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デザイン思考で考えてみた「三方一両損」

≣概要

落語の「三方一両損」という噺を子供のころに聞いたときに、納得がいきませんでした。ところが、つい先日(2019年5月10日)に慶応大学SDMの白坂成功先生の「システム×デザイン思考とアーキテクチャ思考による新価値創造」という講演を聴き、少しわかったような気がしたのでそのメモです。

≣「三方一両損」とは

「三方一両損」は、大岡越前の名裁きの代表と言われ、落語や講談やTVドラマ等で何度も演じられていますので、ご存知の方も多いのではないかと思います。史実としては江戸初期の文献にその原型があること、および、大岡越前の記録には出てこないことから創作と思われます。以下に、Wikipediaの『三方一両損』のあらすじを引用します。

左官の金太郎は、三両の金が入った財布を拾い、一緒にあった書付を見て持ち主に返そうとする。財布の持ち主はすぐに大工の吉五郎だとわかるが、江戸っ子である吉五郎はもはや諦めていたものだから金は受け取らないと言い張る。しかし、金太郎もまた江戸っ子であり、是が非でも吉五郎に返すと言って聞かない。互いに大金を押し付け合うという奇妙な争いは、ついに奉行所に持ち込まれ、名高い大岡越前(大岡忠相)が裁くこととなった。
双方の言い分を聞いた越前は、どちらの言い分にも一理あると認める。その上で、自らの1両を加えて4両とし、2両ずつ金太郎と吉五郎に分け与える裁定を下す。金太郎は3両拾ったのに2両しかもらえず1両損、吉五郎は3両落としたのに2両しか返ってこず1両損、そして大岡越前は裁定のため1両失ったので三方一両損として双方を納得させる。

≣この話のどこが気に入らないのか

さて、秋山少年は、この話のどこが気に入らなかったのかというと、大きく2つあります。一つは、「一両出して二両ずつ分けあわせるのではなく、大岡越前は、『それなら越前が仲介料として一両貰い、残り二両を一両ずつ分け合える。さすれば、吉五郎も金太郎も不要と捨てた三両のうち一両ずつを手にすることになる。これ、“三方一両得”なり。』とも裁定出来たはずだからです。ググってみたところ、これを「三方一両得」と紹介しているページもありますので、こう考えるのは、私だけではなかったんだと思います。

もう一つの気に入らなかった点は「こんな裁きをしたことが知れたら、翌日から奉行所に同様の訴訟の列ができる」と思ったからです。

吉五郎の三両が四両になって返ってきたのですから、二人が共謀して奉行所に「三両を落とした」と届け出たら「四両になる」わけです。奉行所を出た後に増えた一両を2分(0.5両)ずつ分け合えば大儲け!というわけです。(当時の1両の価値は令和元年現在でいえば、10~20万円に当たります)
こんな法の抜け穴を作るくらいなら、いっそのこと、どちらもいらないと言っている三両を大岡が召し上げて税金として江戸の人のために使ってしまう方が良いのではないか?と思っていました。こちらも「大岡三両得」でググると少し出てきますので、誰もが思いつくことなのでしょう。

以上の説明で、秋山少年が「この裁きはおかしい」と気に入らなかった理由についてご納得いただけましたでしょうか?
けど、一方で「三方一両得」や「大岡三両得」では落語や講談にはならないなってことも感覚的には承知していました。

≣デザイン思考

デザイン思考とは、イノベーティブな新しい価値を創造したり、厄介な問題(あいまいだったり、長年に渡って解決していない問題)を解決したりするための思考方法を体系化したものです。

そのポイントは5つのモードと4つのマインドセット(IDEO)にあります。

5つのモード(*1):共感、問題定義、創造、プロトタイプ、テスト
4つのマインドセット(*2):人間中心、多様性を活かす、出来るという信念、試行と経験から学ぶ
    (*1) Design Thinking: Bootcamp Bootleg
    (*2) Design Thinking for Educators Toolkit, IDEO, 2011

≣「デザイン思考」と「三方一両損」

さて本題です。私は、白坂先生の講演を聴いて、「三方一両得」や「大岡三両得」では落語や講談噺として成り立たず「三方一両損」でなければならない理由として、「デザイン思考」だからかなと思いました。

デザイン思考の言う「共感」と「人間中心」の考え方、これは「三方一両損」の人情に当たるのではと思いました。大岡越前は自分の一両を出す(それも奉行所からではなく身銭を切る)ことで吉五郎と金太郎と同じ立場に立ち、「共感」したうえでの提案になっています。

また、「三方一両損」の噺では、「三両の帰属の理を明らかにする」という問題を「三両を公平に分ける」という問題に捉えなおしています。

デザイン思考の「問題定義」のコツは問題に直接立ち向かうのではなく問題を魅力的で実行する価値がある課題にリフレーミングすることにあります。

「三方一両得」や「大岡三両得」では大岡越前に対してのみ魅力的な解決策ですよね。

≣結び

今回はお伝え出来なかったデザイン思考の前提となるシステム思考とデザイン思考を掛け合わせることによって魅力的な解決策が導き出されるのではないかと思いました。

また、「システム×デザイン思考」は白坂先生が新しく体系づけたエンジニアリング手法ではあるけれど、その効果は歴史を振り返っても見つけることができるのでは(つまりは良い方法なのでは)ないかと思いました。

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