮詰まってしまったときに頭を切り替えてさらに内側(それもこれまでの思考の枠から全く違う性質をもった領域)に入り込めないか検討してみてください。そうすることで、これまでとは性質が違う解決策が見つかることがあります。

・ 問題を外側から眺める

問題解決の最終手段は「問題を外側から眺める」方法です。問題からいったん離れて遠くから全体を俯瞰することで「問題を含むサブシステムを別のものに代替できないか」と考えてみたり、「問題を解決するという発想を変えて、問題と共存できないか」を模索したりします。
しかし問題から離れて客観的に問題に向き合うことは、「言うは易く、行うは難し」(塩鉄論利議より)で、なかなかできることではありません。

今回『少数の原理を活用する』で挙げた、上下、左右、前後、内外のなかでこの“外”が一番難しいと思います。その理由は、外へ離れる方法は無数にあるからです。
そこで、私なりのコツですが、逆説的になりますが「離れようと思わずに、ずっとその問題について考え続けていること」がお勧めです。もちろん、考え続けると頭が痛くなるので実際には「頭の片隅に置いておく」程度です。
そうすると、温泉に入るなど、リラックスした時に良い考えをハッと思いつくことがあります。私は夢の中でヒントをもらうことがあります。

また、考え続けていますと、全く違う話を聞いた時に「この話をひっくり返して結び付けたら!?」というアイデアがひらめくこともあります(そんなときは、つい「天使が舞い降りてきた」とかウキウキしてしまいます)。
また、「シンプルに考えてみる」というのも案外応用が利きます。この問題をシンプルに考えると、「優秀な人がいたら解けるのか?」、「お金がたくさんあったら解決するのか?」、「時間が無限にあれば解決するのか?」、「コミュニケーションの問題なのか?」、「感情の問題なのか?」、「ロケーションの問題なのか?」等々、、、とMECEのフレームワークレベルの粗い粒度でざっくりと眺めてみるのです。そうすると、全く同じ問題ではなくても「そういえば、似た問題があったな。あれは、誰が解決したんだっけ?」と解決の糸口が見つかることがあります。

ところで、「外側から眺める」ことは「思考の枠」を外すということです。
「思考の枠」を外すには、実はもう一つの方法があります。それは、自分一人で考えるのではなく、人を集めてブレンストーミングでアイデア出しをする方法です。
たとえば、川喜多 二郎のKJ法などを使用すると良いでしょう。KJ法をカードに書き出してそれをグルーピングするだけと思っている人は、一度、『続・発想法』を読むことをお勧めします。
KJ法には、驚くほどの知恵が詰まっています。

まとめ

最終回となる今回は、私が、“内外の原理”と呼んでいるものについて説明しました。
“内”も“外”も、思考の枠を外して自分の頭で考えるということです。「柔らか頭」とか「地頭力」という言葉がありましたが、いずれも、「自分の頭を使って考えよう!」ということです。
難しい問題に対しては、常識を踏まえたうえで、その「見方」をいったん捨ててゼロベースで新しい発想を得る(システムの境界を変える)ことがその問題の解決につながると考えています。
ところで、自分の頭で考えることの大切さを教えてくれたのは、板倉稔さんでした。板倉さんは、

学校で扱う問題は解き方はいろいろあるかもしれないが、ただ1つだけの解があるものがほとんどである。ところが、我々が扱う一般的な問題は、
・ 解があるかどうかも分からない
・ 解がたくさんある
ものばかりである。 したがって、複数ある解を層別し、価値観と論理思考で絞り込んで、最後は、エイヤ!と決断して進まねばならない。

と言います。この「エイヤ!」と決断する時に正しい決断ができるようにすることが大切です。板倉さんは続けていいます。

日本人は、遣隋使以来、海外からよい制度/概念/方法を輸入し、それを「学び活用する」ことで成果をあげるというパターンが染み付いてしまっている。
昔は、命をかけて海を渡り、厳選されたよいものだけが輸入されてきたのでそれでよかったが、今は、インターネットでミソもクソも入ってくる。ミソなら、「学び活用」することで成果がでるが、クソを妄信的によいものとありがたがって学んでも、失敗するだけである。
現代日本では、「学ぶから考える」ことが大切なのだ。

「ひっくり返し考えてみよう、端っこを考えてみよう、立場を変えてみよう」

「ひっくり返し考えてみよう、端っこを考えてみよう、立場を変えてみよう」は、思考の枠を超えて〃考える〃ということでしょう。

“上下”、“左右”、“前後”、“内外”とわずか4つの原理ですが、実はその先にはたくさんの問題解決に役立つ知識が存在しています。

緑色のカエル茶色のカエル』という本があります。5分くらいで読み終えることができるとても短い絵本なのですが、その絵本には、「汚れてくもったメガネ」と「壊れた方位磁石」と「穴の開いた水筒」の3つのアイテムが出てきます。それぞれの意味するところは、
 - 自分自身の目がくもっていて本当の物が見えていないということはありませんか?
 - 思い込みが強く考える方向性が定まらず不安を感じていませんか?
 - 知識や助言を受け入れる器が壊れていませんか?
ではないかと思っています。

素直な目で真っ直ぐに問題にたち向かい、気持ちを落ち着けて“上下左右前後内外”の8方向から問題解決を試みる。そして、それに紐づく知識習得を怠らず、また、周りの人の意見も真摯に受け止めて自分の頭で考えていけば、問題は解決し、ひいてはソフトウェアの品質向上につながると信じています。

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